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異世界冒犬譚2  作者: さくら
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8/24

7話

よろしくお願いします

 相も変わらず、会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。理由は明白だ。前回、参加した会議の時から何も進展がないからなのだ


会議室に入ると、席は歳のいった男達で埋め尽くされていた。自分が室内に入ると、一斉に視線が集まるのがわかった。こちらも理由は明白だ。また来たのかと言ったところだろう


なるべく視線を合わせないように、一番端の席へと着席する。ほぼ席は埋まっているのだが、この会議を取り仕切る人物がまだ来ていない


「遅れてすまんな」


がちゃり、と会議室の扉が開け放たれ一人の男が入室する。それと同時に全員が立ち上がり、男の方を向いた


それに続くように自分も立ち上がり、軽くお辞儀をする


「始めるとするか」


男は席に座るとそう言った


「私からご報告させて頂いてもよろしいでしょうか?」


自分の横に座る男が声を上げた。自分の上司でもある室長が手を上げたのだ


「なんだ?」


「はい、以前に許可を頂いた件についてのご報告をしたいと思います」


「以前? ああ、素質がある人物がいたとか」


「はい、その件ですが無事に魔法少女になりました」


その言葉に会議室がどよめく


「ほう、それで?」


「はい、未だ開花はしておりませんが、現時点でも十分に素質があると判断できております。後はいかに底上げをしていくかという事になります」


「なにか良い方法があるのか?」


「はい、それにつきましては部下から報告させます」


そう言うと室長はこちらを見る。良い報告だけは自分でしたかったのだろう。ついでだからそのまま提案も言って欲しいところだ。とはいえ、ここで愚痴った所で仕方ないので、席を立ち軽く会釈をする


先ほど以上の視線が自分に集まるのがわかる。興味というよりは煙たがられている視線なのはすぐにわかった。どの研究室も他人の研究室の手柄を聞くのは気持ちの良いものではないのだろう


「現在、私の部下の監視下で対象は順調に魔法少女として成長しています。ただ、時間がないのも事実です」


「なら、さっさとやればいいではないか」


どこからともなく野次が飛んでくる


「現時点で変わりを努めさせるのは不可能ではありませんが、確実ではありません。ご命令があれば即座に行動を移しますが、その際の責任を負っていただけるのでしょうか?」


さすがにムっと来てしまい、皮肉を口にしてしまう


「お前達が提案してきた事だ。お前達の判断に任せる。それで?」


絶対権力者の言葉に全員が口を噤んだ


「はい、ここでテコ入れが必要かと判断しました」


「ほう」


「騎士団の存在はご存知かと思います」


騎士団とはMG5が要する組織の一つで、魔法少女を援護する部隊だ。男性ではニャーゴを扱うのは向いていないので魔法少女にはなれない。その為、ニャーゴの力を宿した装備に身を包み、魔法少女達のサポートを行うのだ


「もちろん知っている」


「そこに、とある人物を押し込もうと思います」


「誰だ?」


「対象の懇意にしている少年です。名前を小鳥遊陽平と言います」


「それが魔法少女の素質の底上げとどう関係してくるんだ?」


「魔法少女の力はその精神状態の優劣で決まります。友好関係、それも特別な感情を持った相手が近くにいるとなれば、その精神状態もかなり良くなってくるはずです」


「だが、基本的に魔法少女と騎士団は互いの存在を知らないはずだが?」


「はい、おっしゃる通りです。その辺りは部下がうまく立ち回ります」


「うまくいくのか?」


「すでに根回しは完了しています。後はGOサインが出れば実行するだけです」


「わかった。必要であれば実行しろ」


「ありがとうございます」


男は深々と頭をさげる。これでまた一歩目的へと近づくのだ。そう遠くはない未来を想像すると自然と顔がニヤけていた












 長かった中間テストも最終日ともなると生徒達の顔はいずれも晴れ晴れとしていた。やりきった者、やりきれなかった者、既に諦めている者と表情は様々だ


「健太。帰ろう」


「あぁ? ああ、そうだな……」


「ど、どうしたんだよ?」


ここに一人、既に諦めた生徒がいた。神崎健太は机に突っ伏したまま、陽平の問いかけに無気力なまま答えていた


「終わった……」


「終わったって、勉強したじゃないか。そんなにひどかったのか?」


「英数は確定だ。社会、国語も怪しい。生物、情報はどうだろう?」


「ほぼ、全部じゃないか」


「もういい! もう終わったことだ! 今日はパーっとやろうぜ!」


突然、立ち上がり健太は手を広げる。もはや逃げも隠れもしないと言ったような表情だった


「ま、まあ、いいや。せっかくだし、帰りにオレンジスポーツに寄って帰ろう」


オレンジスポーツは西本市にあるスポーツ用品店だ。大規模チェーン店ということもあり、様々なスポーツ用品があるのだが、かなりマニアックな用品も取り扱っているので、スポーツをする者にとってはかなり重宝する店だった


「おう! カラオケでもなんでも行こうぜ!」


陽平と健太は明日からの部活について話をしながら、靴を取り出し校門へと向かう。既に他の生徒の大半は帰宅をしており、人の姿はなかった


それ以上に気なったのが、校門の前に見慣れない黒塗りの車が止まっていた事だった


「なんだ、あれ?」


「さあ?」


誰かの送り迎えだろうかと、車を横目に校門を通り抜けようとする


「小鳥遊陽平君だね?」


突如、黒のスーツを着た男に声をかけられる


「え?」


「おたくらなに?」


陽平が答えるよりも早く健太が前に出た。交友関係の多い健太はこう言ったトラブルも多く経験している。いざというときは頼りになる男なのだ


「君は?」


黒服の男は前に出てきた見知らぬ少年に首を傾げる


「俺はこいつの友達なんだ。で? おたくらは?」


健太の言葉に黒服の男達は顔を見合わせる


「我々はそちらの小鳥遊君に用があってね」


「ふーん、ならここで話せばいいんじゃないか? ほら陽平。なんか用事があるらしいぜ」


健太はわざとらしく声を大きくする。周りに生徒は一人も見当たらないのだが、それでもあえて健太は声を張る


「ふむ。いや、わざわざこんなところで待っていたんだから、注目されても構わないんだが。ただ、話す内容はあまり公言できるものじゃないんだよ」


そう言うと黒服の男がこちらに近づく。それを見た健太は警戒心を露わにした


「我々はこういう者だ」


そう言って黒服の男は名刺を差し出してきた


—魔法科学研究所 MG5


そこに書かれていた文字を見て、健太と陽平は驚き互いの顔を見た


「君たちに危害を加えるような者じゃないということは理解してくれたかな? 少し時間をもらえないかな? なんならお友達も一緒に来るといい」







 存在は知っていたが入った事のない施設。まさにMG5の施設はそういった存在だった。それが何の因果か車に乗り、正門からその不思議な施設の門をくぐる


「すげー……入ったの初めてだ」


健太は外の景色を見ながら口を開く


「俺だってないよ」


反対の窓から陽平も外を眺めていた


「一般の人はそこの警備員に止められるだろうしね」


前に座る黒服の男が言う。話してみれば気さくな人で、道中もずっと他愛のない仕事の話をしてくれていた。MG5に興味のある健太が食いつくように話を聞いていたのだ


「そりゃそうですよね」


「もうじき着くぞ」


車はそのまま大きな建物の前にある駐車場へと入って行き止まる


「さあ、着いたぞ」


車から出ると、目の前に白い建物が見えた。モルタルの壁で3階建てのその建物はどこか学校と似たような雰囲気だった


「こっちだ」


黒服の男についていくと中で、スリッパに履き替えさせられた


「研究室みたいだな」


健太はすれ違う室内の全てを覗き込み、興味深々といった様子だった


「この部屋だ」


そう言って一室に案内されると、室内では二人の大人が待ち構えていた


「来たか」


白髪交じりの初老の男が席を立ち、こちらへと近づいてくる。見た所、四十代後半といった優しそうな男性だった


「さあ、入ってくれ」


健太と陽平は促されるままに部屋に入り、用意されたソファへと座った


「一人じゃないのか? 二人いるぞ?」


奥の椅子に座る男が疑問を口にする


「ふむ、そう言えばそうだな」


「俺は陽平の友達で神崎健太って言います。いきなり黒いスーツの人達に囲まれたんで…… ヤバいかなって。話したら全然やばくなかったんですけど」


頭を掻きながら説明すると、二人の男性が苦笑する


「まあ、いきなり黒服の男が来たらそうなるか。まあ、いいさ」


初老の男が二人の前に座る


「まずは自己紹介からかな? 私は中村徹という。そっちに座っているのが在源総一郎(ざいげんそういちろう)だ」


「小鳥遊陽平です」

「神崎健太です」


「うん、さて、小鳥遊君を呼び出した理由について説明させてもらおう」


中村は立ち上がり、部屋に備え付けてある小さな冷蔵庫を開けると、ペットボトルを二本取り出し、テーブルの上に置く


「単刀直入に言おう。君には仮面の騎士団に仮入隊してもらう」


「「え!?」」


陽平と健太はほぼ同時に声を上げた


「驚くのも無理はない。こちらもこう言ったケースは稀でね。突然、上からのお達しなんだよ」


「え……と、なんで僕が……というのも」


「我々は把握していない。すまないね」


「す……すげぇええ!!」


突然、健太が立ち上がるので、隣に座っていた陽平が驚いて飛び跳ねそうになる


「な、なんだよ。突然」


「ばか! お前! 騎士団だぞ!? 騎士団!」


一人、テンションが高い健太に三人は唖然としている


「噂には聞いてたけど、本当にあるんだな。いいなぁ。俺もやりたいなぁ……やれないっすよね?」


わずかな可能性に賭けるように健太が中村の顔色を伺う


「うん? どうかな? どうだ?」


中村は後ろにいる在源を振り返る


「別に構わないさ。まあ、騎士団に入れるかはわからんが、雑用なら歓迎だ」


「え!? いいの!?」


まさか良い返事が返ってくるとは思っていなかった健太は、今日一番と言っていいほど大きな声をあげる


「どのみち君には守秘義務が発生する。で、あれば最初から雑用として協力してもらったほうが早い。それに騎士団は今、人手不足でね」


中村は苦笑する


「え……でも、騎士団って人気があるんじゃ」


「たしかに以前は騎士団の門を叩く者は多かった。だが、それも昔の話だ。現在では新規の加入を国は認めてはいない。だからこそ、君が騎士団にと言われたときは我々も驚いたよ」


「そうなんですね。知らなかった」


なるほどと健太は大きく頷く


「拒否はできないんですか?」


陽平が中村に聞く


「は!? お前、断るのかよ!?」


その言葉に健太が声を荒げる


「え? あ、いや、断ったらどうなるのかな……と」


「そうなると少し困った事になるかな? 我々もすでに決定事項として通達された事なのでね」


中村は顎に手を当て考える素振りをする


「あ! なら俺がなりますよ! こいつの代わりに!!」


健太が手を挙げアピールする


「それはダメだな」


在源が一蹴する


「ですよね〜」


肩をがっくりと落とし、健太はソファへと座り込んだ


「雑用でこき使ってやるから、期待してろ」


「うぇ〜」


「ははは、さて、それじゃあ、細かい説明をさせてもらおうかな。その前に少し休憩するといい。おい!」


中村の言葉に黒服の男が入室してくる


「彼らに休憩所を案内してやってくれ」


「わかりました。こっちだ」


健太と陽平は黒服の後を追い部屋を出た




「おい、いいのか?」


二人が部屋を出て暫くすると、在源が中村に言う


「なにがだ?」


中村はテーブルの上を片付けながら答える


「あっちの神崎とか言う小僧まで、巻き込んだらまずいんじゃないのか?」


騎士団は魔法少女ほどではないが、その存在、情報は公にはされていない。部外者にその存在を知られるのはまずい


「もう一人の小鳥遊とか言う小僧が騎士団というのも、俺は納得がいかないが。勝手に人を増やしたらまずいだろう」


「仕方ないさ、上からの指示だ」


「それはわかってるが……おい、まさか?」


「そうだ、あの神崎君とやらも想定済みだ。付いて来れば加入させろとな」


「上の連中は何を考えてるんだ?」


「さあな、雇われの身には何も言えんさ」


在源は二人の去った扉をじっと見つめる。この不可解な指示の意味はなんなのか


「まあ、俺如きが考えても分かるわけがないか」


両手を広げ在源はおどけてみせた

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