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異世界冒犬譚2  作者: さくら
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5/24

4話

よろしくお願いします

 野口に会いに来ると、そこは学校の保健室のような一室だった。パイプのベットがカーテンで仕切られており、業務用のキャビネットと机を前に野口が座り、何かを書いている


先ほど葵と来てから、少し待ってほしいと言われてこうして待っている。何を書いているのだろうかと陽奈は丸イスに座り、野口の背中を眺めていた


「はい、これがあなたの証明書よ」


書き物が終わった野口はこちらを振り返ると一枚のカードを陽奈に差し出した


「これは……?」


「この施設を自由に使える証明書よ。全ての場所に入れるわけではないけど……ほとんどの場所にはそれを見せれば入れるわ。無くさないでね?」


「わかりました」


そう言い、陽奈はカードを見る。いつの間に撮ったのだろうか、カードには陽奈の証明写真まで載っていた


「さてと……それじゃあ、今日からあなたは魔法少女なわけだけど。一応、規則だから一通りの説明をさせてもらうわね」


「あ、はい」


「まず、あなたのプライベート情報はMG5で管理されます。これは国の決定なので義務です。もちろんあなたの個人情報は厳重に管理されて外部に漏れる事はありません」


陽奈はプライベート情報と聞いてピンとこなかった。もちろんプライベート情報がなにかは知っているが、住所とかそういうものはどの道、市役所とかでわかるのだ


「ピンと来てないみたいね。例えば……最近ちょっと太り気味かしら? 先月よりも」

「わー! わー! わー!!」


野口の言葉の意味を察した陽奈は慌てて、その言葉を遮る


「な、なんで知ってるんですか!?」


中間試験の勉強があった為、甘いものを多く食べていた陽奈は先月よりも1.5キロほど体重が増えていたのだ


「あなた達の体調管理も私の仕事ですから」


野口はにっこりと笑う。「大丈夫。まだ適正体重の範囲内だから」


プライベートの意味がわかった陽奈は、ため息と同時に肩を落とした


「次にこの施設だけど……基本的にあなたは出入り自由よ。門の警備員さんにさっきのカードを見せてね。各種施設については案内板があるからそれを見てね。食堂とか、ジムとかもあるわよ?」


「へぇ〜」


「ここの食堂は結構おいしいのよ?」


野口はいたずらっぽく陽奈に言った


「ちなみに魔法少女である事は他人に絶対漏らさないこと。もし他人がその事実を知り得た場合、相応の対応がなされるから気をつけてね」


「相応の対応……ですか?」


「最悪、魔法少女としての権利を全て剥奪されるわ」


「で、でも……」


「あなた達を守る為よ。もし、敵にそれが伝わった場合、危険はあなただけでなく、あなたを取り巻く環境にも襲いかかるわ」


住んでいる場所や通っている学校が知られればそこに襲撃される可能性がある。以前、正体がばれた魔法少女はそのファンが押し寄せて引越しを余儀なくされたと野口は語った


「気をつけます……」


陽奈はしっかりと頷く


「ただし、一部の方にはその事実を伝えます」


「え?」


「あなたの家族、それから学校の校長先生と担任の先生には書面に契約の上で情報を開示するわ」


野口は話をしながら足を組む


「活動をする上で、どうしても周りのサポートが必要になるの。契約を交わしてもらうから……もしその人達が情報を漏らせばとんでもない額の請求が発生するから情報は漏れないと思うし、今までにそういった事例はないから安心して」


どれほどの額の請求がいくのだろうか、陽奈はひとまず頷いておいた


「さて、実際の魔法少女としての活動なんだけれど……」


そう言いながら野口は背中を向けると、引き出しからなにかを取り出し机の上に置いた


「魔法少女にはこのアクセサリー型端末が支給されます。好きなのを選んでね?」


そう言って見せられたのは、ピアス、時計、ネックレスと言ったアクセサリーの数々だった。そのいずれもが透明であったり、地味な色をしていた


「本当は可愛いのがいいんだけど、これを着けていることで周りに不審がられる可能性もあるから……実用性を重視してあんまり可愛くないのよ。ごめんね?」


「いえ、好きなの選んでいいんですか?」


「ええ、いいわよ。葵はネックレスだっけ?」


野口はそう言い、葵へと視線を送る


「うん、目立たないようにネックレスにしたの」


葵は胸元をはだけ、首元に巻いたネックレスを見せる。首元が見える程度の仕草だったが、なぜか陽奈はどきりとしてしまった


「私はどれにしようかな……」


机に並べられたアクセサリーを眺める。葵とお揃いのネックレスは細いチェーンでワンポイントのアクセサリが付いているシンプルなものだ。ピアスは半透明でこちらもシンプルだが、ピアスはないなと陽奈は考える。穴を開けるのは勇気がいるのだ


実際にはピアス型とイヤリング型の二種類があるのだが、陽奈はどのみち、耳に着けるタイプは苦手のようだった


それ以外にもブレスレット、髪をまとめるシュシュタイプと様々だった


「じゃあ、これで」


陽奈が手に取ったのはブレスレットタイプの物だった。肌色に近い色合いで手首につけていてもそれほど目立たない


「基本的に変更は受け付けないけど、まあ、一回ぐらいなら変えるわよ。実際に使ってみて合わないってこともあるだろうし」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


「それじゃあ、早速着けてみてね」


野口に言われ、陽奈は左腕にブレスレットを装着した


「っえ!?」


ブレスレットを着けた瞬間、視界にノイズが走る。瞬きをするとそこにはパソコンの窓枠のような物が視界に映っていた


「え? え?」


あたりを見回しても、まるで張り付いたようにその窓枠は付いてくる


「ふふっ、最初は戸惑うわよね」


口に手を当ていたずらっぽく笑う野口を陽奈は唖然と見つめる


「それが魔法具の機能の一つよ」


「き、消えるんですか……?」


「もちろん。クローズって言ってみて」


「く、クローズ」


野口に言われた通りに言葉を発すると、先ほどまで見えていた窓枠は消えていた


「逆に開きたいときはオープンよ」


「は、はい」


「開いてみて」


「お、オープン……っわ!? 出ました!」


「これを見てみて」


野口は机の上にあるパソコンへと目を向ける


「それは、私が見ているのと同じ……?」


「そうよ。というか、あなたの魔法具の表示をこのパソコンに表示しているの」


「そんなこともできるんですね」


「いくつか項目があるのだけれど、主要な物だけ説明するわね」


野口の言葉に陽奈は頷いた


「まずはこの変身ね。これはそのままの意味で魔法少女に変身できるわ。変身後はこれが解除になるから戻りたければ選んでね」


窓枠にはいくつかのリストが並んでおり、一番上には変身という項目があった


「次にその下の特技ね。これは人によって変わるから、実際にどういう効果かは試してみるといいわ。ただし、場所は選んでね?」


野口の言葉に陽奈は無言で頷く


「機能の項目にはセンター。つまり私達との連絡を取ったり、周辺地図が表示できる機能があるわ。地図上には周囲の仲間や敵のマーキングがされるの。戦闘中は自分の位置がわからなくなる事も多いし、センターからの指示で移動する際はそれを使うといいわ」


「あ、あの、どうやって選べばいいんですか?」


矢継ぎ早に説明される状況に陽奈は不安を感じる。先ほどのように何かをいえばいいのだろうか? 既に陽奈のキャパはオーバーしており、これ以上は覚えられそうになかった


「ああ、ごめんなさい。ちゃんと説明するわ。その前に、重要な事を説明しておくわね」


そう言うと野口は先ほどから立っている陽奈を椅子に座らせる


「変身と特技以外はいつでも自由に使う事ができるのだけれど、変身と特技はNyago(ニャーゴ)というものを必要とするの」


「にゃーご……?」


陽奈は首を傾げるが、はっと先ほどのマチとの会話を思い出した


「ええ、ニャーゴは魔法少女が活動する上で必要となるパワーよ。ここにあなたの残ニャーゴが表示されているわ」


野口はパソコンの画面の右上を指差す。それを見た陽奈は自身の視界に同様の表示がある事に気づいた


10 Nyago


「今、あなたにはMG5から事前にニャーゴが支給されています」


「これを使用して変身するんですか?」


「ええ、ただし、支給できるのは今回限りよ」


「え?」


「私達の技術ではニャーゴを蓄積する事と、使用する事はできても作る事はできないの」


申し訳なさそうに野口は言う


「それじゃあ・・十回変身したら終わりって事ですか?」


「いいえ、敵から奪うのよ」


野口はニヤリと笑う


「え? 奪うって?」


「敵を倒した後に事後処理班が現地でニャーゴを回収するのよ。回収したニャーゴはあなた達に渡されるわ。全てではないけどね」


「はあ……」


「後、全部のニャーゴが回収しきれるわけではないので、あなた達の魔法具でも回収できるわ。そちらは100%自分のものになるわ」


「つまり、ちゃんと活動していればどんどん補充されていくって事ですね?」


「ええ、そうよ。功績が多いほど支給・回収されるニャーゴは増えていくから、必然的に強い特技も使えるようになるわ」


「わかりました。がんばります」


「ニャーゴに目が眩んで怪我はしないでね」


いたずらっぽく笑う野口に陽奈は笑顔で答えた


「さてと、そんなところかな? あとはおいおい説明するわ。今日は色々あって疲れたでしょうから、帰っていいわよ。葵、送っていってあげてね?」


「はい」


葵は頷くと立ち上がる


「それじゃあ、朝比奈さん行きましょう」


「え? もういいんですか?」


「一度に説明しても覚えられないでしょ? 習うより慣れろよ」


「は、はあ……」


どこか投げやりな物言いに釈然としない陽奈だったが、ふと絵里達の事も気になり素直に帰宅する事にした





 「色々あって、混乱してるとは思うけど、わからない事があればいつでも聞いてね」


最寄りの駅から低沖線に乗った二人は手すりに掴まり電車に揺られていた。夕方の六時を回っており、帰宅時のサラリーマンでごったがえしていた


「は、はい、ありがとうございます」


「そんなに畏まらなくてもいいのよ? これからは仲間なんだから、私の事も葵でいいわ」


「あ、は、はい……えーっと……葵さんはどこに住んでるんですか?」


「私? 私は小宮(こみや)よ」


小宮市は陽奈が住んでいる県の県庁所在都市だ。都内に出る足掛かりともなっており、多くの路線が行き交う大都市だ。凰巣に住んでいる陽奈にとっては都内の手前にある都会と言った印象で、実際にちょっと足を伸ばして洋服を買うときは小宮市に行ったりする


「そうなんですね。いいなぁ」


「人が多いだけよ?」


「羨ましいです」


「ふふふ。あ、私の連絡先を教えておくね」


葵は肩に下げているカバンから携帯電話を取り出す


「あ、はい」


それを見た陽奈も慌てて携帯電話を取り出した


「気軽に連絡してね」


——小宮—、小宮—、お出口は左側です


車内のアナウンスが小宮に到着したことを伝えてくる


「それじゃあ、私はここで降りるね」


「はい、あの、ありがとうございました」


鞄に携帯をしまっていた陽奈は葵の言葉にパッと顔を上げる。右手を振り、降りていく葵の後ろ姿は様になっており、陽奈だけでなく、数人のサラリーマンも目で追っていた


(はぁ……すごい綺麗な人だったな……葵さんか……)


葵の後ろ姿を見ていると、ふと鞄の中がもぞもぞと動く


『くふっ! くふふぅ!』


鞄に入れていたマチが身悶えながら笑いをこらえている


「ちょっと、静かにしてよ……」


陽奈は鞄に顔を近づけてマチに言う


『む、無理にゃ! これがくすぐったくて……』


これ? これとはなんだろうか? と、陽奈はおもむろに鞄に手を突っ込んだ


『や、やめるにゃ! 変なところ触るにゃ!』


鞄に突っ込んだ手が触れたのは先ほどの携帯だった。携帯のバイブレーションにマチが反応していたのだ。慌てて携帯を取り出し中身をチェックする



——話は聞きました。お父さんと話をするからすぐに帰ってきてください。今、どこにいますか? 母


メールを見た陽奈は、帰ってからの話し合いを想像し憂鬱な顔をした

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