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異世界冒犬譚2  作者: さくら
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プロローグ

妄想全開です。宜しくお願い致します

 会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。理由は明白だ。とある実験体の寿命が既に尽きかけているのだが、その代替案が出てこないのだ。先週の会議も同様の重苦しい空気のまま進行し、終わりの見えない話し合いがされたと室長がボヤいていたのを聞いている。それと同様の会議が今日もまた始まるのだ


席に座る多くの人が白髪混じりだった。その為、自分が一番若いであろう事は容易に想像がついた。若い男はため息を吐きながら、室長が座る横の席へと着席した。幸いにも一番隅の席だったので、男はなるべく目立たないようにしようと心に決めていた


「それで……? なにか良い解決策は見つかったのか?」


全員が席に座ると、この場で一番偉い人物が睨みつけるように全員の顔を見る


「いえ……それが……」


「もう、既にアレは寿命だという事がわかってるのか!?」


バンッと、机を叩きつけ男が怒鳴る


「は、はい。それは重々承知しております。ですが……あれほどまでの逸材は中々いないのも事実です」


「そんな事はわかっている! だからこそ、こうしてどうすべきかの会議をしているんだろう!」


男の怒鳴り声に誰しもが顔を伏せる。そこまで言うのであれば、自分が解決策を出したらどうなんだと男は考えるが、それが口に出る事はない


「おい! そこの若いのは誰だ!」


自分の事を言っているのだろう事は瞬時に理解できた。一回りほど歳の若い人間がいれば、嫌でも目立つ。突然の口撃に男は緊張で体を強張らせた


「は……? ええと……おい、誰だ?」


先ほどまで言い訳をしていた男が首を傾げる


「室長より、指示があり出席させて頂きました」


頭を下げながら言う。そもそもなぜこの会議に出る事になったかといえば、今朝になっていきなり、隣に座る室長が同席しろと言い出したのだ


「お前の所の部下か?」


偉そうな男が自分の隣に座る室長を見る


「はい」


「なるほど……お前の所はたしか……」


思い出すように顎に手を当てる。答えは出ないのだ。偉い人間ほど現場を知らないとはこの事だ。知ってるという体で、答えを言えと言っているようなものだ


「次の被験体を探し、その性能を評価しております」


それを察した室長が間髪入れず答える


「そうだったな」


当然知っていたようなそぶりで偉そうな男は頷いた


「それで……? 誰か良い人物は見つかったのか?」


「はい、その報告をこちらの者にさせる為に出席させました」


そういうと室長がこちらを見てくる。そもそも毎日の報告はしているのだから、室長も知っている事なのだ。なぜ、わざわざ自分が説明しなければいけないのかと、内心で愚痴りつつも口を開く


「現時点で、明確な被験体は見つかっていないのが現状です。ですが……」


偉そうな男はこちらを見ながら一瞬眉間にしわを寄せたのがわかった


「だが……?」


「素質がありそうな人物を見つけたと部下から報告が上がっております」


その言葉に会議室がどよめく


「ほう……? 有望なのか?」


「はい、ですが、まだその者はどこにも属していない一般人です」


「それなのに素質があると?」


「元々、力を発動できる人間は母数が多くありません。その中で適正を探すのは至難の技です。もはや結果は出ています。そこで我々は対象の範囲を広げて一般人も調査の対象に広げました」


「ほう。そして、一人居たと?」


「可能性は高いとは申し上げられます」


「誰だ? それは」


「現在は、とある高校に通っている少女です。部下からの報告では検査数値が他の者より著しく高いと報告を受けています」


「だが、力を持っていないのであれば、意味がないだろう?」


「はい、ですので、こちらから力を持つように仕向け、対象に押し上げるのはどうでしょうか?」


対象である人間がいないのであれば、素質のある人間を対象にしてしまえばいい。被験体をみつけるのではなく、育てるのだ


「そんな事をして失敗したらどうする!? 相手に塩を送る結果になるぞ!?」


別の男が異論を唱える。数人の男も頷いていた


「ですが、このままではアレの寿命が尽きるのを待つだけです」


それならば他に解決策を出せとばかりに部屋に集まった男達を見る。男はそう言いながらも足が震えているのに気がついた。それもそのはずで、ここに集まっているのは自分の上長と同じか、それ以上の権力を持った人物ばかりなのだ


「それ以外に良い案はあるか?」


偉そうな男が腕組みをして全員に聞く。だが、誰も口を開こうとはしなかった


「よし、ならばその案を進める事を許可する」


最高決定権を持つ人物からGOサインが出た。全員が驚いた顔で偉そうな男を見る


「よ、よろしいのですか?」


「構わん。もちろんそれとは並行して別の代替案を他の部署は出すように」


つまり、これで自分と自分が属する研究室はこの不毛な会議にでる必要は無くなるのだが、他の研究室は引き続きという事になる


「失敗したらどうなるかわかっているな?」


ホッと胸をなでおろした瞬間に目の前の男から威圧され、男は再びを身を強張らせた


「は、はい……」


「よし、行っていいぞ。良い報告を期待している」




 「はぁ……」


重苦しい空気から解放され、大きなため息をつく


「大丈夫だろうな?」


会議室を出ると、隣に立つ室長が聞いてきた


「大丈夫にしないとまずいですね」


「当たり前だ。失敗したら研究室全員の首が飛ぶぞ?」


わかっているなら、あんたもなんとかしてくれと言いたくなるがぐっとこらえる


「はい、うまく進められるように調整します。室長にも色々と調整してもらわないといけませんが……」


「わかってる。部下とはあの子の事だな?」


「はい、そうです」


「若いが平気か? 若気の至りでは許されないぞ?」


「はい」


「よし、なら俺は先に戻る。なにかあれば言ってくれ」


「はい、俺は定時連絡をしてから戻ります」


室長は返事をする事なく廊下を進んでいった


「言う方は気楽で良いよな……」


男は室長の背中を見ながら、聞こえないように愚痴を吐くと、別の通路へと消えた

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