才能ある俺と彼女
屈辱。久々だ、こんなにも屈辱を感じたのは。ここまで自分の思い通りにいかないことは本当にいつ以来だろう。
「ええ、別に構わないわ。」
七宮楓の言葉が俺の中で何度も反響した。
「は?」
思わず口から出た。
七宮楓は小さく首を傾げる。
「どうしたのかしら。私はあなたからの"友達作りのお手伝い"を引き受けると言っているのよ。」
先ほどと変わらない毅然とした態度が俺を苛つかせる。
「なぜだ。なぜ貴様は勘違いしていない。放課後、男子に屋上に呼び出されれば普通に考えれば告白だと思うに決まっている。多くの男子に告白されている貴様なら、なおさらこんなシチュエーションに親しみがあるはずだ。」
心なしか声量があがる。明らかに負け惜しみだ。それでも自分の感情を抑えることができなかった。
「確かに最初はそうなのか思っていたけど、貴方の声のトーンや顔の表情でそうではないと思っただけよ。」
七宮楓は言い放った。
確かに、俺は別に感情を顔に出さないようにすることが得意なわけでない。だからと言ってすぐ感情を顔に出てしまうほど不器用なわけでもない。
その時気がついたのだ。彼女がなぜ俺と違って多くの友好関係を築けているのかを。
確かに疑問ではあったのだ。いくら人当たりが良かったとしても七宮楓は多くのものを持ちすぎている。人並みではない容姿、頭脳、運動神経、どんなに性格が良くても、これらの才能に嫉妬する人間だって少なからずいるはずだ。むしろ、性格の良さが仇にさえなってしまうことだってある。実際に俺だって…いや、そんなことはどうでもいい。
おそらく彼女はこれらの才能の他に誰も持っていないような才能を持っているのだろう。それは多分…
「お前、人の考えていることが分かるのか…」
聞かずにはいられなかった。もちろん異能力とかそんなものではないのは分かっている。だが、人の気持ちに敏感である人間がいるのならそれ以上にそれを得意とする人間だっているのではないか。もしそうなのであれば、あれほどの多くの才能を持った七宮楓が周りから疎まれることなく生活できているとかに合点がいく。
七宮楓は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに表情を戻した。
「そんな大層なものではないわ。ただいつの間にかそういった事に敏感になっていた、それだけよ。」
そういうと七宮楓は顔を夕日の方に向けた。夕日によって赤く染められた七宮楓はどこか遠い目をしているように感じた。
「それに」
七宮楓は顔をこちらに向けなおし続けた。
「貴方ほど思っていることとやっている事にギャップがあれば簡単に分かってしまうわ。」
その顔には先ほどの寂しさはなく満面の笑みを浮かべている。思わずドキッとしてしまった。放課後の屋上という自らで用意したはずのシチュエーションが拍車をかけたのだろう。完全に裏目に出た。全く上手く行かないものだ。
だが、先まで俺の中にあった屈辱は消えていた。ひどく恥ずかしさはあったが、不思議と悪くない。
おそらく俺の顔は真っ赤になっているだろう。これもそれも全ては夕日のせいだ。そんな言い訳を俺は考えていた。