才能ある俺の誤算
夕焼けによって赤く彩られた屋上で微妙な距離感を保ちながら立っている美男美女の高校生。側から見てもここまで王道で綺麗な青春の一枚画はそうそうないだろう。
だがその実、友達を作るために、友達を作るためだけに、わざわざ助けを求める哀れな自分がその場に立っていると思うと情けなくて仕方ない。人生でもここまでの屈辱は二度と味わうことがないかもしれない。それを少しでも緩和するために俺は作戦を実行する。
「こんな時間に呼び出してごめん。実はここに呼び出したのは七宮にどうしても言いたいことがあったんだ」
目の前に立つ美少女、七宮楓は先ほど見せた苦々しい表情とは一変して次のセリフを待っているようである。
不快だ。こいつは俺から告白されていると思っているはず。つまりこの態度は、俺からの交際の申し込みの言葉を聞く前から断る気満々である、ということだ。こんないい男から告白をされるというのにそれを断るとは、お高くとまりやがって…。まぁ実際は告白ではないのだが。
彼女は確かにモテる。情報源は噂でしかないが、彼女の容姿は学校内でもトップクラスであるのは間違いないし、一年の頃の期末テストの成績だって一位か二位しか取ったことがない。つまり学業に関しては俺のライバルに当たるわけだ。さらに俺は見たことがある。一年の頃、俺は七宮楓と席が近かったことがあった。その時こいつの席の周りには常に誰か友達らしきものがいたのだ。
そんなスーパー美少女の彼女とはいえ、この友達がいない事以外スーパー美男子の俺からの告白を無下にしようとするとは。まぁ実際は告白ではないのだが。
まぁいい。この作戦はこいつが自分の勘違いに羞恥の感情を覚えてくれればそれでいいのだ。そこに俺への彼女の思いは、さほど重要ではないだろう。
「いえ、別に構わないわ。部活動には加入していないし、今日は習い事もなかったから予定は入っていなかったの。」
澄み通るような声に毅然とした態度で彼女は言った。そういえば俺は一年の頃、七宮楓と同じクラスであったにも関わらず彼女の声をまともに聞いたことはなかったな。
「そ、そうか。なら良かった」
そんなことを思っていたせいかセリフがどもってしまい、そのうえ声が若干裏返ってしまった。恥ずかしさのあまりつい手を顔に当ててしまった。
くそっ。恥ずかしい思いをさせるつもりが、なんで俺が恥ずかしい思いをしなければならない。
このままでは優位性が保てなくなるな…だからと言って長引かせては相手のペースにはまってしまうかもしれない。ここは早めに手を打っておこう。
「七宮、実は……俺は……」
勘違いを催促するため最後のダメ押しである。これならどんな鈍感なやつでも勘違いするに決まっている。今まで多くの男子に告白されたこいつならなおさらだ。軽く頭を下げて俺は言った。
「お前に"友達作り"を協力してほしい!!」
声が屋上内を反響する。
決まった。これは決まった。クリティカルヒットだ。この俺が頭まで下げたのだ。失敗してたまるか。
きっと頭をあげれば、七宮楓は告白だと思っていたはずなのに実は全く別件だったという自らの自意識過剰さに顔を真っ赤にしていることだろう。
思わず顔がほころんでしまう。
そろそろ顔を上げて七宮楓のその真っ赤に染まった顔でも拝んでやることにしよう。そして質問の答えを催促すれば必ずまともな判断力を失って即了承、となる。
はずだったのだが…
「ええ、別に構わないわ」
俺の耳に入ったのは先ほどの声とは全く代わり映えのないものだった。
ゆっくり上げていたはずの顔が衝撃のあまり加速した。そこに映っていたのは先ほどと代わり映えのない毅然とした態度の七宮楓だった。