才能ある俺の作戦
4月であるにも関わらず、夕方であるからだろうか、少し冷えた風が俺の頰をかすめる。夕焼けに染められてコンクリートで作られた床が赤くなっている。ここは俺の通っている高校の屋上である。
俺はここである人物を待っている。その人物とは七宮楓だ。
俺は友達作りの手助けをしてもらうために手紙でここに呼び出している。だが手紙にはそのことに関しては全く触れていない。が、これも作戦の一つだ。
今は5時15分。指定した時間まであと15分といったところだ。スマホでもいじって時間を潰していたいところだが、そんなところを見られて俺の誠意を軽いものだと思われたら作戦通りにことを運べなくなるかもしれない。仕方なく赤く染まった春の空を呆然と眺めることにした。
そう時間も経っていないうちに屋上に唯一設置されてある重量感のある扉が軋む音を立てながら開かれた。
その重量感のある扉からはそれとは対極的であるような華奢な体の女の子が顔を出した。
ハーフと言われても納得いくような整った顔立ち、屋上に吹いている風とともに緩やかに波打つ長い髪は肩より少し上まで伸びている。身長は女性の平均ほどだろうか。いわゆる清楚系お嬢様のような女の子だ。七宮楓である。
彼女はこちらを見ると苦々しい表情で近づいてくる。
まぁ予想通りだな。
俺が送った手紙には屋上に5時30分に待っているということ、そして、俺の名前だけが記してある。この意味ありげな手紙内容に加えて、放課後の屋上というセッティング。誰もが容易に想像できるシチュエーション、つまり告白である。
もちろん告白する気などまるでないがこれこそが俺の作戦だ。俺の情報によると七宮楓は多くの男子に交際を申し込まれているがそれらを全て断ってきているらしい。つまり、七宮楓本人は恋愛をする気は無いのだろう。そんな多くの男子に告白された奴だ。おそらく今回も俺が七宮楓に告白しようとしていると思っているに違いない。
あの表情を見る限り七宮楓自身には、告白を断るという事に対する申し訳なさがあるようだ。
しかし、蓋を開けてみれば"友達作りの協力"の依頼だ。七宮楓も拍子抜けして判断力が鈍り二言返事で了承してくれるの違いない。
これが俺が練るに練った作戦だ。
おそらくこの七宮楓という人間は普通に頼んでも了承してくれていたと思うが、この作戦にはもう一つのポイントがある。
七宮楓が今回の件を告白だと思っているのは表情から見てとれる。それなのに告白ではなく、それはただの自分の勘違いだと知ったらどう感じるだろうか。それは"恥ずかしい"といった羞恥の感情。
その感情は少なくとも初めのうちは俺と会うだけで思い出されるだろう。
これがあるおかげで協力する側の七宮楓、協力される側の俺、言い換えると、上が七宮楓、下が俺といった形を少なからず抑止できる。
もし、この作戦がなければ俺が七宮楓の下であることは明白になっていた。普通の人間であれば、気にも留めないだろうが俺は自分が誰かの下にいるのがどうしても許せない。だからこそのこの作戦なのだ。
夕焼けは俺たち二人の頰を赤く染め、静かに吹き抜ける冷たい風が柔らかく髪を撫でている。実にロマンティックなシチュエーションではないだろうか。タイミング的にも今だ。俺は七草楓に話しかける。それはまさに告白を切り出すかのように。
「こんな時間に呼び出してごめん。実はここに呼び出したのは七宮にどうしても言いたいことがあったんだ」






