デメリット
「ドラゴンなんて、勝てる訳がないでしょ!!」
私は思いっきり叫んだ。
「でも、シリアはユグドラシルに怪我を負わせたぐらい凄いじゃないか。」
「コイツはユグドラシルとは格が違うでしょ!」
魔力を纏っている。
恐らく魔力操作しても勝てない相手だ。
「……やっぱり逃げるしかないか。」
私は後ろを向かずに一歩ずつ来た道を戻って行く。
ドラゴンの尻尾に魔力が集まり続けているのが分かる。
後ろを向いたら一瞬で結果が決まる。
「シリウス下がって。」
私は小声で言った。
洞窟にそれほど入って無かったから、
入口は近くに見える。
あと少しで洞窟から出れる。
その時だった。
「シリア!後ろから魔物が近付いて来ている。それも百体だ。」
魔物の大群?
そんな事よりもドラゴンの方が重要でしょ?
「百体はシリアでも無理だろう。せいぜい力を合わせても三十体だ。」
「魔物の大群はあとどれぐらいで来そうなの?」
「7分だ。」
思ったよりも無かった。
「そ、そうだ。魔導書はどの辺にあるか聞いてなかったよね?」
「シリウス、魔導書があれば勝てるかもしれない。どこに魔導書ってあるの?」
「………そのドラゴンの中だ。」
薄々、気付いていた。
「しかも、ドラゴンが魔導書を読んでたって事だよね?」
知能があるという事は説得も可能だ。
「けど、一向に話さないという事は説得は無理だね。」
急がないと魔物の群れに襲われるか、隙を付かれてドラゴンに潰されるかの二択だ。
「転移魔法発動までに、あとどれぐらいかかる?」
「聞かなくても分かるだろう?」
そう、洞窟に来てから数時間しか経っていない。
恐らく、次の転移までに一時間かかる。
「絶体絶命って奴かな?」
「魔力遮断!」
ドラゴンの尻尾に集まっている魔力を魔力操作で使えなくした。
「ユーナのやり方か。」
「これだけでは決定打にはならないぞ。」
「分かってる!!」
私は龍の魔力を止めてるが、思った以上に魔力が止まらない。
「魔物の群れの話だが、分散して行くぞ。しかも散り散りにだ。」
「ドラゴンの魔力のせいだ。」
「魔物を呼び寄せる魔力なんだ。それを意図的に集めて魔物の群れを操ってたんだ。」
やり方は間違って無かったんだ。
「今だ、逃げるぞ!」
入口がすぐそこまで来た。
「シリア、どうした?」
これ以上足が動かない。
「逆に魔力が注ぎ込まれてる…。」
どうして、魔力が増えてるのに動けないんだよ?
「龍の魔力は人間が適応して使える魔力じゃないからだ。」
ここまでか…。
「そのままだと身体が耐えきれずに破裂するぞ。」
私は何か優れた人間じゃなかった。
魔法は全く使えないし、魔力操作はユーナに負けてる。
それに前世でも私は何もして来なかったんだ。
ただ息をしているだけだった。
「……………最初から世界なんて救える訳が無かった。」
「このままじゃ何しに来てるか分からないぞ?」
何のため?
「そんなの決まってる。ユーナと旅を続けるためだよ!」
私は魔力操作を一旦辞めた。
「魔力操作!!」
私は目に魔力を集めていく。
視力が上がって行くのが分かる。
この能力は視力だけじゃない。
魔力をさらに一定箇所に集中する事で透視スキルが発現する。
「捉えた。」
私の目で確実に追っていく。
そこで一つの異物を見付ける。
それは本だった。
「私から出てけ!」
龍の魔力を押し出していく。
思ったよりも膨大な魔力だ。
「ぐぬぬぬぬ…。」
私は身体から力を抜いていく。
限界消滅。
それが魔導書の中身だった。
「…もうキツイ。」
その効果はステータスの限界値を減少させる事で、その分だけ魔力を一時的に上げるスキル。
「限界消滅!!」
魔力を上げていく。
つまり龍の魔力を私の器から溢れ出してやれば良い。
「シリア、魔術を使え!……記憶を読み取るんだ。」
めちゃくちゃだ。
でも、
「分かった。」
シリウスの記憶から取り出すだけで良い。
「───────我が魂を縛り付ける鎖よ。」
「今解き放て!欠けた月光(eclipse)よ!」
私の身体を魔力が蝕んでいく。
これは私の魔力でもシリウスの魔力でもない。
だったら誰の魔力なんだ?
「え?」
次の瞬間には龍を飲み込んでいった。
「何これ?」
「…………………魔術だ。」
私の意識が徐々に遠退いていった。
目を覚ました時には森の中だった。
気絶する前の事を聞こうと起き上がろうとしたが、出来なかった。
「さっきのドラゴンはどうなったの?」
起き上がれない身体を無視して聞く。
「存在を失っただけだ。」
存在?
とんでもない魔術だったよっ!?
「本来は力を無力化する物だが、龍種は存在自体が力そのものと言っても良い。」
「大きすぎる力ほど失う魔術だったんだ。」
私は擦れる視界を休ませるように目を閉じる。
「だから術者にも大きなデメリットがある。って、聞いてるのか?」
「き、聞いてるよ…。」
駄目だ。
頭が痛くなって来た。
「自分自身の力さえも失う事もあるんだから使うのは止めておけ。」
「ごめん、シリウス。」
「私、これ以上戦えないかもしれない……。」