剣が呪われてても剣士を名乗っても良いでしょ!
しばらくすると私の身体は動かなくなった。
恐らく魔力を使い過ぎた影響だと思う。
その辺の知識は後々聞いておこう。
「お、お姉さん大丈夫ですか!?」
心配そうに私の顔を見つめるユーナ。
「大丈夫…多分。」
「魔力の消耗が激しかったんでしょうね。」
やっぱりか。
「シリアお姉さんの魔力はミニゴブリン並ですから仕方が無いとは言え、」
「もう少し使い方を考えて下さい!」
私は遠くの空を見つめる事にした。
「なんだか眠くなってきた…。」
「お姉さん!?ごめんなさい、言い過ぎました!だからしっかりして下さいっ!?」
身体を激しく揺らされて嘔吐ともに復活したのだった。
「で、王都に向かう前に武器買って来て良いかな?出来たらどれが良い物か見て欲しいんだけど…。」
「確かに道中、魔物に襲われてしまうかもしれないですし、良いと思いますよ。」
魔法が使えるから武器をあまり必要としていないようだった。
私達は町にある鍛冶屋に寄ってく事にした。
「いらっしゃい!オススメはこの鉄の剣だよ。」
店主らしき男は大きい剣を持ち上げて見せてくれる。
「オススメの剣とかどう?」
「いやいや、あれはどう見ても安物ですよ!」
ユーナは小さな声で言う。
「なるほど…。」
「すいません、呪いの剣とかありますか?」
私は安物の剣を手入れしてる店主に聞いてみた。
「ちょっと!?シリアお姉さん?そんなものあったとしても呪われてしまいますよ!?」
怖い顔のユーナが物凄く慌てて止めに来た。
「旅立つ仲間だし、シリアで良いよ。」
長い呼び方だったので呼び方を変えてもらおうかと思ったんだけど…。
「今言う時じゃないですっ!!」
私はユーナに首根っこを掴まれてずりずりと入り口まで引っ張られていく。
「お嬢ちゃん方、どこでその話を聞いた?」
「私まで!?」
「ちょっと酒場でね。」
私は未成年だから酒場は行ってないんだけど…。
「ほう、あのギーグが呪印の剣の話を吐くとは凄腕のようだな?」
呪印?
「良いだろう。欲しいならくれてやる。金は要らん!」
「あと剣をもう一つ欲しいんだけど…。」
「分かった、業物を打つから待ってろ!」
話の分かる店主だった。
「二刀流ですか?」
「いや、ユーナの剣。」
少しだけ驚くとユーナは嬉しそうに鼻歌を歌う。
「それよりさっきの話なんですけど、良いんですか?」
「良いよ。ユーナは仲間だからね。」
少し照れているのか髪の毛を弄りながら、
「し、シリアさん。」
そう言った。
「お嬢ちゃん、出来たぜ!」
ロングソードとでも言うのだろうか。
軽くてスピード重視の剣みたいだった。
「試しにスライムでも切りに行こっか。」
「この辺にスライムはいませんよ?」
へ?
「嘘でしょ?最初の村って大体スライムじゃん!冗談だよね!」
溜め息を吐くと、
「この辺に最も多く生息してるのはゴーレムですよ。」
ユーナが簡単に言う。
ゴーレムって中盤以降の魔物じゃないの?
「最初の村が何かは分からないですけど、スライムを倒したいならもっと東の国に向かった方が良いですよ。」
無理な話だった。
「とりあえずゴーレムと戦って見るか。」
町外れの森林の先に山が見える。
そこにゴーレムがいるらしい。
「で、着いたのは良いんだけど何もいないよ?」
「ゴーレムは岩に擬態できるスキルを持っています。」
擬態。
つまり隠れているという事らしい。
「スキルって何?」
「スキルは能力を認められた時に取得出来るものです。」
「どうすれば認められるの?」
「魔導書や一定の努力で神龍に認められ、スキルを取得します。」
つまり魔力操作もスキルという事らしい。
「なるほど……。この岩ちょっと動いてるような気がする。」
「それゴーレムですね。」
すると、いきなり周囲の岩が崩れ落ちていった。
「ゴーレム三体?」
「擬態が見破られると擬態を解いて襲って来ます。」
「つまり擬態を看破しない限り、襲って来ないってこと?」
ユーナは無言で目だけを私から逸らした。
「戦って見ますか。」
私は呪われているらしい剣を鞘から引き抜いた。
「錆びてます…。」
「そんな馬鹿な事ある訳ないでしょ!」
私は鞘に剣を戻して、また引き抜く。
もちろん剣は錆びたままである。
「もう…良いや。」
私は錆びた剣に魔力を集中させる。
「強度は問題ないはず……多分。」
ゴーレムの足を剣で切ると、
半分切った辺りで止まった。
「えぇ…。半分切れたのに何故か引っ掛かった…。」
「ゴーレムの身体強化です。」
つまり、ゴーレムはスキルをいくつか持っているらしい。
「まだ身体強化してるのは一体だけだから、大丈夫のはず。」
「もう遅いみたいですよ。」
身体強化済みのゴーレムが岩を砕き始めた。
「どうして暴れてるの?」
「それは土魔法で剣を作るからに決まってます!」
ゴーレムには知能がないと思ってたが、
どうやら私達に対抗して剣を作ったらしい。
「切る剣より叩き潰す剣だよね?それ。」
私は指差した瞬間、ゴーレムが一斉に剣を振るって来た。
「退避────逃げよう!!」
私は叫びながら言う。
「私の魔法を見せて無かったですね。」
ユーナはそう言うと杖を振った。
「え?」
吹雪のような氷の粒がゴーレムに当たる。
「こんなんじゃ効いてないよ!」
私はユーナに言う。
当たり前だ。
魔法の威力が無さ過ぎるのだ。
「ただの吹雪に見えましたか?」
「うん。」
「ゴーレムの身体は魔力で動いてるんです。」
それは分かる。
「つまり体内にある魔力をコントロールする魔石に魔法で作った水を染み込ませれば、」
「後は魔力操作でゴーレムの行動を操れます。」
これが経験の差だった。
「ついでに剣の稽古もしますか?」
ご遠慮しておきます。
「流石にゴーレム相手じゃ厳しかったか…。」
「でも、あと一息でしたよ。」
今日はひとまず、ここで宿営の準備をするのが良い。
擬態を見破られなければゴーレムも襲って来ない。
「ゴーレム一体相手ならシリアさんだけでも倒せるはずです。」
「なので、明日には二体同時に倒してみるのも良いですね。」
思ったよりもユーナは鬼教官のようだった。
「そう言えば、この剣出した時に錆びてたんだけど…。」
私は呪いの剣を取り出した。
ただの錆びた剣にしか見えない。
「店主の人にちゃんと話を聞かないからですよ!」
「その剣はいくら整備しても錆びたままの剣らしいです。」
私は剣を見つめる。
「全く使えないじゃんっ!!」
無いよりはマシだけど。
「ですから、その剣を捨てませんか?」
ユーナは心配そうな表情を浮かべる。
どうせ使えないなら捨てた方が良い提案してきた。
「それに錆びた剣で剣士を名乗っても笑われるだけですよ。」
正論だった。
「でも、まだ…。持ってた方が良いよ。だってお金ないし、戦う力もないじゃん。」
「ふふ、シリアさんの好きにすれば良いですよ?私が勝手に着いて来てるだけなので…。」
少し笑うとユーナはそう言った。
「お腹空いたから釣りにいこっか。二人で。」
「あっ…はい!えへへ。」
川に来たのは良い。
「釣れないのは何故か、そうエサがないからだよっ!?」
「エサならありますよ?」
ユーナは地面の小さな穴に木の枝を差し込む。
すると、ミミズのような生き物が出て来た。
「ミニスネークウマスだよ。」
蛇とか鼠みたいな名前だ。
せめてどっちかにして欲しい。
「これを木の枝に巻き付けて、後は川に投げるだけだよ。」
嬉しそうに話す。
旅に連れて来て良かったと今でも思える。
店長には悪い事をしたなぁ…。
ユーナが仕事辞める当日に泣き始めた時はどうしようかと思ったくらいだ。
「どれどれ。」
私も試しに同じ事をして見る。
「ひぃ…。やっぱりミミズ!?」
「ミミズ?どういう意味ですか?」
聞かなかった事にしよう。
「このまま待てば良いの?」
「そうです。」
一時間後。
「いつまで待てば良いの?」
「釣れるまでです。」
三時間後
「やっぱり辞めない?」
「釣れるまでやります。」
その一言が引き金になった。
「もうこんな時間だよっ!」
既に暗くなっていた。
「私はもう寝るね。」
とにかく私は寝る事にした。
翌日、私以外に寝てた人間はいなかった。