魔力感知
私の意識が飲み込まれていく。
周りに色の付いたカラフルな霧が見える。
これが魔力らしい。
色の違う魔力を取り込むと肉体に悪影響を及ぼすという話だ。
「え、あの龍に魔力を注ぎ込まれたのは、個人特有の魔力じゃないと肉体が破裂するからなの?」
常人であれば致死量の魔力を注ぎ込まれていたらしい。
「二度とドラゴンとは戦いたくないっ!!」
二度あることは三度あるという事は今のシリアには知り得ない事だった。
「ただでさえ魔力の質が違うのが龍の魔力だ。人の器では保てぬ。」
私は魔力感知を手に入れたのだった。
「では、実戦だ。」
シリウスは私を転移させる。
「ねぇ…シリウス。」
「ありがとね。」
シリウスは無言で頷く。
それで良いんだと思う。
私達は手段は別で目的は一緒でも仲間ではないのだ。
むしろ戦わなければいけないかもしれない。
だから曖昧な距離感で良いんだ。
「目と耳に頼り切るな。」
「魔力感知だけ使い続けろ。」
私は視界を意識を現実から切り離した。
ゆっくりと魔力感知へと意識を伸ばしていく。
見えるような気がする。
それでも見えるのは色が付いたモヤだけだ。
動きなど分かる訳もない。
勝つ為には常に紙一重を行かなければいけない。
勝者とは実力差もしくは運で決まる。
だから実力を付けなきゃいけない。
「焦るな、力など必要ないというのは一番お前が知ってるはずだ。」
そう私の心の言葉に耳を傾けるシリウス。
分かってる。
分かってるよ。
答えなんて最初から出てるはずなのに。
何故答え合わせする度に答えが違うんだろう?
私の手から全てが零れ落ちるような音がした。
「それだけは、嫌だ。」
私は魔力をモヤに集中させる。
そうするとまるで蜘蛛のような姿をした物が見えた。
「炎魔剣。」
私の剣が大きく燃える。
私の心そのものだった。
「ほう、炎魔法を剣に付与か。」
「焦がせ!炎剣!」
私は蜘蛛に向かって剣を振るうと蜘蛛を半分に切り裂いた。
「水龍の生息地に着くぞ。」
「ふぅ…。え?また龍倒しに行くの!?」
私は少しだけ不思議に思ってると、
「言わなかったか?龍が本を持ってるんだ。」
聞いてないよ…。
「だったら、少し休憩がしたいんだけど…。」
「休憩した分だけ元の世界に帰るのが遅くなるかもしれないぞ?」
そう脅そうとする。
けど簡単には騙されない。
「この世界の時間って、元いた世界と違うんでしょ?」
それを説明しなかったのは考えがあったのかもしれない。
「どうして分かったんだ?」
シリウスは何処か満足な顔をしていた。
「魔力感知が使えるようになれば、嫌でも分かるよ…。」
「ふっ…流石だな。それでこそ、シリアを弟子にした甲斐がある。」
嘘だった。
わざと私に魔力感知を教える事で、戦う理由を無くしたのだ。
「……まだ私は戦えるよ。」
きっと元の世界に帰りたいと言わせるために…。
もちろん帰らせようとするだろう。
でも駄目なんだ。
それだとシリウスは一人ぼっちになってしまう。
「もう急ぐ必要もない。だからゆっくりで良い。」
「……あと龍は何体いるの?」
「2体だ。だが、十分倒せた方だ。後は私に任せろ。」
あと2体倒せば、あとは魔神だけだ。
「任せろって何?私の身体に勝手に憑依したくせに?」
「魔力は私のだろう?」
私はいつの間にかイライラしていた。
「だから、私が今まで戦って来たから!!これからも戦うのは私でしょ!」
「………いや、私の戦いに巻き込んでしまったのは……」
「ぐちゃぐちゃうるさいっ!!」
「私が決めたんだ!……私が戦うよ。」
「……今更だな。」
「そうだよ。あと2体だし、魔神なんて一瞬で倒して帰ろっか。」
笑いながら言う。
本当に出来そうな気がするからだ。
「私とユーナとシリウスの三人パーティで色んな場所に行って騒ごうよ。」
「最初は精霊の森で精霊に魔法を教わるんだ。それから…。ねぇ聞いてる?」
「あぁ……そうだな。」
だから私は戦うんだ。
それで良い。
「さぁ、行こう。水龍殺しに!!」
私の脚は不思議と軽々と前へと進んで行った。