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苦手な方はご注意ください。

お馬鹿コメディ短編集

雑魚な双子の世話係

作者: 湯気狐

 気晴らしに書いたお馬鹿短編八作目です。


 舞台は王道のファンタジーなれど、ノリはいつものくだらないパターンです。とにかくウザい双子の姉があれこれ面倒を起こします。


 それでは例の如く、暇人だけ下にスクロールをどうぞお願いします。

「よっしゃー! 今日こそ私の剣の錆にしてやるぜー!」


 だだっ広い草原の上、少女は爽やかな風を浴びながら威勢良く剣の切っ先を相手に向け、キラリと光る左八重歯を見せ付け豪快に笑う。


「二人共ちゃーんと見ててよ! 今日この日から私は真の冒険者の一歩を踏み出すんだから!」


「そういう建前は良いからとっとと行け」


 俺から見てその笑みは非常に不愉快で、ニヤニヤとしているあの顔を見るだけでイラッとくる。とっとと帰りたい衝動をどうにか抑え、気力の無い目で彼女の後ろ姿を見守り……いや、ただ見続ける。


「が、頑張ってお姉ちゃん! でも怪我だけはしちゃ駄目だよ!」


「フフフッ、安心して見ているといい妹よ。ある程度の修行を終えた私に敵う敵など存在せぬわ。何倍も大きいドラゴンが相手であろうと小指一本で打ち勝てるわ」


 本当に建前の長い奴だ。いいから早よ行って来いや。


「よし、クロマが目で『早よ行けや雑魚』と訴えて来てるから行きましょうか――せやっ!」


 ようやく戦う覚悟を決めた彼女は一歩を踏み出すと、中々勢いの良い速さで飛び出した。


 相手は――彼女の気配に気付いておらず、ピョコピョコと何度も可愛らしい音を立てて跳び跳ねながら歩いている。見たところ散歩をしているようだ。


 しかし、そんなのんびり行為をしている相手と違い、彼女は徐々に表情を邪悪なものに変えて近付いて行く。まるで百獣の王が小兎に襲い掛かっている光景を目にしているかのようだ。


 でもまぁ……それはあくまで“光景”だけという話。


「不意打ちほど確実に仕留められる攻撃は無い! もらったぁっ!!」


 彼女が超近距離まで近付いた時、そこでとうとう剣が横凪ぎに振られた。相手は彼女が剣を振ったところで初めてその存在に気が付くも、回避するには気付くのが一足遅かった。


 勢い良くその刃は相手を捉え、


 バイ~ンッ


 と、間抜けな音と共に弾き返された彼女は少し後ろに吹き飛び、


 ガンッ!


「ぐおぉぉっ!? いっだいっだぁっ! 脳ミソ割れたぁっ! 絶対割れたぁっ!」


 運悪く、すぐ後ろにあった大きな石に後頭部をぶつけて大きなたんこぶを作ると同時に、忙しなく右往左往と転げ回った。


「ピキィッ!!」


 攻撃とは言えない攻撃をもらった相手――緑色の体色の小さなスライムは、可愛らしい鳴き声を上げて怒りを示し、彼女に向かって体当たりを決めた。


 ゴッ!


「ぬごぉ!? 先っぽ痛っ!? 先っぽ硬っ!?」


 スライムの頭と言える尖り部分が彼女の額に激突し、意外性たっぷりの硬さに彼女は更なる痛みを受け、またもや右往左往と転げ回る。


「ピキィッ!!」


「ちょ! 待っ! タイムッ! 一旦お茶飲みタイムを――あべばぁぁぁ……」


 あれやこれやと身ぶり手振りで休戦協定を持ち掛けるも、怒り心頭のスライムに話が通じるわけもなく、この世で最も雑魚と呼ばれている魔物相手に彼女は尖り部分でボコられ続ける。


 そして数分後。彼女は見事に返り討ちにされ、ゆっくりと立ち上がって全身ボコボコの状態で引き返して来た。


「お、お姉ちゃん……」


 俺の横でずっと見守っていた少女が呆れ半分心配半分の表情で手を伸ばそうとするが、その手が届く前に彼女は背中の鞘に剣をしまって腕を組んだ。


「い、いやぁ、私も運が悪いなぁ。まさかスライムの希少種と当たってしまうなんてさぁ? まぁ良い勝負だったんじゃない? でもぶっちゃけたこと言ってしまうと、戦いが長引きそうだったから大人の対応で勝利を譲ってやったんだよねぇこれが! ヤバくない? 寛大すぎて涙出ない? 全世界の人は号泣中だろうね~?」


「出そうだわ。全く違う意味で涙が出そうだわ」


 “哀れ”。それ以外に言葉が見当たらなかった。


 どれくらいの腕なのかと思えば、まさかこれほど酷いものだったとは……はっきり言って話になるならない以前の問題だ。


「で、でも流石に同じパターンの繰り返しは萎えるから、次こそ勝利をもらうわ。どれだけ大人気(おとなげ)なかろうが徹底的にぶっ潰してやるわ。じゃないとほら、大人の威厳とか立場とか無くなるじゃん?」


「何が大人の威厳だ。何処からどう見ても十代のガキにしか見えねーよ。言い訳云々はいいからもう引っ込んでろ雑魚」


 俺も人のことは言えない若き十代だが、こいつよりは大人の威厳があるという自信がある。少なくとも口だけじゃないし、それなりの実力はあるし。


「おら、これで回復しとけ」


「あざ〜す」


 予め手に持っていたポーションを彼女に“ゆっくり”投げてやった。


 ポロッ、ドボドボドボッ……


 しかし彼女は何故か受け取ることに失敗し、地面に落ちて中身が全て溢れて使い物にならなくなった。幼児でも取れるように優しく投げたのに。


「……クロマ」


「知らん。飲みたきゃ自分で買ってこい。Gゴールドも出さん」


「そんな……ならもうクロマのポーションで良いから飲ませ――」


 そう言って俺のズボンを剥ぎ取りに来たので、正当防衛として彼女の顔面に足裏を放ち、そこでとうとう彼女はうつ伏せになったまま動かなくなった。


 取り敢えず、コイツは威勢が良いだけの雑魚だったことがよく分かった。初心者とも言えない論外の雑魚。それ以外にコイツを言い表す言葉は存在などしない……と思う。


「んじゃ、次は妹の番ね」


「え? あっ、はい!」


 一瞬呆気に取られた顔になるも慌てて返事を返し、もう一人の彼女は背に背負っていた弓を引き抜いた。


「相手はお前の姉と同じ、あのスライムだ。いけるな?」


「は、はい! 分かりました!」


 そう言うと彼女は、おどおどした様子で自分の姉をボコボコにしたスライムの方へと近付いて行く。


 しかし豪快な姉とは違い、ビクビクと身体を震わせて明らかに脅えながら近付いていた。


 スライム相手にビビり過ぎなんじゃないかと思うが……まぁ、この馬鹿がこんな目にあったところを目の当たりにしたのだから、恐怖心を抱いてもおかしくはないのかもしれない。


「え、えーと……確か、近すぎず遠すぎずの距離まで近付いて、それから弓を構えて矢を取って……」


 いつの間にか手に持っていたメモ用紙のようなものを見つつ、ブツブツと一人で呟きながらゆっくりと弓矢で奇襲を仕掛ける準備をし始める。


 あわあわともたつきながらもようやく弓を構え、矢を放とうとする。


 プチンッ


「あわわっ!?」


 しかし不幸の前触れか、輪ゴムが切れたように弓の弦が切れてしまった。


 ……でもそりゃ当然な話。だって彼女は、矢先の方を弦に向けて弓を扱ったのだから。


 弓の使い方すらまともに知らない無知な彼女。駄目駄目だ。こんな風に言われたくないだろうが、馬鹿な姉よりも戦闘に関しては論外の領域を越えてしまっている。


「ピキッ?」


 もたもたしていたせいで先程のスライムに感付かれてしまった。彼女はビクッと分かりやすく肩を跳ねさせ、急いでメモ用紙に目を通した。


「えーとえーと!? もしも弦が切れた場合はとにかく逃げる……えぇ!? そ、そんなぁ!?」


「ピキィッ!!」


「あぶっ!?」


 どうやらメモ用紙には撤退の二文字が書かれていたらしく、ショックを受けて両膝が地に付くと同時に、スライムの身体が彼女の顔面を捉えた。


「~~~っ!?」


 スライムはそのまま彼女の顔面に張り付き、彼女は呼吸をする手段を塞がれてしまう。ジタバタと手足を動かすも、何の抵抗もできていない。


 そして更に数分後。窒息を確認したスライムは彼女から離れて、さっさと何処ぞへと去っていった。


 残っているのは目を渦巻きにして痙攣を起こしている彼女一人。ここにまた、魔物一の雑魚と呼ばれているモンスターの犠牲者が増えてしまった。


「哀れ妹よ……せめて安らかに眠れることを祈るだけよ……」


「自分の妹にその対応て……お前クズ野郎だな」


「せめてチンカス程度に収めてもらいたいなぁ。イントネーション的な問題で」


「心底どーでもいいわそのこだわり」


「いやだって『チン』って言う感じがなんか気持ち良いじゃん? むしろ『チン』じゃなくて『ティン』みたいな? なんか……なんか気持ち良いじゃん? 言った後の後味の良さとか重要じゃん? ねぇ?」


「深く聞かせろと追求した覚えはねぇ。だーってろティンカス」


 ティンカスを足蹴にして置き去りにし、気を失っている妹の方に駆け寄って上半身を起こして揺すってみる。


「おい起きろ妹の方。ダメージは無いから大丈夫なはずだぞ」


「…………」


 しかし返事は返ってこない。予期していなかったであろう衝撃に心身共に衰弱してしまったようだ。まるで生気を吸い取られてしまったかのように、彼女の顔色は真っ青になってしまっている。


「…………ハァ」


 何故だ……何故俺がこんな初心者以下のポンコツ達の世話をしなきゃならんのだ? 理不尽過ぎるだろ。こうなった経緯を思い返すと溜め息しか出てこないわ。


 なんてことを考えながら、俺は深い深い溜め息を吐きながら気絶している彼女を背負い、近くの村の方へと引き返していった。




~※~




 草原、火山、海、洞窟。あらゆる場所にて数多に生息している存在――『魔物』


 誰かの話によれば、俺達人間よりもこの世に誕生して生きていたという、長い歴史をもった生き物らしい。


 そして、弱肉強食なこの世界で殆どの魔物という存在は、何かしらの害を及ぼす危険種と呼ばれ、それらを討伐すべく作られたのが『冒険者』という人間達だった。


 鍛え上げた武具を手に戦い、時には自然に存在する魔力を駆使して工夫を取り入れ、最終的に魔物を討伐する。そうすることによって冒険者達は長い年月を生き続けてきた。それは、今現在も続いている世界の話だ。


 そして――俺もその冒険者の一人だったりする。


 今は故郷でのんびりと暮らしているであろう両親に俺の願望を一方的に言い放ち、俺は世界を見て回りたいという平凡な夢を持って村を出た。


 そして現在。十七歳になった俺は、こうして冒険者として旅を続けているわけだ。


 特に金には困らず、むしろ裕福と言えるくらいに余裕がある。最高の領域に佇む冒険者と言っても過言ではないかもしれない。


 ……ただし、それはこいつらに出会う前の話だ。


「いや~、すいませんねぇクロマの兄さん。私の妹がとんだ恥さらしな結果を出してしまって面目次第もございませんよ~」


 そんな適当なことを言いながら、野獣の如くテーブル上の料理を食らい尽くす出来そこないの姉。言葉に感情が籠っていないことが明白で、怒るを通り越して呆れてしまう。


「うぅ……ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんクロマさん……」


 相反する妹の方は、自分の無力さを痛感したことと、目上の俺に手間をかけたことの二つの意味を込めてしょぼくれていた。姉とは違って自分の非を認めている辺りまだマシだと言えよう。


 あの後、ボロボロになったこの双子を連れて近くの宿に引き返していた。本当なら武器や道具に使えそうな錬金用の素材を集めたかったのだが、瀕死状態の二人をそのままにしておくのもアレなので、仕方なく戻ってきたというわけだ。


 ちなみに、今食べている飯のお代は全て俺が負担しなくてはいけないらしい。というのも、この二人は俺と出会う以前にモンスターに逆に狩られてしまい、全てのG(ゴールド)を強奪されたとのこと。呆れて物も言えないくらいにこの二人は未熟過ぎだ。


「……とりあえずだ。これでお前らが冒険者に向いてないって分かったろ。理解したならとっとと住んでいた村に帰れ」


「あっ、店員さん。この肉二皿追加でお願いしゃ~す」


「おい、食後のデザートで食い潰されてぇのかテメェ?」


「え? クロマったらこんな昼間から大胆……。でも私の身体はそんな安いものじゃな・い・ぞ~?」


 躊躇なくその顔面に拳を叩き込む。俺はこいつのようなチビスタイルの貧乳に毛程も興味はねぇ。


「女の子に暴力とか、クロマって夫婦になったらドメスティックバイオレンスとかしちゃうタイプ~? そんなんじゃ女の子にモテないぞ~?」


「あ゛あ゛あ゛っ!! 根から葉までうっぜぇこいつ!!」


 いっそのこと人身販売で売り飛ばしてやりたいくらいに癪に障る。何故に俺がこんな雑魚に上から目線で物を言われなきゃならねぇんだ。


「すすすすみませんクロマさん! あぁもうお姉ちゃん! お世話になってるのに恩を仇で返すようなことするなんて論外だよ!? 自分の立場を弁えてよ!」


「まぁそう熱くなるな妹よ。いずれ私は冒険王になる器の女帝だぜ? 今から優秀な配下に餌を撒いておいたほうが後々に効いてくるっしょ?」


 身の程知らずがほざきやがる。その弱さでどうしてそこまで自惚れられるのか、逆に感心してしまう。


「なぁ、こいつ一回生まれ変わらせた方がよくね?」


「すいません……この性分は死んでも治らないと思います……」


 どんなに優秀な医者であってもこいつの病気ウザさは治癒不可能。なんて恐ろしい病なんだろうか。そしてそれ以上にこんな病持ちの姉を持つこいつが不憫でならない。


「今まで苦労してきたんだなお前……同情するよマジで」


「うぅ……そのお心遣いに心から感謝しますクロマさん……っ!」


 同情の意味で頭を撫でてやると、妹は溢れんばかりの涙を流して頭を垂れた。


 これは間違いなく、どれだけ苦労してきたのかという表れだ。肉体的には最弱であれど、精神的には魔王クラスのタフさを備えていたらしい。


「ちょいちょーい? 誰の許可を得て私をハブにして仲良くしてるんだい妹~? この剣の錆になりたいのかな~?」


「お姉ちゃん、いい加減にしないと姉妹の縁切るよ? むしろ切ってもいいかな?」


「おぉう……こりゃ下手に逆らうとパネェやつのパターンだね。許しておくれ我が妹よ。ほら、この通り頭下げるからさ」


 というのは言葉だけで、ウザい表情を浮かべるだけで頭を下げることはない。もし俺が妹の立場だったなら姉妹の縁をぶった斬って、ついでに姉自身もぶった斬っているところだ。


「ハァ……どうせならクロマさんみたいなお兄さんの妹として生まれたかったです……」


「な~に言ってんの妹。こんなに面倒見の良い姉が他にいると思う? いやいないよね? だって私が一番愛してるのは他でもない、お前という妹……よりもG(ゴールド)――」


「後生ですクロマさん。どうかこの姉を成仏させてください。私も力添え致しますので」


「願ってもない頼み事だな。ならこのメイス使ってミンチにしようか」


「ヘィヘィ~、今夜の飯はハンバーグってか? あれって少しでも素材の分量間違えたら肉団子みたく固くなって食えたものじゃ無くな――」


 数分後、姉は見事に原形が無くなった。主に顔面的な意味で。


「ったく、少しは自分の未熟さを理解しろ。強がったところで強くなることなんてできやしねーんだよ。言葉なんて意味を持たず、力だけで捩じ伏せてくるのが魔物なんだからな」


「だ、だいじょーぶだってクロマ。人間は根性と勇気と非情さがあれば何だってできるっしょ」


「それ犯罪に手を染める前の言動にしか聞こえないよお姉ちゃん……」


 むしろ犯罪者になってくれた方が好都合だ。秩序団体に放り投げて、俺は晴れて自由の身になれるのだから。


「とにかくだ。話を元に戻すが、お前らはとっとと家に帰れ。無事に帰れるまで同行してやっから」


「あ~それは無理な話なんだなこれが~。私達が旅に出た理由とか知らないのに、そういう早とちりな発言はどうかと思――」


「お姉ちゃんちょっと黙ってて」


「え〜? でも今はお姉ちゃんが割と真面目な話を――」


「黙れ」


「…………はい」


 俺に気を使ってくれたようで、姉の暴言に苛立つ前に妹が姉を黙らせた。年上である俺の言うことは聞かないが、妹の言うことは素直に聞くらしい。血の繋がりの特権ってやつだな。


 妹はこほんと一度咳を立てると、改めて俺と身を向き合ってきた。


「えーとですねクロマさん。実は私達、自分の意思で旅に出たわけじゃないんです。というのも、今の私達には深い事情というものがありまして……」


「ふむ……聞こうか」


 ふと、妹の表情に影が落ちる。


 ……あれ? これってまさか、突如村に現れた魔物にその村を滅ぼされて、更に親まで失って行き場を無くした――みたいな根の深い話だったりするパターンだったり? やだ、こんな疲れてる時にブルーな話とか勘弁して。


「まずはですね……クロマさんはオリハルクォンという鉱石をご存じですか?」


「そりゃ勿論。数多の素材コレクター達から喉から手が出るほど欲しいと求められている激レア素材のことだろ?」


 なんでも、とある希少種な魔物から取ることができる伝説の鉱石と呼ばれていて、梅干しくらいの大きさでも売れば一生安泰の生活ができる額に変わり果てるんだとか。


「で? その鉱石が何なんだ?」


「はい……実は私達の父は素材コレクターである冒険家だったんですが、その昔に真珠くらいの大きさのオリハルクォンを偶然拾って手に入れていたんです」


「マジでか!? それじゃお前らって貴族の娘とかいう設定持ちなわけ!?」


「い、いえ、違うんです。父はお金よりもオリハルクォンの価値観を尊重していて、売り飛ばすことなく我が家の家宝として大切に保管していたんです」


 ……なんか展開が読めてきたような気がする。少なくとも絶対シリアスな話じゃない。


「でも最近のある日のことでした。家内で暇をしていたお姉ちゃんがオリハルクォンを持ち逃げしたんです」


「……おい本人。その理由はなんだ」


「ん~? アレだよアレ。なんか無性にキャッチボールがやりたくなってさ。でも良い感じの玉が無くて、その代用品としてオリハルクォンを持ってったみたいな?」


 オリハルクォンの価値観が不憫でならない発言を頂いてしまった。破天荒な人って恐ろしい。


「それで私はその相手に誘われたんです。絶対嫌だと全力否定してお父さんに言おうとしたんですが、言うこと聞かなかったら私のコンプレックスを村中に暴露すると脅されて、それでやむをえずにキャッチボールをしていたんです」


 話が進むにつれて姉の評価が底辺にまで落ちていく。クズ過ぎるだろこいつ。


「で、その最中に私がフライを取ってみたいって妹に頼んでさ~。妹は無い力を振り絞って上に投げたわけよ」


「そ、そしたら偶然通り掛かった鳥型の魔物に取られてしまって、私は血相変えながら後を追っていったんですが……」


「その鳥野郎があろうことか、一度入ったら二度と出て来れないことで有名な『デュフォンの洞穴』にスローイングしやがってさ~? 取りたくとも取りに行けなくなって家に引き返したんだよね」


「それからすぐにお父さんはオリハルクォンが無いことに気付いて、私が全部事情を話したら狂ったように怒ってしまって……」


「つまり、取ってくるまで家に帰ることを禁じられちゃったんだよね~。だから冒険家になって実力を付けた後、あの洞穴に入ろうと思ったわけだよクロマ君。ちなみに至急品は皆無で、クロマに出会うまで私達は野宿しっぱなしでした~」


 なるほど理解した。つまり――


「全部お前が悪いんじゃねぇかっ!!」


 首をへし折る思いで顔面をぶん殴ってやった。要は姉のこいつが全ての元凶で、妹は理不尽過ぎるとばっちりを受けたということだ。


 最低だ。どん底を生き続ける最低の姉だ。俺一人っ子で良かったと思えるくらいに。


「物の価値観すら理解できない猿なのかお前は!? 妹一人すら立派に守れない姉なのかお前は!? 良いのか!? お前の人生それでいいのか!?」


「ハハハッ、見てこれ妹。私とうとう真後ろを見れるようになっちゃった。これで一人で風呂に入った時でも背中を的確に洗えるぜぇ」


「聞けや話!! あーもう付き合い切れねぇ!!」


 俺はお代を置いて立ち上がり、もう二度とこいつに会わないことを誓いながら他の宿を探すことを決めた。


「ままま待ってくださいクロマさん! あぁもう何でこうなるの……」


「やれやれ、これだから最近の若い男はカルシウム不足と言われるんだよねぇ~。あの人絶対ミルク嫌いな人だよ? いっそ賭けても良ぐぇぇぇ……」


「しょうがないよね……こうなったらここでお姉ちゃんを殺して私も――」


「ま、待っで……早まるなぁ妹ぉ……わ、わがっだ……もう余計なごど口走らないがら首じめるのやめでぇぇぇ……」


 とうとう堪え切れなくなったか妹。でも犯罪を起こす前に止めておけよ?


「人間、口ではどうとでも言えるんです。誠意を見せてください誠意を」


「わ、わがっだ……ならごの公衆の面前で全裸に……」


「そうじゃないです」


 重い拳を腹に放つ妹。傍から見たら姉妹喧嘩とは思えない光景だ。


 あっ、流石に店員が注意して来た。謝ってる謝ってる。悪いのは完全に姉の方なのに。


 ……さて、手遅れになる前にもう行こ。


「うぉおおお!! 貧乏神は他人に擦り付けるまで離れないのが鉄則!!」


 くそっ、感付かれたか! 見てないで早く出ていけば良かった!


 足だけは無駄に早いようで、宿の外に出たところで全力疾走しようとした瞬間に足を掴まれ、前のめりに転んでしまった。


「痛ってーなこの野郎! 顔から倒れちまっただろーが!」


「逃げ出そうとするから悪いんだぜお坊ちゃん? 既に私と貴方は一心同体……死ぬまで貴方を放さない……」


 キモいっつーか怖いっ!


「いい加減にしろ! 妹は可哀想だが俺には関係ない話だ! 俺より強い冒険者なんてザラにいるんだから、頼りなら他を当たれ他を!」


「いやだって私人見知りだしぃ~?」


「どの口で言ってんだ馬鹿か!?」


「この口で言ってんだ馬鹿」


「よーし、ゴングを鳴らしたのはお前だからな? 今ここで叩っ斬られても文句は言わせねぇかんな?」


「暴力ですか? そうですかそうですか。都合が悪くなったら力で物を言わせるような人間なんですね貴方。それも女に対してそういうことをするんですね貴方。人として情けない話ですが、それで割り切れるのならご自由にどうぞどうぞ」


「こ、こいつっ……!!」


 ここにきて最高潮のウザさを垣間見せて来やがった! MP全部使い切ってでもぶっ殺してぇこいつ!


「殺らないの~?『ゴング鳴らしたのはお前だからな?』という格好良さげな発言しておいてそれ~? そういう口上は覚悟がある人だけが使って良い言葉なんだよ~? 何の覚悟も持たずにそういう恥ずかしい台詞を言うのはちょっと……ねぇ~?」


「……ヘヘッ……ヘヘヘヘヘッ……」


 何かもう何もかもがどうでも良くなってきた。犯罪? 常識? 自制? 何それ意味わかんない。


「待ってよお姉ちゃん――って、うわぁぁぁ!? どうしたんですかクロマさん!? 気をしっかり保ってください!」


「ヘヘッ…………ハッ!?」


 い、いかんいかん。今マジで狂人になる一歩手前まで来てたぞ俺。妹が来てくれなかったらヤバかった……。


「……あっそうだ。良いこと思いついちゃった私。なんでもっと早く気付かなかったんだろ」


「ごめんお姉ちゃん。お姉ちゃん自体が既に良くない物の塊だからまるっっっで信用できない」


「まぁまぁ聞きなさい妹よ。これはお主にとっても良い提案なのじゃ」


 妹に耳打ちして何かをぼそぼそと伝えている姉。表情から察するにロクなことを伝えているとしか思えない。


「――ね? グッドアイデーアでしょ? 天才じゃね私?」


「そそそそんな提案受け入れてくれるわけないでしょ!? 馬鹿じゃないの!? 今更だけど馬鹿じゃないの!?」


 なんだ? 何か異様に妹の顔が真っ赤になっているような……? あれ? 今こっち見た?


「自信持とうぜ妹。だーいじょうぶだって。何せ私の妹なんだし、何処に不安要素があろうか?」


「それが私にとって最大の汚点なんだけど!?」


「とにかく決まりってことで、私から全部言ってあげるから安心したまえよ」


「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!? 私まだ了承した覚えは――」


「ねぇクロマ~! 一つ提案があるんだけど聞く気はない~?」


 ……一応聞くだけ聞いておこうか。


「……何だよ」


「えっとさ~、もしもの話だよ? もしクロマが私達と洞穴に行ってオリハルクォンを持って帰ることができたら……」


 ビシッと妹を指差し、ニヘラッと笑う姉。


「我が妹を恋人として君に進呈しようではないか」


「…………は?」


「いやだから、もし私達の目的を達成してくれたら妹と○○○○して良いって言ってんの」


「より具体的になってんだろーが! つーかいきなり何言ってんのお前!?」


 なるほど、だから妹はあんなに恥ずかしがっていたのな。そりゃ承諾するわけねーわな。


「要は妹を売るっつー話だろ!? お前ホントに最低最悪の姉だな!? 姉の威厳も何もあったもんじゃねぇよ!」


「そんなこと言ってまたまた~? 本当は内心で唾を飲み込んでたりするんでしょ~? 私のロリ体型と違って、妹は出てるとこ出てるからねぇ……」


「そ、それは……」


 確かに、妹のプロポーションは言ってしまうと完璧だ。胸は大きめだし、少し小柄でありながらもそこがまた可愛らしさを引き立てているし、何より性格がとても女の子らしい。初対面の俺にもかなり愛想が良かったのがその証拠だ。


「事が済んだらあの身体(ボディ)を好きなようにして良いんだぜ? あ~んなことやこ~んなことをして『ひゃんっ!』とか『あんっ!』とか、そういうやらしい声を出させても誰も文句は言わないぜ? 美味しい話だとは思わないかい童貞君?」


「誰が童貞だ! 純情を大切にしている紳士と言え!」


「そういうご託はいいからさ~……どうするクロマ? この提案を受ける? それとも受けない? おのが欲望のままに答えなさい若人わこうどよ……」


「くっ……」


 確かに美味しい話かもしれない。この先出会いなんてないだろうし、こんな良い娘が自分の彼女になるなんて夢のような話だ。親が聞いたら泣いて喜ぶところだろう。


 ……なんて、それは俺個人の都合を考えただけの話。そう簡単に流されるわけにもいくまい。


「悪いが丁重にお断りさせてもらう」


「な、なんだと……?」


 姉が真顔でドン引きしながら退いた。そして何故か、本来ホッとするべきである妹は肩を竦めて項垂れていた。


「ば、馬鹿な!? 妹の魅力では釣り合わないと言うのか!? なんて贅沢な男よのぅ……」


「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇ! そういう意味で断ったんじゃねぇよ!」


「じゃーなんで断ったのさー? 理由を教えてよ理由を」


「んなの決まってんだろーが。俺はともかくとして、妹の方が首を縦に振るわけがねーからだっつの」


「ふーん……じゃあクロマ個人としては申し分無いってこと?」


「そりゃまぁ……優しくて愛想良いし、俺にゃもったいないくらいに可愛いし、俺的に女性の鏡のような奴だと思うし、何よりやっぱ良い娘だし……」


 どっかの誰かと違ってな。


「ほほぅ、ベタ褒めッスね。姉として妹を褒められるのは嬉しい――というより謎の高揚感が沸き上がって興奮してきたわ」


「……もうお前分からん」


「分からなくて結構! 誰にも捉えられない風のような女が私なのだから!」


「少なくとも、スライム如きに捉えられてた奴が言う台詞じゃねーな」


 兎にも角にも、妹を手打ちにしてこいつに付き従うなど言語道断。今度こそ立ち去らせてもらうとしよう。


「あ、あの! クロマさん!」


「じゃあ達者でな」と踵を返したところ、顔を真っ赤っかにさせた妹に先回りされた。


 すると否や、地べたに頭を擦り付けて土下座をしてきた。


「お願いしますクロマさん! 私達本当に困ってるんです! 主に姉がこんなせいで何をするにも上手くいかず、どれだけ足掻こうともどうしようもないんです! こうして誰かに縋り付く思いで頭を下げることしかできないんです!」


 そうして何度も何度も頭を地面に叩きつけて頭を下げる。


「お願いします! お願いします! どうか私達を助けてください! お金を払うことはできませんけど……か、身体で払うなら……うぅぅ……」


「もういい分かった分かった! お前の必死さは嫌というほど伝わったから!」


 全ての元凶は姉。故に頭を下げるべきなのは姉なはずなのに、巻き込まれただけの被害者である妹が恥と外聞を捨ててまで頼んで来ている。ここまでされたら断るものも断れない。


「いやぁ、素晴らしい誠意だね妹。良い妹を持って私は幸せですな〜。はっはっはっ」


「お姉ちゃん……この件が済んだ後の夜道には気を付けてね」


 本気の殺意を向けられていることにも気付かずに、姉は能天気に笑い上げる。全て片付いたら覚えとけよこいつ……。




〜※〜




 デュフォンの洞穴。この辺りの地帯に存在するダンジョンの中で最も危険性が高く、やばい魔物がうじゃうじゃ徘徊しているんだとか。特に、最下層には魔王と肩を並べる化け物もいるらしく、上級冒険者でさえもあまり訪れない場所だと言われている。


 やって来るものといえば、チート級の強さを持った化け物勇者か、無謀を承知で挑む馬鹿の二択。とにかく、自分から近付く場所じゃないということだけはよく分かる。


 しかし……しかしだ。俺はそんな場所に自ら入らなくてはいけないらしい。しかも全く戦力にならないお荷物の二人を引き連れて。


「先に言っておくが、自分の身は自分で守れよ。恐らく俺は自分の身を守ることだけで手一杯だからな」


「やだなぁクロマったら。それができたら今まで苦労してないぜ私達」


「悔しいけどお姉ちゃんの言う通りです……」


「くっ……ならせめて捕まらないように逃げ回ってろ。いいか? 俺の戦闘の邪魔だけはするなよ? 絶対だからな? フリとかじゃねぇからなこれ?」


「御託はいいから早く行こうよクロマ。時間惜しいの分かる?」


 ……こいつだけここでくたばってくれることを祈っておこう。恩知らずの馬鹿を気遣えるほど善人じゃないんでこっちは。


「よし……行くぞ。暗いから足元気を付けろよ妹」


「は、はい!」


「クロマ私は? 私に対する心掛けみたいなものは無いの?」


 真のお荷物の言葉をシカトして、真っ暗闇の魔窟ダンジョンへと足を踏み入れた。


 奇襲されても対応できるように予め剣を抜いておく。ライトは魔物に気付かれる恐れがあるので、淡く光っている道端の結晶を頼りに進む。


 遅過ぎず早過ぎずのペースを保ち、奥へ奥へと突き進んで行く。


「「「…………」」」


 ……妙だ。もう結構進んだはずなのに、魔物一匹すら出てくる気配がない。そもそも魔物がいるっぽい気配がまるで感じられない。まさか様子を伺われているのか? それとも違う理由が……?


「な〜んだ、所詮は噂だったみたいだね。魔物なんて何処にもいやしないじゃん。この分だと余裕で(ブツ)が見つかりそうじゃね?」


「そうやって調子に乗ってると足元すくわれんぞ。知ったことじゃねぇけど」


「すくわれるっつーか、救われたいんだけどね。早く帰ってフワフワのベッドに横になりたいわ〜」


「しぃ〜! 静かにしてお姉ちゃん。いつ何が起こってもおかしくないんだから」


「二人して大袈裟だなぁ。だから大丈夫――ん? なんか聞こえてこない?」


 聞き耳を立てる出来損ないの姉に続き、俺もよく耳を澄ませてみる。


「……確かに聞こえてくるな。これは……喧騒?」


「なんだか騒がしい声がしますね。何なんでしょうか?」


「とにかく行ってみよーよ。じゃなきゃ謎は解明されないぜっ」


 いちいちウザいがその通り。ここで立ち尽くしてもなにも進展しやしない。


 今一度覚悟を引き締めて、妙な声が聞こえて来る方向へと向かう。と言っても一本道なので、迷おうと思っても迷える場所じゃなかった。


 そして――その喧騒の元に辿り着いた時、俺達は絶句した。


「クタバレ同志ヨ! 馴レ合ウノハ今日デ終ワリダ!」


「血祭リジャア! 生キ残ルノハコノ俺樣ダケダァ!」


「無様ニ朽チ果テルガ良イワ! フハハハハッ!」


 狭い一本道を抜けた先にあった円状の広場のような場所。俺達の目の前では、今まさに激闘が繰り広げられていた。


 しかし、戦っているのは冒険者ではない。狂ったように暴れ回る魔物の姿しか見当たらず、どいつもこいつも凶暴そうなやつばかりだった。


 俺達はすぐさま近くの岩の陰に隠れて身を潜め、魔物達の様子を伺う。


「何これ? バトルロワイヤルでもしてるのかね?」


「俺が知るか。どうなってんだ一体?」


「と、とにかくこのまま様子を見てみましょう。原因が分かるかもしれませんし」


「だね。それにこのまま共倒れしてくれたら言うこと無しっしょ。一石二鳥ってやつ? いやぁ、やっぱ私ってば幸運だわ〜。日頃の行いが良いだけあるわ〜」


「むしろ悪いからこうなってんだろ馬鹿が」


 このまま出て行っても袋叩きにされる恐れを予知して、俺達は身を隠し続けたまま魔物の動向を伺う。何故魔物と魔物が殺し合っているのか……その謎はすぐに判明することとなる。


「さぁ戦え下僕共! 生き残った物にはこのオリハルクォンが進呈される! 人生……いや、魔生の勝ち組になりたければ、その手で掴み取ってみせよぉ!」


「「「オォオオオッ!!」」」


 よくよく見ると、一番奥の方にどでかい図体の人型の魔物がいた。しかもその手には、俺達が求めている例の(ブツ)が握られていた。


「なるほどなるほど。オリハルクォン強奪戦で仲間割れしてたわけか〜。魔物って実は欲深かったんだね?」


「言ってる場合か! 一番やばい奴に奪われてんじゃねーか!」


「ど、どどどどうしましょう!? 滅茶苦茶強そうですよあの魔物!?」


 恐らく奴がこのダンジョンのボスと見て間違いない。最悪だ。よりにもよってボスの手に渡っていたなんて。


 実力行使じゃまず奪えない。未だ魔物達は乱戦中だし、仮にタイマンだとしても俺じゃ奴には勝てないだろう。


 どうする……? どうやってあんな化け物から奪い返す? 駄目だ、何も思い付かない。


「全員、待ったぁぁぁ!!」


「「…………え?」」


 俺と妹とで知恵を振り絞っていた時だった。いつの間にか近くに姉の姿が無くなっていて、気付けばあいつは単身で魔物の群れの前に仁王立ちしていた。


「な……何やってんですかお姉ちゃん!?」


「あっ、おい!?」


 すると、今度は妹の方まで慌てて出て行ってしまった。何なのあの二人? 馬鹿なの? 死ぬの? 死にたがりなの?


「止め止め! 一旦その手止めよう! そして私の言葉に耳を傾けようか!」


 高らかに宣言する姉。魔物達は本当に一旦手を止めて――二人の周りをあっという間に取り囲んだ。


「人間……シカモ女ダ」


「美味ソウダ。特ニコノ胸デカイ方ガ」


「ひぃぃ……お、お姉ちゃん……」


 魔物達の興味はオリハルクォンから二人の人間(えさ)に。オリハルクォンを持ったボスは呆然と立ち尽くしていて、ぽつんと一人取り残されていた。


「まぁまぁ待ちなさいよ魔物諸君。ちょいと私の話に耳を傾ける気はないかい?」


「ネェナ」


「……そっか」


 鼻で笑いながら目を瞑る姉。そして――


「あぁ!? あんなところに魔物の憎き仇の冒険者がいるぞ〜!?」


 岩の陰に隠れている俺を指差し、わざとらしく声を上げた。


 ギラリと目を怪しく光らせ、魔物達が一斉にこっちを向く。


 俺、ターゲットロックオン。


 あの野郎……後でぶっ殺してやる!!


「冒険者ダ!! 冒険者ヲ殺セェェェ!!」


「姉てめぇぇぇ!!」


 殺意剥き出しとなった魔物達が一斉に襲い掛かってきた。俺は踵を返し、全力で逃げ出した。


「よし、今だ妹。クロマが魔物を引き付けてる間にあいつからオリハルクォン取り返そう。実は切り札とかも用意してるんだよね」


「……私もうお姉ちゃんのことお姉ちゃん扱いするの止めるから」


「まぁそう言うなってば〜。さて、ここらで私の本当の力を見せてやろうじゃないか! 輝け私の宝刀! その力を解放せよー!」


 妹を引き連れてボスに向かって駆け出していく姉が短刀のようなものを懐から取り出した瞬間、その短刀が広場全体を覆う光を輝かせ出した。


「ま、眩しい!? 何それお姉ちゃん!?」


「これ? 前に道で拾った宝刀だよ。見た目が凄い豪華だから鑑定屋で見てもらったことがあったんだけど、そしたら本物の勇者の剣だったんだよねこれが。つまり、これさえあれば基本魔物は何でも倒せる」


「じゃあなんで最初に使わなかったの!? というか完全に落とし物だよねそれ!?」


「落とした勇者が悪いでしょ。もうこれ私の物だから。私の宝刀だから。絶対返さないから勇者に」


「ある意味お姉ちゃんが史上最悪の魔王だよ!!」


 全くだ。恩人を魔物に売った挙句、勇者の私物すらネコババしているのだから。死んだら間違いなく地獄に落ちるなあいつ。


「……ていうか、いつまで光ってんのこれ? 眩しくて目が開けられないんだけど」


「眩しい! 何も見えないよお姉ちゃん! は、早く光を収めてよ!」


「いやそれが使い方が全く分からなくてさ。あっ、もしかしてこの光で魔物を失明させるっていう使い方だったり?」


「そんなみみっちい勇者の剣があるわけないでしょ!!」


「取り敢えず振ってみよっか。衝撃波的なものが出るかもしれないし」


「ま、待って! 下手に使ったらまた嫌な予感が――」


「えいっ」


 妹の助言も聞かずに剣を振った姉。




 ――ダンジョン内が爆炎に包まれ、天高く火柱が上がるのだった。




〜※〜




「……で?」


「いや……まぁ……ご覧の有様だよね〜?」


 姉の活躍により見事魔物を討ち滅ぼし、オリハルクォンを取り返すことができた。


 ……砂粒程度だけ。


「クロマさん、全治三ヶ月だってお姉ちゃん」


 あの爆炎の中、奇跡的に無事だったのはこの双子の姉妹だけ。俺は爆炎の直撃と落石により、ミイラ男と変わり果てていた。医者の話によれば、もう二度と剣を振るうことはできないと言っていた。


「俺もう魔法しか使えなくなっちゃったんだけど。ねぇどうすんの?」


「どうするのお姉ちゃん? どう責任取るの?」


「……仕方無いなぁ」


 姉は諦めたように目を瞑りながら笑うと、着ている服をはだけさせて俺を手招きしてくる。


「お詫びに私の身体売っちゃるよ。さぁ来い!!」


「「…………」」


 妹の蹴りが顔面に炸裂し、姉は無様に宙を舞うのだった。

 正直オチが雑になった終わり方のお話でした。気晴らしの短編なんてこんなもんです。


 ぶっちゃけ姉がウザすぎて書く気力が無くなったのが本音です。私にも姉がいますが、流石にここまでウザくは……いや、やっぱり微妙なところです。


 恐らく今年最後の短編でしたが、なんとも後味の悪い最後でした。本当に申し訳ありません。


 では、また来年の短編でお会いしましょう!

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