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幻影のユミア  作者: 謎の修正液
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第7話 怪しい!

 ユミアが本屋から帰った夜のこと、ベニムの下級階層の土ぼこりで汚れた暗い裏路地にて銀髪エルフの少年と大量の赤毛をオールバックへと固めた筋肉質で背が高く目つきの悪い少年が向かいあって話し合っていた。


 暗い中でも問題なく彼らは話していた。


「ミラーさん、アイツはどんな奴でした?」


 赤髪の少年は壁にもたれかかりながらも興味があるのか鋭い目をしながら聞いていた。


「ミラーさんね……ふふふ、僕としてはソーラって名前も気に入っていたけど」


 ミラーと呼ばれたエルフの少年は、聞かれた答えをはぐらかすように笑顔で呟いた。


 エルフの少年の名はソーラ、いや実名は『ミラー』であるらしい。


「ミラーさんって本当に名前変えるの好きですよね……」


 赤髪の少年は困ったような笑顔を浮かべながら話しかけた。


 それに対してミラーと呼ばれた少年は寂しそうな笑顔で。


「名前なんて見方によって変わるのさ、ふふふ。あ、そうそうユミア君は……」


 話題の中心はどうやらユミアの話らしい。


 赤髪の少年の顔が真剣な表情へと引き締まる。


 どうやら彼にとって重要な話らしい。


 ミラーは一呼吸置いたあともったいぶるような言い回しで話した。


「彼は昔の君に、いや今の君によく似ている……」

「それじゃあ、アイツを俺達の仲間に入れるんですか?」


 その対応に焦れたのか赤髪の少年はミラーの言葉を遮るように尋ねた。


「ヘキサ、まだ話している途中だよ、そこは君の悪い癖だ。」

「はぁ……すんません」


 赤髪の少年の名は『ヘキサ』というらしい。


 ミラーに少しだけ指摘されると先程の態度が嘘のように落ち込みながら謝った。


 そんな態度を見てミラー自身も悪い部分はあったと思ったのかこの後特に言及することもなかった。


「そうだね、残念だけど彼を仲間に入れる事は無理そうだよ」


 ヘキサは残念そうに「そうですか……」と呟いた。


 その様子が面白いのかミラーは再び笑い出しながらいった。


「ふふふ、まだまだ候補はいるから次を当たろうか。さあ、ナドレも帰ってきたしそろそろ行こう」


 ミラーはヘキサから視線をはずし、向きを180度変えると歩き出した。


 いつからかヘキサの後ろにはピンク色の髪をした少女がいた。


 彼女がミラーの言った『ナドレ』だろう。


 存在感の無い彼女とは逆に格好は存在を主張しているように見える。


 服装は赤のゴスロリ服に黒いなめし皮で作られた両眼を覆うアイマスクが装着されていて腕にはちぎれた鎖がぶら下っている……一見みると特殊嗜好の為用意された娼婦のような格好をしている。


 そんな彼女の登場にヘキサは不意を打たれたのか一瞬だけギョッと驚くも何事も感じなかった風を装った。


「……」


 ナドレは何も言わずにミラーの後を着いて歩いて行ったのだが不思議と鎖のこすれる音はしなかった。


 続けてヘキサも後から続いた。







 本屋を飛び出した日から幾日もたつ。


 あれから不安になるような事件は起こらなかった。


 一週間ほど後、俺は帝都ライオネットへ一ヶ月ほど研修という名目で償還される。


 帝都とベニムは隣同士の都市である為近い……とはいっても普通に馬車で行けば5日はかかるだろう。


 その為今日の午後から移動を開始しようかと考えている。


 俺は日課の朝掃除を終わり一人机で百科典を読んでいる最中だ。


 試験は終わったというのに……本を読み続けるのはもはや癖だな。


 暇さえあれば『ガニアン大百科辞典』を読み漁っている。


 ガニアン大百科辞典とは名前のまんま、ガニアン帝国が長い歴史の中であらゆる科目にわたる知識を集め、解説を記した書物のことだ。


 この書物は毎年更新され発行されているが、特定の階位を持つ人間か、専門職を取り扱う職人しか購入することが許されない本なのだ。


 特に一般民衆へ見せることは禁止されているため、俺も読むときは家の中で読んでいる。


 そんな書物がなぜ家にあるかというと、勉強をし始めた頃、何か参考になる本はないかと義父の書物を漁っていたとき偶然発見したからだ。


 その時は試験準備中ということもあり、詳しくは見れなかったが、時間が空いている今読んでみるとなかなかに新鮮で面白い。


 この本はなかなか古い版の百科事典だがそれでも今なお通じているものは沢山あると思う。


 例えばこれからいく帝都ライオネットの公の施設には、『水道』なるものが完備されているらしい。


 この本によると水道とは水源から都市に水を導く道、また導いて飲用などに供する設備と書いてある。


「考えられないな……」


 普段水汲みを井戸からしている俺からすれば家にいても水が手に入るという事実が想像もつかない。


 たぶんそれは魔法ではないだろう、永遠に続く魔法などあるはずがない。


 だとしたら、最近発達してきたといわれる『工学』というものなのか?


 いやしかし、それだと金が掛かりすぎる、もしかするとコスト以上の効果があるのか?


 と、そんな疑問を考えながら帝都へと心を躍らせていた。



 


 ガニアン大百科を読んでいる最中のことだ、こそこそと慌てながら居間を抜けるローナの姿が見えた。

 

 ローナか、こんな朝早くから何やってんだ?


 普段は昼前まで寝ているグーたらなローナだが、今朝に限ってはキチンと身だしなみを整えていた。


 何かあったのだろうか?


 本を読むフリをしつつ、玄関へと向かうローナを視線だけ追いかけた。


 ローナは静かに玄関の扉を開けるとゆっくりと閉めた。


 怪しい……


 いつもはがさつにあける彼女が今日に限っては丁寧に開け閉めしているとは……


 そんな事を疑問に思った俺はローナに気がつかれないように後ろから着いていき不可解な動きの原因を特定するために観察することにした。


 バッ、ストーカーとかそんなんじゃないからな!


 こ、これはローナの教育の為だ、もし悪い奴に絡まれていたらそいつ等を消す。


 ハッハッハ、朝飯食うより簡単な話だぜ。


 俺の内心をよそにローナは、黙々と大通りとは反対の方向へ向かっていった。


 そっちの方向は……何もないよな?


 俺達が住んでいるベニム中層の居住区の外れの方角へとローナは向かっていった。


 その方向には何もない、あるとするならベニムの外壁だ。


 よし、出発までの時間はまだまだある。


 こうなったらトコトン調べてやるか。


 いつの間にか疑問は好奇心へと変わっていった。


 内心それはマズイと思いながらも止まらなかった。



 


 なんとかローナに尾行を気がつかれることなくベニムの外壁までたどり着いた。


 よし、今度は何をするんだ?


 目の前にはボロボロになった石の壁の前であたりをキョロキョロ見回し警戒しているローナがいる。


 それにあわせて尻尾の毛が逆立っている。


 うん、これだけでも怪しい。


 一通り辺りを見渡し満足がいったのかローナは石の壁に寄りかかっていた木の板をずらす。


 え?穴か?


 外壁には人一人通れる程の穴が開いていた。 


 おいちょっと待て。


 ローナは何事もなかったかのように穴の中を潜って出ていった。


 これ、報告しないとまずいよな……


 通常外壁の穴は発見しだい報告することが義務ずけられている。


 ローナはたぶん義務ずけられていることを知らないのだろう。


 正義の味方を目指している彼女の性格からすれば知っていればすぐさま報告しただろう……いやまて。


 そういえばアイツこの穴を隠すように警戒していたよな?


 先程周囲を見渡してたことを思い出し、少なからず知らない訳は無いと思う。


 だとすると穴の向う側には何があるんだ?


 まあ……穴を潜ればわかるだろう。


 疑問に思いながらもバレないよう時間を空け俺も穴を潜り抜けた。



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