第5話 本屋のジジイ!
「おい、糞ジジイ話を聞け!さっきから何度も言ってるだろ変な男に会ったって!」
現在俺は古ぼけてかび臭い本屋にいる。
「なに?変な男?心配せずともわかってるとも、今ワシの目の前にいるではないか?」
「えへへ~」
今話している長く伸ばした白い髭の糞ジジイはベニム中層にある本屋の店主だ。
俺は先ほどあった少年の話を真剣に話しているがこのジジイは取り合うことはない。
そしてローナは他人事のように笑っている。
「偏狭で頑固な糞ジジイめ!」
「偏狭で頑固はお前さんのことだろ?な~ローナたん、あー!ローナたんの防具かっこいいでちゅね~!」
「おじいちゃん、ソーラさんってね凄いんだよ!聞いて聞いて!」
「お~かわいいのお、ローナたんprprどうちたんでちゅか~?」
なぜ俺がこんなロリコンジジイに必死こいて話しこんでいるかというと、この糞ジジイ意外にも実は有名な大魔法使いだったりするからだ。
「ローナたんprpr~じゃねーぞ糞ジジイ!次ふざけたらその髭引っこ抜くぞ!」
「ようやく立ち読み犯がいなくなったと思ったら……次は恐喝犯がきたわい!」
やれやれと肩をすくめる態度をとりながら可愛そうな人でも見るような目で俺を見つめる糞ジジイ……てめえ!いつかぜってえ殺す!
確かに帝国文武両官採用試験を受けるためここの本屋で立ち読みをしていたが、このジジイ俺の事を本屋業界の敵だと過去にのたまいやがった。
立ち読みは悪、それはまだいい。
しかしローナの立ち読みは良い立ち読みだの知識を後世へとつたえるためだの偉そうに俺に説教までしやがった。
あ~思い出してもイライラする。
そんな俺の反応をよそにローナはポケットをがさごそと何かを取り出そうとしている。
ん、俺の願いは届いたのか?
「おじいちゃん~見てみて!ソーラさんが書いてくれたの~」
ローナは現実と遜色のない精巧に描かれた絵をジジイに見せる。
そうだ!この絵を見ればジジイだって奴の異常性がわかるはず!
いつも応援などしないローナに向け手に汗握りながら応援する。
がんばれ、がんばって伝えろ!ローナ!
精巧に描かれた絵をジーと見つめた後ジジイは……
「よく描かれておるのお!ソーラという男なかなかやるわい!」
「だよね~!ソーラさん凄いよね~!」
「そこじゃね――だろ!」
古い本屋に俺の絶叫が響き渡った。
客など普段からいないのだからどうでもいい。
「ユミア、うるさいわい!ローナたんが怯えちゃうだろう!」
ああ、もういい こんな糞ジジイに頼った俺が馬鹿だった。
「おいローナ、帰るぞ」
「え~」
無理やりローナを糞ジジイから引き離し家に帰ることにする。
そんな俺の態度を見て焦ったのかジジイは俺を呼びとめる。
「ああ、まてまてユミア……ローナたん少しユミアと奥で話してくるから好きな本でも読んでなさい、あっ、そうそう新しい正義の味方の伝記はいったぞい!」
「わ~い!ありがと~、おじいちゃん大好き!」
「!!!!……ドゥフフフ」
糞ジジイが頬を赤く染めながら気持ちの悪い笑い声を上げる。
キモすぎ!
ローナは過去ローナの為にわざわざ作ったといわれている伝説の立ち読み特等席へと駆けていった。
それを確認した後、ジジイは先程とはうって変わって真面目な態度を取った。
「ユミア……いつその少年と会った?詳しく聞かせてくれ」
「最初からそういう態度とれよ……糞ジジイが」
俺は先ほどから受けたストレスからか素直になれずにいた。
腕を組み体をわざと体を揺らし人と話す態度をとらない俺をみてジジイは薄い笑みを浮かべながら言った。
「お前さんが慌てれば慌てるほど、ローナちゃんに焦りが伝わるだろう、馬鹿者が……」
「……っ!」
俺は何も言い返せずにいた。
そのとおりだ。
そしてこの次ジジイが何を言うかがわかる。
「「幸せと感じているのならそれが本来どんな形であれいいじゃないか」」
見事にはもった。
いいや、わざとはもらせた……説教はごめんだからな。
そんな態度を見てかジジイはため息を吐きながら喋った。
「はぁ、ユミア もう少し大人になりなさい」
「……後一年かかるぜ」
「そういうことを言っているのではない、わかっておるのだろう?」
後1年経てば15歳で成人だ、そうすれば大人だろ?
……ああ、何が言いたいかわかってる。
揚げ足を取ってる時点で俺はまだ子供なんだろうな……くそ。
「まあいい、それはおいておくぞ……もう一度聞く、何があった?」
俺の目の前には先ほどのふざけたジジイとは異なり、業火の大魔法使いリゲル・オルコットがいた。
「中層の広場で姿絵を……」
今度こそ真剣に今さっきのことと昨夜のことを話した。
「ふむ、なるほどのぅ……」
「……」
俺はジジイに全てを話した。
「先ほどの絵、もしや魔道具から作られたのではないか?」
「ははは、まさか~」
魔道具が何かを生み出すという話なんて聞いた事がない。
それにこれだけ精巧な絵を長時間生み出すことができるのならもっと話題になっていてもおかしくは無いはずだ。
「う~む、ワシも長いこと生きてきてあんな精巧な絵は初めてみるの~それはともかく奴の目的は何であろうな~?」
絵のことなんかよりそこが問題だ。
「そういえば奴の見ている世界を描くとかうんたらかんたら言ってたな~詳しくはわからなかったけど。」
「う~む、描く?」
ジジイは難しそうな顔して黙り込んでしまった。
「あっ、そういえば少しばかり変な空気が流れた時にこんなこと聞かれたっけ?ありのままを描く絵と脚色して描く絵のどっちの絵がいいか?」
「で?おぬしはどっちと答えたんだ?」
「俺は脚色して描く絵のがいいと答えたんだ」
「……ふむ、なるほどのぉ」
ジジイは渋い顔をして考え込んでしまった。
しばらく考えたのち爺は結論をだした。
「さっぱりわからん!」
「……だよな~」
与えられた情報が少ない、むしろわかったと答えられたほうが信頼できない。
「ともかくじゃ、謎の道具を使うソーラという少年はユミア、おぬしに危害を加えてないのだろ?なら今まで通り過ごせばよかろう」
「{まだ}、危害を加えられてないだけだ。そのうち、いや近いうちにくるんじゃないか?」
「はぁ~、おぬしの悪い癖じゃ、他人を信じられないのはわかるが世の中全てを疑って生きられるものではないぞ」
世の中全て疑ってるって?ああそうさ、俺は家族以外は常に疑っている。
ジジイ、あんただってわかってるはずだろ?
業火の大魔法使いの最後は……。
ジジイの事を思い出す。
有名な話だ、ええと……
「……ユミア、大人になりなさい」
「!」
黙っていた俺にジジイは畳み掛けてきた。
ふん、言いたいことはわかるがそれ(・・)は到底受け入れられるものじゃない。
だからこそ俺は言ってやる。
「そいつを信頼して何かあってからじゃ困るだろ?疑うことは悪いことじゃない!」
「……別にそやつを信頼しろといってるわけじゃない、ええい言葉が悪かったな ならこういえばいいか?一人で抱え込むな、と」
「は?……ジジイ」
このジジイも不器用な男だ、協力するなら初めから言えってんだ。
そんなジジイの態度をみて俺も少しだけ素直になろうと思った。
「俺がいない間、ローナのこと父さんのこと、ジジ……いえ師匠 どうかよろしくお願いします」
「ああ、ワシは老い先短い命じゃが、お主の留守中は無事に過ごせるように老骨に鞭打つとするかのう」
話が終わるとジジイの顔から先ほどから見せる険が取れていた。
難しい話が終わり、俺は指定の教科書の予約の為の書面を書いていた。
その間、ジジイはというと。
「ろ、ローナたん、も、もしよければドゥフフフ、おじいちゃんの養子に……ドゥフフフ」
会うたびにいう定型の挨拶?を行っていた。
「いやっ!」
「あqwせdrfgtyふじこlp;@:」
ジジイ撃沈、ざまぁみやがれ。
「おじいちゃん、気持ちは嬉しいけど私にはお父さんがいるから……ごめんね」
ローナの暖かい言葉を受け絶望の海からジジイが這い戻ってきた。
「くっ、ロジックゥ……あの飲んだ暮れめ!許せん!!」
ジジイがローナの父親に向かって吼える。
「お父さんのこと悪くいうおじいちゃんなんて嫌い!」
「あああqwせdrfgtyふじこlp;@:」
ジジイ再撃沈、もう一生浮かんでくるな……
日の暮れ始めた夕方、本屋の中は暗くなり始めていた。
さて、本屋に来た理由だが実はもう一つあったりする。
「ローナ、改めてヒーロ校入学おめでとう!お祝いとして本を一冊だけ買ってあげるから選んでこい!」
それは俺からローナへのヒーロ校入学祝いだ。
普段からこつこつと倹約に努め今日この日の為今まで溜めた金を今吐き出す!
元はといえば義父の金なんだが、今日くらい いいだろ?……え、駄目?そういう問題じゃない?
なら俺と義父からの入学祝いだ!
「ええ!いいの!?ユア……無理してない?」
ふっふっふ、ローナめ普段俺をただの守銭奴だと思っていたな~、しかしそれは違うぞ。
俺はすげーーー守銭奴だ!
ん?少し伝えたい意味が違う気がするが、まあいい。
「ああ、無理なんてしてないぞ、いいから好きなの探して来い!」
「やったあああ!」
俺の言葉を最後まで聞かずローナは尻尾を振りながら駆け出していった。
「おぬしもなかなか粋な事をする、ついでにワシもプレゼントしちゃおうかな~!」
「おいジジイ、今日くらい俺をたてろ!」
締まらなかった。
しばらく時間が経ちローナが選んできた本の題名をみて俺は釘付けとなっていた。
なぜならその本は……
「ユア!ユア、私この本にする!この本の主人公ね女性なんだよ!女性の正義の味方の本なんだよ!」
ローナは興奮気味に俺に本を差し出す。
尻尾が元気に揺れているのをみてどう切り出すか悩む。
「ほう、『赤獅子シャーロットの伝説』か、実に面白い内容の本だな」
「有名なのか?」
俺は正義の味方に興味が無いので全くわからない。
しかし現在においては人気なのだろう。
このまま話しが流れてもいいことはない、なので早々に釘を刺しておくことにした。
「ローナ、ごめんなその本だけは駄目だ」
「え?」
ローナがなんで?という顔を向ける。
理由、理由か……
少し話すか、いや……話したくない。
挙動不審な俺をみて何か思うところがあったのか、ローナはいつもの我侭を言わずにただ純粋に聞いてきた。
「どうして駄目なの?」
「……じ、実はな」
無理無理無理、言えるわけない。
だから嘘をつくことにした。
「実はな、その本、俺は読んだことがあるんだ」
「え?ユミアも正義の味方の伝記読むの?」
「ああ、まあな その本の主役が女性だし少しだけ興味を持って……」
ローナに嘘をつく罪悪感で胸が痛い。
本当のことを話したい。
しかし本当のことを言うわけにはいかない……だから。
「ほらさ、その本……最後に正義の味方が死んで終わりだろ?そういうのは教育上駄目だよ、やっぱ皆が皆ハッピーエンドで終わらないとさ」
俺は嘘を突き通した。
もちろん読んだことはない、ハッピーエンドに関してははなっから望んでいない、それらも嘘だが教育上という卑怯な言葉を使った。
あ~自分で自分が嫌になる。
今さらだが嘘をつくほうが辛かったかもな……
「むぅ、それならしかたないか~うんわかったよ、別のにする!」
「ああ、そうしてくれ」
「…………」
ローナは一旦顔をしかめると聞き分けよく理解してくれた。
そう言うとローナは本を戻すのと、新しい本を見つけてくる為再び走り出した。
ジジイはさっきから俺の顔をジーと見つめている。
たぶん何か隠しているとバレているのだろう。
「……そういうところだけ変に大人になりやがって、馬鹿モノが」
ありゃりゃ、やっぱりジジイにはバレていたようだ。
そりゃあそうか、読んだことあるんだっけな。
本を読んでたら先程言った俺の本の説明に矛盾があると気がつくだろう。
「そういや、ジジ……いや師匠にはまだ話してなかったっけ?」
「おぬしは自らの事を全く喋らんからな、知らんわい!」
このジジイにはいろいろとお世話になるだろうから話しておくべきかもな。
話すことが礼儀だよな~。
少し考えやっぱり話すことにした。
「ジジイ、少し長くなるけど聞いてくれ……」




