第4話 姿絵屋に行こう!
ローナの希望通り上層にある高級レストラン……ではなく中層の商店街付近の露店にて食べ歩きながら昼食をとっている。
約束を反故にしたためローナの機嫌が悪くなり文句を言ったのはいうまでもないが、現在はこの通りである。
「えへへへ、ユア~このソーセージもおいしいよ~、あ、あそこのチキンも買おうよ!」
「しょうがねーな!今日だけだぞ、好きなの選んでこい!」
実にちょろい!
「やったあ!」
「はいはい、あっ、お釣り確認するの忘れるなよ!」
「えへへ、わかってるよ!」
ふわふわの尻尾を左右に動かし露天へと駆けていった。
余程ジャンクフードが気に入ったようだ。
「ふぁ~」
石が乱雑にばら撒かれ整備されている道の中央で俺はローナが飯を買いに行っているのをあくび一つしながら待っている。
もちろんただ待っているのではない。
昨夜のストーカの真偽を確かめるため、わざわざ油断を見せているのだ。
……今のところつけられている様子はないな。さてどうするか。
いるかいないかわからない相手にこれ以上神経を使うのは正直疲れる。
警戒をといて時間をあけてそのつど調べることにするか~。
そう考えているとローナが露天からニコニコ笑顔で駆け寄ってきた。
「2本も買ったのか?というよりそんなにに食べられるのか?」
「食べられないよ!えへへ~、はい!」
ローナの手には串に刺さった大きいチキンが二つ握られていた。
油が良い感じにしたたり、おいしそうだ。
ローナはチキン一つを俺に手渡した。
「くれるのか?サンキュー、それで?おつりは?」
「あげるよー、おつりね、はい!」
俺はチキンよりおつりの確認を優先する。
こういう露店は出入りが激しく、出店したと思ったらすぐに消える店もあるのでお釣りの誤魔化し程度は普通に行われているからだ。
ひい、ふう、みぃ うん、きちんと銅貨の枚数は合ってる。
よし、大丈夫そうだな。
「しっかり買い物できたな、偉いぞ!」
「へへ~ん!あたしは偉いよ!」
無い胸で威張るローナ、串を持っているためか、あまり様になって無い。
そんな様子を見ているからか、周囲を歩く人たちが俺たちのことをジロジロとみている。
原因はわかっている、ここらで少し注意してやろう。
「あ~ローナ、嬉しいのはわかるが街中だし防具ははずそうな~?」
「いやっ!」
……即答かよ!
防具店の中では違和感は余り無かったので気がつかなかったがローナは現在買ったばかりの指定防具を着用している。
それだけなら騎士や正義の味方が常駐するこの街の格好としてそこまで目立つことはないのだが、その防具はなんといっても派手な色で非常に目立つのだ。
それに指定防具の背面装甲に「正義の味方の卵」とでかでか描かれている。
そりゃあ、みんな見るよな~。
俺だって他人事として見られるのなら見てみたい。
しかし他人事ではないんだよな~。
道行く人達皆が皆、暖かい目をしてみてくれている。
中には知り合いもいて「ローナちゃんヒーロー校行くんだって!頑張ってね!」とさっきからご丁寧に挨拶までしてくれる。
……恥ずかしい、、、もうやだ。
「ぜったやだからね!」
俺が無理やり防具を奪うんじゃないかという心配からかローナは防具を守るように腕で覆った。
失敬な、いくらYOROIマニアであっても他人のを取ったりはしない!
「はぁ~しかたがないな」
昼食のランクを下げた手前あまり強く出られずにしぶしぶ了承した。
ジロジロと周囲からの視線を感じながら昼食を食べ終え次はどうするかという話になった。
「姿絵!姿絵描いてもらいにいこうよ!」
「そういえば約束してたっけな いいぞ、今から行こうか!」
「やったあ!」
俺たちはわいわい騒ぎながら中層の広場まで移動した。
「お、人少ないな~、そりゃそうか今日は平日だもんな~」
「みんなお仕事中だもんね!姿絵屋さんいるかな?」
いかんいかん長いことニート生活しすぎて曜日間隔が少しぐちゃぐちゃになっているようだ、働き始める前に直しておかないと。
そんな事を考えながらざっと辺りを見渡す、開けた広場の中央には噴水が設置されておりそれを囲むようにベンチがたくさん配置されている。
見渡している最中姿絵屋を何人か見かけるが。
「あちゃ~、もう描き始めてるな」
旅行者だろうか?少し上品な服を着ている妙齢の婦人たちのグループが既に姿絵屋に描いてもらっていた。
「ローナどうする?描き終わるのに結構時間かかりそうだけど先に本屋いっとくか?」
「ユア、待ってようよ、きっともうすぐ終わるよ!」
その根拠はどこからくるんだ?
「なら、どれ位で終わるか姿絵屋さんに尋ねてから後で行ってみようぜ」
「ユアー描いてる最中に他の人が声掛けちゃだめだなんだよ~」
「た、確かにそうだけど……ここにいても何もする事ないしな~」
「広場なんだし何かしてまってればいいんだよ!久しぶりに一緒に遊ぼうよ!」
「ん~、しかしな~」
待つ時間も何もすることがなく暇なので先に本屋に行こうと提案するが頑なに拒否するローナに言い負かされそうな時だった。
「どうかしましたか?もしかして絵を描いて欲しいのですか?」
不意に後ろから画板とだぼったい服を着た銀髪の少年に声を掛けられた。
「い、いや」
俺は少し驚いたが、それ以上に会話を聞かれて少しだけ恥ずかしくなった。
そんな俺の代わりにローナが説明をした。
「うん!絵を描いてもらおうと思って来たんだよ!お兄さんもしかして修業生の人?」
「見てわかるのかい?ふふふ、そうだよ絵の勉強をしに来たんだ」
「そうなんだ!あっ、お願いなんですけど絵を描いてもらえませんか?」
「ん?いいよ、そこのお兄さんも一緒かな?」
ローナと少年はすぐに打ち解けた。
そんな少年を見て俺は少しだけ違和感を覚えた。
少年は見た目とは異なり、非常に落ち着いた雰囲気を醸し出しているからだ。
耳がやけにながいな、ああエルフか!
少年の耳は俺の耳とは形も異なり、横に長かった。
エルフとは、山や森林を住処とし、自然を大切にする種族である。
何より彼らの特徴は美形で長寿、その上外見がほとんど変化しないところだ。
もしかしたらこの少年も実は少年ではなく俺より遥かに年上という可能性もある。
「ああ、俺は……」
「ユアも一緒でお願いします!えへへ~」
俺は描いてもらわなくていいよ、と言おうとしたが遮られる。
なんだよ!俺の言いたいこと全部わかってるのか?
「うん、わかったよ。それじゃあ絵を描く準備をするからそこのベンチに座ってもらえるかな?」
ニコニコと笑顔で描いてもらえることを喜んでいるローナと俺に向けエルフの少年は絵を描く準備を始めた。
「お兄さんってどれくらい絵うまいの?あっ、これって失礼にあたるのかな?」
「ローナ、せめて描いてもらってる間くらいじっとしろよ」
絵を描いてもらって数十分後のことだ、動かないようにピタリと動きをとめたローナは限界がきたのか絵を描いてる少年に興味津々に尋ねはじめた。
「ふふふ、どうだろうね?出来上がってのお楽しみってことでどうかな?」
少年は腕に自身があるのだろう、余裕ある態度でローナの質問をかわし筆を進めている。
「えへへ~完成するの楽しみだな~!ユアも楽しみ?」
「ああ、俺も楽しみだな。ええと……」
そういえば名前聞いてなかったな。
名前を尋ねようとする意図を察したのか先に言われた。
「ソーラ、僕の名前はソーラっていいます。意味は日の光という意味ですかね?」
ですかねって、なぜ疑問系?
まあいいや、ソーラさんかあ、名前の良し悪しはわからないけど覚えやすい名前だと思う。
「ソーラさんは、何で絵を描き始めたんですか?」
その質問が面白かったのかソーラさんは一旦筆を止め笑いながら俺の方へと向き直った。
「そうだね~僕は僕の見ている世界の形を他の人達にも見てもらいたいから描き始めたんだよ」
ん?哲学的な答えかな?少しわからないぞ。
まあ、常人が芸術家を理解できるわけないか……
「そうですか……」
「ああ、その様子じゃ伝わらなかったみたいだね、ごめんごめん」
俺の様子から理解してないことを察したみたいだ。
ソーラさんは苦笑をしながら再び絵筆を進め始めた。
「そうだ、二人に質問があるんだけどいいかな?」
「な~に?」「なんだ?」
ローナと同じタイミングで言ってしまった。
そんな様子をみてまたソーラさんはまた笑い出す。
「ふふふ、仲が良いね~、そうそう質問はね」
ん、なんだ?
少しだけ真剣な空気が流れ始めたのでソーラさんの方をみた。
ソーラさんは再び筆を止め少しだけ真剣に俺達を見つめていた。
「この絵……ありのままに描いた方がいいかな?それとも脚色して綺麗に書いたほうがいいかな?」
先ほどまでのホヤホヤした雰囲気ではなく、真剣に尋ねてきた。
なんだろう?嘘を言ったらいけない空気だ。
まあ、嘘をつくつもりもないのでありのままに答えよう。
「脚色してもいいから綺麗に描いて欲しい」
と俺は答えた。
「ありのままに描いて欲しい!」
続けてローナも目を輝かせながら答えた。
「ふふふ うん、いいよ。でも意見が分かれちゃったね、どうしようか?」
すでにさっきまでの真剣な雰囲気はなく、困った顔のソーラさんがいた。
「綺麗に」「ありのままで!」
むぅ、ローナと意見が分かれてしまった。
しょうがないないな、描いて欲しいって言い出したのはローナだ、譲ってやるか。
「じゃあ、ありのまま描いてくだ……」
『パシャッ』
「「!?」」
言おうとした瞬間だった。
一瞬だけ強い光が現れ消えていった。
なんだ?魔法か?
ソーラさんを見続けた俺は彼が口を動かす姿を見ていない。
通常の魔法とは、口を動かしながら呪文を唱えて発しないと発現はしない、一部例外はあるが……この場でありえないよな?
ソーラさんから俺たちに向け殺気は無かったので別の魔法=『剣闘魔法』という線はないだろう。
だとしたら?
「ふふふ、ごめんごめん驚かしちゃったね、さっきの光は魔法じゃなくて魔道具だよ」
俺の考えを読んでか、横で固まってるローナに向けてかわからないがソーラさんは笑顔で説明し始めた。
「気分を悪くしないでね、絵が描き終わったらサービスしてあげるから」
俺たちの反応をよそに困りながら笑うソーラさんをみて不思議と怒りは湧き起こらなかった。
「いいですよ、それじゃあ絵はありのまま描いてください」
「はい、わかりました」
「び、びっくりした~」
少し遅れてローナの意識が戻ってきた。
「お疲れ様~、絵描き終わったよ」
「わあ!見せて見せて!」
あれから30分も経たずに絵は描き終わった。
ローナは出来た絵が気になるのかぴょんぴょん飛び跳ねながらソーラさんに近づいていった。
「わぁ~、うまいよ!ソーラさんってとってもうまいなあ!」
「ふふふ、ローナちゃんありがとう」
「ユア~早くきてきて、絵凄く綺麗だよ!」
「わっ、ちょ、引っ張るな」
ローナに強引に引っ張られ絵画をみた。
「ほう……」
絵には防具を着てキリリと凛々しい表情を作ったローナと、黒い髪と黒い瞳を印象的に描かれた やけにハンサムな俺がいた。
「プププ、ユア カッコつけすぎ!」
ローナは絵と俺を見比べながら、腹を抱えて笑い出した。
失敬な、現実でも俺はかっこいいだろ?
「はあ?お前の方がカッコつけてるだろ?何がキリッだ!」
お返しにローナの事もからかってやることにした。
「あ、あたしはそんなことしてないし」
目を泳がせながら反論するローナ。
図星か!
「楽しんでくれたみたいで嬉しいよ。はい、これ」
出来上がった絵をみて笑いあう俺たちにソーラが2枚の紙を手渡してきた。
「ふふふ、はいこれがサービス」
「わぁ!」
「なんだこれ!?」
ソーラさんから貰った紙には現実と遜色ないほどに精巧に描かれた絵があった。
絵といっていいのだろうか?
「凄い、凄い綺麗~!綺麗にかけてる~!」
「…………」
何も言えずに精巧に描かれた絵と向き合っている俺をよそに無邪気に尻尾をぶんぶんと振るローナがいた。
「じゃあ、僕はそろそろ帰るから、ユミア君達も用が済んだら早く帰るんだよ」
画板と荷物を持ちソーラはそれを告げるとお代も受け取らずに早足で広場を抜けていった。
……俺、名前教えたっけ?
もしかして!
このタイミングでの接触、昨夜のストーカーか?
くっ、確かめてやる。
すぐに、ソーラを追っかけ広場から出たが既に奴はいなかった。
その後 言い知れぬ不安感が俺の胸を締め付けた。




