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幻影のユミア  作者: 謎の修正液
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第3話 YOROIマニア現る!

「よし、今日はここらで終わりだな」


 毎朝やってる掃除を今日は少し早めに切り上げることにした。


 なぜなら


「ユア、はやくはやく!はやく行かないと売り切れちゃうよ~!」

「はぁ~少しは落ち着け、今の時間から店が開いてるわけ無いだろ、だから売切れるわけがない!少しは落ち着け」

「でも~でも~」


 キャンキャンとやかましい犬が掃除をしている最中にまとわりついてくるからだ。


 余程ヒーロー校の物品を買ってもらうことを楽しみにしているのだろう、いつもはまだベットで寝ている時間なのにわざわざ早起きまでしてご苦労なこった。


「まだ日も昇りきってないだろ?きちんと時間になったら起こしてやるからもう少し寝てなさい」

「無理!」

「無理って、お前な~店が開き始めるのに後何時間かかると思ってんだよ」

「だって楽しみにしすぎて昨日は眠れなかったんだもん!今からベットで寝るなんて無理だよ!」

「はぁ~」


 掃除の物品を倉庫に戻しながら深いため息を吐いた。


 なに?眠れないほど楽しみにしていたの?


 ローナは犬歯を見せ付けるようにニコニコ笑顔になっている。


 俺の負けだな。


「わかったわかった、俺の負けだ。ほら大人しくそこに座って時間まで待ってな」

「むぅ」


 軽くあしらわれたのが不快だったのかさっきまでのテンションとうって変わって下がっていた。


 本当に表情豊かな奴だ。


 しばらく時間を潰した後、買い物に出かけることにした。






 ベニムの石で整備された大通りをローナと歩きながら俺はイラだっていた。


「あの武器屋まともに商売する気がないだろ?くそ、足元見やがって」


 怒りの理由は武器屋がボッタくりやがったからだ。


 俺達は今さっきまで武器屋でヒーロ校指定の模造刀の選別を行っていた。


 模造刀に良いも悪いも無いと思うだろうが、大量に手作りで製作されている分ひとつひとつの出来が微妙に異なっているのだ。


 武器屋の店主は俺たちが学校指定の模造刀に見入ってる様子からヒーロー校に行くと判断したのだろう、擦り寄るような笑みを浮かべながら予算の3割増しの値段を吹っかけてきたのだ。


 ニートをしていた俺に武器の値段の相場がわかるはずも無かったが、何とか交渉して値下げを実施した。


 結果、ほんの少しだけれど値下げはできた。


 くそ、思い出してもイライラする。


 知らないということはそれだけで不利なことだと身にしみて感じた。


「ユア、次は防具屋さんだね」

「ああそうだな、そっちは楽しみだ!」


 イライラしているのを少しでも察したのか、ローナは少しだけ強引に話題を変えた。


 助かる、少し気持ちが楽になった気がする……それもそのはず次は防具屋だ!


 先ほどまでのイライラが嘘のように今わくわくしていると自分でも感じる。


 なぜか?そう、それは俺が『YOROIマニア』だからだ!


 YOROIマニア、それは鎧をこの上なく愛する者たちが自ら自称する称号のことだ。


 え、称号なのに自称だって?うん、まあそういうものだと納得してくれ。


 そんな彼らYOROIマニアの大半は道行く騎士に付きまとい何処の店で売っていたか、職人は誰かなどしつこいほど尋ねる、そして満足いく答えが得られなかった場合ストーカ化することさえあるという、もちろん俺はそこまではしない、せいぜい鎧の外見、材質、特殊効果、間接稼動範囲、耐熱・耐寒性能、重量、製造技法を暗記する程度だ。


 ふっ、俺もまだまだだな。


 自分の未熟さについて考えるうちに気がつけば防具屋の店内に入っていた。


「へい、らっしゃい!」


 筋骨隆々で無精髭を生やしたオジさんがタンクトップ姿で挨拶をしてくれた。


 うん、さすが防具屋だ 武器屋なんかと違って客に媚びる愛想笑いなどしない、なんて爽やかな挨拶なことか!


 忌々しい武器屋と防具屋を純粋な視点で比較する。


 うん!実にすばらしい店主だ、この調子なら良い防具を見れるかな?


 普段は冷やかしと思われるのが嫌な為、ウィンドウショッピングをする程度で我慢していたのだが、このじっくりと観察するチャンスを逃すわけにはいかない!せめて日が落ちるまでは見させてもらうか!


 と内心思いながら急いで周囲の鎧を見渡す……ふむ、どうやらこの場にはC級~D級までしかないようだな。


 そう、俺の目には普通の人には見えない等級が見える、いつだったか忘れたがYOROIマニアとしての自覚を持ったときに生まれた気がする。


 それはまあいい、等級にはAからE級があり、下がるほどに性能と価値は落ちていく。


 A級は王や将軍、B級は上位騎士・最上級冒険者、C級は一般騎士・一般冒険者、D級は村人・盗賊、といった具合に経済力や実力に左右され着用されている。ちなみにE級とは性能より訓練するのに特化した鎧のことだ。


 そうそう言い忘れたが俺と同じようなYOROIマニアの中には等級が見える人がいる、彼らの話によると等級はS級まで存在しているらしくその性能はA級より頭一つ飛びぬけているらしい、だが俺は見たことないのであくまで噂に過ぎないと考えている。


 思考をいったん中断し、目の前の鎧をじっくりと観察することにする。


 たとえC~D級鎧でも鎧は鎧なので真剣に観察しなければ俺の気はすまないが……


 はぁ~C~D級なんて見慣れてんだよ、せめてB級……B級がみたいな~


 そんな俺の様子を見て武器屋のオジさんはYOROIマニアだと察したのか、わざわざ何も言わずに店の奥の扉を乱雑に開けた。


「ふっ……」

「な!?」


 俺は部屋の奥を見て固まってしまった。


 そこにはB級が数多く並ぶ中一際異彩を放つA級鎧の姿があったのだ!


 高級な防具店ですらB級鎧が1つ2つあれば良いほうなのだが、なんとこの店にはA級もある。


 どういうことだ?これは、これは……YOROI神さまのお導きなのか!?


 ああ、ああ何という事でしょうYOROI神さま!貴方が私を今日この時、この瞬間の為だけに生かしてくれていたのですね!


 頭の中でたった今作った神様に最上位の礼をする。


「お、オジさん 奥の鎧……ちょっとだけ、いやじっくりと見させてもらってもいいかな?」

「ふん、勝手にしろ」ドヤッ!


 そして俺はすがるように防具屋店主の許可を取り倉庫の奥のA級鎧に早足で近づいた。


 外見は漆黒を基本色としている中、大胆にも真紅の模様の装飾が目立つ、なかなかに斬新なデザインだ。


 俺が見たことある中のA級鎧と異なっており、金属でゴテゴテしているのではなく、急所の位置のみ特殊金属が使われている極めてシンプルなつくりとなっている。


 その上ところどころ見たことのない材質の皮がつけられていて防御力を極端に下げることなく関節の稼動域を広げることに成功している……こんな作りをした鎧見たことないぞ。


「な……んだこれ」


 俺は驚き以上に、疑問をあげた。


 確かに俺の見てきた防具の作りとこの鎧は明らかに一線異なる雰囲気をだしている。 


 しかし、驚いた点はそこではなく、鎧なのに魔術回路が描かれてるところだ。


 左腕の盾をイメージしているであろう平たく長い形状の部位の裏側に幾つか見たこともない奇怪で精巧な模様が描かれている。


 俺は魔術回路が入っている防具なんて見たことも聞いたことがない、それに魔術回路とは魔道具の基礎、プログラミング部分の模様である。


 そもそも魔道具とは錬金術師が魔法を使うことが出来ない人達の為に作り上げた道具であり、このようなA級の鎧を使用できる者が魔法を使えないなんて事はまずありえない、で、何が言いたいかというと、この鎧作成者の意思、コンセプトが全く理解できず、極めて異質な鎧であるということが言いたい。 


「…………」


 どれだけ熱心に鎧を見ていただろうか?


 気がつくとヒーロー学指定防具を着て拗ねた様子のローナが俺の服を引っ張っていた。


「ねぇユア、ユアったら!」

「ん?どうした?」

「やっと気がついた!「ん?どうした?」じゃないよー、鎧が好きなのは知ってるけど、呼んだら返事くらいはしてよー!」

「俺、もしかして呼ばれてた?」


 首をブンブンと振るローナを見て、防具屋に来た理由を思い出す。


 いけね、すっかり忘れてた。


「まあ、お穣ちゃん兄ちゃんを許してやってくれ、あんな立派な防具を見たら男なら誰でもああなっちまうってもんだ」

「むぅ……」


 オジさんフォローありがと、でもそれ火に油注いでるだけだから。


「わるかったな、料金の支払いを終えたら~そうだな そろそろ昼だし、外に食いにいこうぜ!」

「む、強引に話を変えた~、まあいいよ!じゃ、お詫びに高級レストランいこーー!」

「げ、少しは……手加減してくれない?」

「だめーー!」


 ニッカリと犬歯を見せつける笑顔を店主にむけローナと俺は防具屋を後にした。


 ついでに防具屋は俺の事をいたく気に入ってくれたらしくローナの防具の料金をかなり割り引いてもらった。


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