第0話プロローグ
起承転結がうまくいかなかったので意識して書き直したいと思います。
ぼんやりと薄れた視界は周囲の大人たちに対して憎しみを向けている。
また、いつもの夢か……
何回この夢を見ただろう、いい加減見飽きたものだ。
ここが夢の中だと意識せずともわかるほどに延々と同じ夢を見てきた。
それだけ俺はこいつらを憎んでいるのだろう。
何度も悪夢を見るくらいには……
夢の中には幼い男の子の姿が見える。
その男の子はボロボロになった衣服と魔法詠唱封じの為の魔道具として黒い首輪がついている。
男の子は筋肉質な壮年の男に腕をつかまれ泣きながら村のあぜ道を引きずられていた。
周囲にいるのは村人だろう、誰も彼もが可哀相なものでもみるような目で男の子を見つめていた。
彼らの中には「すまない」や「ごめんね」と謝っている人すらいた。
「謝るくらいなら助けてよ!ねえ、こんなのってないよ、おかしいよ!」
男の子は壮年の男に捕まれていない方の腕を必死に向け助けを求めるが、周囲の人々は誰一人として助けようとはせず相変わらずのだんまりを決め込んでいた。
ちっ、うるせえな。
思わず夢の中の男の子に向け呟いた。
「なんで?なんで……なんだよ!誰が救ってやったと思ってるんだ!」
男の子は無理やり腕を引っ張っている大人達へ向け叫んだ。
非難された男は薄ら寒い笑みを浮かべ
「ああ、ちゃんとわかってるよ『赤獅子』様に俺たちは助けられたんだ。いや~本当に赤獅子様には頭があがらねーよ!ハハハ、命を救ってもらった上にこうして俺たちの為の財産まで残してくれたんだからな」
赤獅子……。
あの糞アマの名前なんか夢の中でも聞きたくねーよ。
どいつもこいつも、手のひら返したように死んだ後から崇めやがって、言っておくがアイツはそんなに崇高な女じゃねーからな。
俺は独り言を愚痴っていたのだがどうやら聞かれていたようだ。
やあ、相変わらず元気そうだね。
いつから現れたのだろうか?目の前にもう一人、黒髪の少年が現れ話しかけてきた。
赤獅子、そう彼女は僕の母さんだ。
母さんはこの村々、いや違うか、ドレッド地方を救うため、行動を起こし……そして死んだ。
唯一の肉親を失った僕は……
あははは、言わなくてもわかってるって、こんな弱っちぃ村人にお前はこれから売られるんだ!
俺は目の前の少年らをあざ笑う。
しかし少年は何も言い返さずに、俺をみつめて微笑んでいる。
そんな変化のない態度を見て、俺は少しだけ冷静になれた。
……はぁ、違う、わかってるさ 俺が……俺が売られたんだ。
俺は顔を落とす、目の前にいる男の子や少年を虐めても気が晴れない、なぜならそいつ等は過去の俺自身なのだから。
毎回惨めな気持ちになるな……
早く、終わってくれよ。
そんな俺の気持ちを無視して夢は続く。
「……財産?」
「財産って言うほどじゃねーが、坊主 お前のことだよ。お前は今から高値で売られるんだ」
男の子と壮年の男は村を抜け、山のふもとの整備されていない大きなあぜ道へと向かっていた。
そこには場違いな程豪華な衣服を身に纏った太った男とその部下が待っていた。
男の子は疲れはてたのか、ただただ泣いていた。
今からこのガキは高値で売られる。
なぜなら赤獅子の息子というだけで高値で売れるらしいからだ。
全く、あんな親から生まれただけでこんな運命とは……溜まったもんじゃねーな。
俺は自嘲気味に運命に向かって恨み言を呟いた。
俺の母親は確かに完璧で誰が見ても立派な正義の味方だった、そう不自然なほどにね。
猫被ってただけなんだけどな~、アイツの周りって馬鹿しかいなかったのかね?
気がつくとアイツを崇めている人達に向け薄ら笑いがでていた。
……いけね悪い癖だ。
俺は表情を元へ戻す、この笑顔は出来る限りしないと以前決めたんだ。
いつからだったかな?
どうやら夢の中の為か記憶がすっぽり抜け落ちているみたいだ。
……今はいいか。
俺の母親の話の続きをしよう。
アイツの内面は夫、俺の父が病気で亡くなったことでボロボロになり、ストレスからか俺に訓練と称した虐待紛いの、いいや虐待を行っていた。
今になって周囲がアイツを崇めたてようが騒ぎ立てようがどうでもいい。
それに関しては俺自身も割り切っているつもりだ。
「やめてよ!嫌だ!やだやだやだ!やめて!」
男の子は腕を振りまわし激しく抵抗したのだが空しくも太った男へとたった今売られた。
「駄々こねるのもこれが最後だな!あははは、坊主~頑張って生きろよ~!」
太った男に男の子を引き渡した壮年の男は貰った金貨を男の子へわざと見せびらかせた後、笑って村へと帰っていった。
「ふひひ、こちらとしてもなかなかいい商売ができましたよ、また何かあればご遠慮なく言ってくださいね」
太った男は俺の腕を掴みながら話した。
コイツが俺を買った奴隷商だ……そういえばなかなか嫌な性格をしていたな。
こいつにやられた仕打ちを思い出す。
うっすらだが思い出した気がする。
あー今でもイライラするわ。
「ふひひ、じゃあ早速始めましょうか。誰か~焼きゴテもってきてください~」
「……!?」
奴隷商は部下に指示をだした。
部下は待っていましたとばかりにすぐにコテを渡した。
「ふひひひ ユミア君、よく見ていなさい」
「……?」
男の子の瞳の前に見せ付けるように、焼けてないコテを向けた。
その瞬間、コテは大きな火を灯し 黒い鉄は赤く染まっていった。
魔道具だろう。
趣味わりぃ~な。
焼けてないコテへ疑問を持たせた後に絶望へ突き落とす。
ああ、他人事として見ている今でもイライラするわ
言葉とは裏腹に、もう一度冷たい汗が俺の背中を伝った気がした。
「や、や……」
男の子は青い顔して何かを喋ろうとしているのだがうまく言葉になっていない。
これから起こることに恐怖しているのだろう、おしっこをもらしている。
逃げようとした膝はガクガクと震えて力が入らずうまく立てないようだ。
「ふひひ、ふひひひ」
そんな態度に満足したのか奴隷商は脂ぎった醜い顔で満面の笑みを浮かべていた。
……限界だ。
気がついたら俺は手を硬く握り閉め目を逸らしていた。
俺は願った。
祈るように、夢で終わるようにと……
「痛、痛いいたいいたい、あ、ああ熱いいい熱いいい」
焼けたコテは男の子に押し付けられたのだろう。
目を逸らしていても耳から現状がありありと伝わってきた。
その声を聞き、俺は深く沈めていた憎しみを掘り起こす。
お前ら、お前ら、絶対ゆるさねぇ……
俺は何度でも思い出し何度でも心に刻む。
あの日、俺の絶叫が山々へと木霊した。
夢の中の男の子は痛みで気を失ったのかピクリとも動かない。
その状況を俺は正視することができず、ただただ顔を背けていた。
ふぅ、そろそろ長い夢も終わりだ。
黙っている俺の代わりに少年が喋りかけてきた。
しかし、憎いって感情はなかなか消えないねー。
目の前の少年は優しそうな笑顔を向け俺に諭すように語りかけた。
その気持ちが晴れたらいいね、そうだ?いつかこいつら殺しにいかない?
少年はその行為がなんでもないかのような口調でさらりと言ってのけた。
怒りに身を任せていた俺は一も二にもなく飛びついた。
ああ、そうだな、次会ったら遠慮なく殺し……!?
ふと脳裏に屈折無く笑う少女の姿がかすめた。
糞、駄目だ!駄目だ!……
何か忘れてる。
このまま決めちゃ駄目だ!
あ~あ また、か……まあ時間はたっぷりあるんだ、またいつでも呼んでね。
そう残念そうに呟くと目の前の少年は消えた。




