初恋のハーフタイムー4ー
結婚式が終わり、僕は一人ベンチに座って帰りの車が用意されるのを待っていた。
太陽の真っ赤な力強い輝きがゆっくりと飲み込まれるように、溶け合うように
大海の青く底無しの闇へと沈んでいく。
その時の僕は生まれて初めて目にしたその雄大な光景に
落ち込んでいたことも忘れて、見惚れてしまっていた。
だから気づかなかったのだろう。
「竜之介くん」
突然、背後から聞き覚えのある声をかけられ僕は驚いた。
どきんと心臓が跳ね上がり、息がつまる。
そして反射的に振り返ると柔かな微笑みをたたえた一馬さんがそこにいた。
「おっと驚かせてしまったか?悪いな」
彼はそう続けて、僕の隣に腰掛ける。
一日中結婚式で忙しかったはずなのに、全くくたびれた様子もない。
ただそれでいて、一緒に食事をする時の気さくさな雰囲気を漂わせている。
僕たちと一緒にいる時の一馬さんだった。
「バタバタしてて話が出来なかったことが気になっててな…邪魔したか?」
「…いえ、別に」
なんとなく目を合わせづらく、正面の海を見つめるようにしながら応える。
「いい眺めだよな」
横目でそっと伺うと一馬さんもまた海を見つめている。
「そうですね」
潮風が吹きつける。
どこからか聞こえて来る喧騒が静まっていく。
僕と一馬さんだけの空間へと少しずつ変わっていく。
「今日は来てくれて、ありがとうな」
「…」
そう言われて。
別に来たかった訳じゃない。半ば連れてこられたのだと返すことはできなかった。
手の届くことのない幸せを見せつけられた苛立ち、悔しさ、哀しみもこの人のせいではない。
だけど笑顔で我慢できるほどに、この人の前では僕は大人でいられない。
だから何も口に出来ない。
一馬さんはそんな僕の様子をちらりと見てから続けた。
「嬉しかったよ」
「そうですか」
素っ気なく返し続ける。
もう会うこともそうそうなくなるなら、これくらいの意地悪はいいだろう。
きっと一馬さんも気まぐれ程度に話をしに来ているだけだ。
これはあくまで軽く、でも決定的なお別れの会話だ。
ならせめて傷跡くらい残してやろう。
「うん。だけど一方でさ」
そう考えていた僕の考えは。
「一人で誰とも話そうともせずに過ごす君を見て」
思いがけない方向から。
「とても…」
「…イラついていたんだ」
打ち砕かれた。
その冷たく、怒りのこもった言葉に、彼の方に顔を向ける。
一馬さんは僕の顔を見ていた。
初めて見る、真剣な眼差し。
「本来なら、俺と華さんの間に座っている筈の君が」
「同じように祝福を受けるべき君が」
「…まるで他人のような顔で独りで座り込んでいたことに俺は、とても腹が立った」
なんて返したらいいのかわからない。
それは僕のせいじゃないと口をついて出そうになる。
だけど。
きっと一馬さんはそんなことはお見通しだろう。
だからますます僕はどうすれば良いかわからなくなる。
何も話せないまま、波打ち音だけが、一面に響いていた。