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初恋のハーフタイムー2ー

高層ビルの一角にあるレストランにて神妙な顔で付け合わせのピーマンを一塊にまとめている。

意を決したかのようにそれをフォークで一突きにして、パクリと食べる。

まさしく苦虫を噛み潰したかのような顔で彼はこう言った。


「苦手な物は先に片付けるタイプでね…」


そうしてニコリとぎこちなさそうに笑う。

それが後に義父となる一馬さんと初めて顔合わせした時の、一番印象に残っているセリフだった。




僕の母こと白木華は昔、美術系の専門学校に通っていて

そこで一人の男性と恋に落ちたという。


二人とも10代後半という若さで僕を宿したことを知った祖父は激怒し、

無理やり相手の男と別れさせた。


ハーフであり、孤児でありながらアルバイトをして専門学校に通いつめる苦学生。

ただの貧乏人。穀潰しの半可者。

それが僕の本当の父だそうだ。


物心ついた頃に僕は祖父にそう告げられた。


汚らしい血を持つお前は本来であれば何者にもなれず朽ちるだけの者だ。


こうして教育も、衣食住も保証されているのは儂の慈悲のお陰だと

だから決して儂に逆らうことは許されぬ。


そう冷たい目で祖父は続けて、僕を射竦めた。


周りの友達のように父親が居ないことの寂しさよりも

ああ、これからも誰も助けてくれないのだなと悟ってしまった苦しさに

その日の夜、少し泣いてしまったことを覚えている。



だから新しくお父さんになる人と紹介されたその人を見た時、

僕は珍しくどうすればよいのかわからなくなった。


格好良く、話も上手く、ニコニコと愛想がよく、ソツなく振る舞う一方で

子供じみた好き嫌いを隠さないなど冗談か本気かわからないことを言う。


その後も何度も一緒に会って、色々なところにも連れてってもらったけれど

小学生の僕よりも楽しそうに遊園地で過ごすこともあれば、

ふとした時にとても寂しそうな目を見せることもある人。


僕にとって初めての”読みきれない大人”


いつしか従順で快活な男の子を演じるだけで満足してくれているのかという疑問を覚えるようになった。


僕が何を話してもニコニコと笑って聞いてくれている。

いつもこちらが笑ってしまうような話しをしてくれる。


だけどこの不思議な大人は本当に、僕のことを好いてくれているのだろうか?


もしも心底では嫌っていたなら、そしてそれを祖父が知ってしまったら

僕はどうなってしまうのだろうか?


そうした悩みが翳として僕の心の中に少しずつ、はっきりと差すようになっていった。


自動人形の動作に少しずつ不備が生じ、僕は自分で自分を動かさざるを得なくなる。

教師や使用人の大人達を相手にする時のような単純な男の子ではなくなる。


ゲームのように、とらえどころのない大人である東雲一馬を

攻略しようと、自分の頭で考えるようになる。


それは久しぶりに自分を取り戻したかのような感覚。


祖父の思い通りに作られる日々による息苦しさの中で輝くような特別な解放感。


それを味わわせてくれる一馬さんに僕は少しずつ惹かれるようになった。



でも一方で僕は悟ってもいた。


きっと、一馬さんと母が結婚しても、祖父の元を離れられることはなく

根本的に日々が変わることはないのだろうと。


何故なら彼が祖父の会社の社員である以上、

祖父の言いなりになって僕を蔵に閉じ込めた大人達と同じなのだろうと。


どこかで諦めきっていた。


楽しい時間は、いつかは終わる。

一筋の光も射さないような毎日が、また始まる。



そう思っていた。

あの日、誘拐されるまで。

















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