初恋のハーフタイムー1ー
どうしようもなく、狂おしいほど。
熱が体を覆い尽くして、心が痛みで埋め尽くされて。
顔を見るだけで真っ赤になって。
近づかれれば恥ずかしくて突っぱねてしまう。
それでも愛おしくて、隣に居させて欲しいのだと。
そうした気持ちが恋なのならば。
僕は間違いなくそれをしている。
でも、ああ子供でも分かる。
義父への恋心など、決して許されないということくらい。
僕が一馬さんに会ったのは去年の夏頃になる。
初めて母が合わせてくれたその人は濃い目のネイビーのスーツを着こなし、
前髪は少し左右に分かれていて、背は他の大人と比べても高かった。
少し茶色がかったような二重の瞳、低すぎない程度の落ち着いた声色。
仕事が出来る大人という感じだった。
その頃の僕は常に祖父の陰に怯えていた。
幼い頃から会社を継げる存在になるよう、学問、武道、教養を叩き込まれていた
僕はある時、学校の友達のように自由に遊びたいとこぼしてしまった。
それを聞いた祖父はすぐに人を使い、僕を蔵に閉じ込めた。
そして放って置かれた。
声を上げて、助けを求めたけれど誰にも届かなくて
僕は生まれて初めて飢餓というものを味わった。
空腹は空腹を通り越して痛みに変わり
喉が渇き、唾液すら出ない苦しみを生まれて初めて味わった。
仲良くしていた使用人のみんなも
母すら助けに来てくれない絶望の中でいつしか僕は気を失い、
気づいた時には部屋のベッドに寝かされていた。
三日間もの間放置されていたという。
僕は恐怖で体が震えた。
やがて祖父が来て、二度と逆らうなと一言だけ告げていった。
二度と逆らうな。
その言葉の中で、それから僕は何かを失った。
大人と話す時は、その大人が最も喜ぶだろう仕草、会話を自動で行うようになった。
考える前に、体や精神のような物が勝手に動く。
疲れを感じることすら許されないような気がした。
そうして祖父、教師、友人関係に至るまで
関わる全ての人間を満足させるべく全力を尽くす自動人形。
それが一馬さんと出会った頃の僕だった。