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愚者と弱者のミックスアップー9ー

居なくてはどこか寂しいと。


そう想ってくれる程度にはなってくれただろうか。まだまだそこまでには至っていないだろうか。

それならば友人程度の距離感は築けただろうか。まだスイーツだけを目当てにされているのだろうか。

測りかねていた。

報告用の資料を作りながら俺は考える。時刻は既に定時を3時間は越え、同僚はおろか社全体の人間がとっくに帰ってしまっている。所属する営業課の人間の机が集められた”島”、その一画分を照らすだけの灯りの中で事務作業を淡々と進めながら俺は処理用の脳と懸想用の脳を併用しながら漠然と彼のことだけを考えている。いつもならば定時には帰れるように仕事をこなしているが、今週は彼のところに通いすぎた。あくまで営業中の休憩という建前である以上、平日の昼間でしか訪問は出来ない為遊び過ぎればどうしても埋め合わせが必要になる。こんな時間まで居るのはいつ以来だろうか。記憶に残っている限りでは入社半年後くらいまではこんなことをやっていたとは思うが。

裏を返せばこんなことをせざるを得なくなるほど、彼との時間が大事になっているということだ。

自分の時間が一番大切に感じていたはずのこの俺が一体どうしたことだろうか。

この三ヶ月で俺と彼との関係は表面上はそれほど変わっていないようにも思える。

まあこっそり合鍵を作って忍び込むように入って驚かせたり(殴られた)、黙ってロシアンシューを食べさせたら見事大当たりして悶絶するのを笑ったり(殴られた)、といった形で多少のイタズラを仕掛けられるようになったという程度の変化はあるが、結局はお茶の時間を過ごすだけでこれといった発展はない。

例えば次のステップとして…外で食事をしてみないかと誘いをかけることは容易いだろう。これまではそうして来たし、実際にそこから関係を持って来た。ただ西条に大してそれを口にすることには躊躇いがある。

神聖さというと大仰ではあるが、浮世離れした存在というか、俺がこれまでの生活でこびりつかせてしまった穢れのようなものを持たない男に”そういう手を使うこと”には言葉に出来ない抵抗がある。

これまでのやり方を彼にも適用することは、俺が彼に惹かれる原因そのもの、有体に言えば魂のようなものを貶めてしまうような気がしてならない。


俺はそれこそが欲しい、それを持った西条を丸ごと手に入れたい。

いや正確に言えば…俺が持っていないその孤高の精神に認められてみたい。


だからどうしても許されない。いわゆる性的な交渉だとか、そういうことをすること自体がダメなのではない。問題はアプローチの仕方にあるのだ。今回に限っては俺は”求められなくてはいけない立場”にある。彼の美学そのものに求められた時こそ、つまり俺の存在がそれに認められた時にこそ、これまでにない歓びを得られるのだろう。俺はそれに焦がれている。


こんな気持ちは初めてだった。

早く次に進みたい。その為のイベントが欲しい。彼にもっと認められるようなきっかけが欲しい。



性欲、名誉欲、承認欲求、欲望を満たすことだけに夢中だった俺が説明しがたい物を求めている。

これは成長なのだろうか、衰えなのだろうか。

判然としないまま作業を終え、家路につくことにした。










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