愚者と弱者のミックスアップー5ー
こうして。
こうしてじっくりと、ケーキを食べているその姿を盗み見ているだけで、とても美しい何かを感じる。
着ているものは前に会った時と同じ作業服だ。
絵の具やらなんやらが染み付いた群青色のもの。その下は白のブロードシャツを着ている。
お世辞にもオシャレな服装、というか人前で着るようなものでは無い。
しかし本人の資質…細長くて繊細さを感じさせる指先や、年齢不相応な瑞々しい肌。
浮世離れしたブロンドの、それも乱れひとつ無い艶艶しい長髪。
更に元々の端正な顔立ちと、痩せ気味でありながら貧弱さを感じさせ無い長身というそれら…と合わさって西条彩人という人物を純度100%、一切の混じりっけ無しに描き出すことに成功している。
炭素だけで構成され、万人を惑わす輝きを放つダイアモンドのように
世間体などの不純物を一切排した孤高の美学をまさしく体現させている。
それに比べて、こちらは一応はハイブランドのスーツに、フルオーダーのワイシャツ。革靴や腕時計の小物についても数十万は下らないものだ。一般的には俺の方が締まっているのは間違いない。しかし魅力的なのかどうかで言えば敗北を認めざるを得ない。
まるで他人を必要としない。他人を道具とみなすことすらしない。
そもそもの物差しが一般のそれとはまるで違う…。
自分の欲を満たすために他人を喰い物にする俺とはまるで対極にいる。
意識してそうしている訳ではないだろう。
ただそういう生き物だからそうあり続ける。
惹かれる。
全く概念の異なる、その強さに。
俺はただ悟られない程度にケーキを食べながらそんなことを考えていた。
ケーキの味なんてまるで、分かろうはずもなかった。
「…美味かった」
西条はぶっきらぼうにそう言い放った。
先ほどまでこちらに一瞥もくれずにケーキを貪り食っていた男はどことなく満足げになっていた。
それもそうだろう、なにせ断られた時を考えて用意していた三つのケーキのうち、二つまでパクパクと食べたのだから。考え事をしていた為、注意力が落ちていたのか…気がついた時にはごく自然にフルーツサンドのショートケーキに続いて抹茶クリームのロールケーキまで手をつけられていた。
龍之介に後であげようかと考えていた分を…だ。
「…それは良かった。それにしても二つも食べるとは随分甘いものが好きなんですね?」
「ああ、とにかく頭も体も使うせいか腹が減ってかなわないからな。まだ足りないくらいだ」
少しばかり嫌味のイントネーションを込めたのだが…やはり全く伝わっていない。




