愚者と弱者のミックスアップー4ー
その日、西条彩人は眠っていた。
朝から一日中創作活動に打ち込み、倒れるように眠っていた。
上手くいかずに不貞腐れて眠る時と違って
思うがままに絵を描き、体力を使い果たすように眠るのは気分が良い。
ぐっすり深く、夢を見ることも無しに眠っていた。
まさしくそれはこの上ない天上の睡眠。
何者にも邪魔されることない究極の睡眠のはずであった。
「ピンポーン」
という、まさしく何者かの邪魔さえ入らなければ。
最初の一撃は耐えた。
眠りはそれほど深かった。
「ピンピンポーン」
連打してきやがった…。
と、この場を見ているものがいればそう突っ込んだだろう。
だが幸いなことにまだ彩人(正確には彼の大脳)は耐えていた。
しかし敵もさることで
「ピンピポンポンポポポポポーン」
リズムまでとってきやがった…。
というかどうやって押してるんだ?
と、この場をみているものがいればそう疑問を抱いたに違いない。
この攻勢にようよう彩人の大脳も覚醒を始めるが
うっすらと無視しようという意志もまた働いている。
(居留守を決めこもう…)
そう無意識下にて決断が下されるも謎の訪問者も一向に引き下がる気配がない。
「ピポポ…ポーン!ピポ!ピポ〜!…ポ?」
「ピ…ポ…ピポ…ピポポ、ピポ…」
「ピ…ピーポォー!ピーポォー!」
とどめと言わんばかりに謎の寸劇が浮かばんばかりの連打術を披露され、
あまりのしつこさに西条彩人は完全なる覚醒を余儀なくされた。
数分後。
「それで…てめぇは…わざわざ宅配業者のフリまでして…この俺を叩き起こしたのは…どういう訳だ?」
ドアホン越しにアイスが来たと言われ、それならまあ起こされたのも我慢するか…と少しだけ機嫌を直した彩人を待っていたのはつい先日離れて暮らしてはいるが、血の繋がった実の息子である竜之介を連れてきた東雲一馬だった。
「いやほら、たまたま近くまで立ち寄ったものですから。もし居られたらご挨拶だけでも伺いたいなと」
「…あのな、確かに俺も半ば世捨て人みてぇな生活をしちゃいるがよ。それでも普通人を訪問するにゃ事前に連絡するってことだけは分かるぜ…?」
ヘラヘラと暇だから来ちゃった☆と抜かす一馬を前に思わず手を出しそうになるが、こないだ殴ったばかりのこともあり、一応自制しながら問いかける。
「もちろんそうです。そして私も一応は社会人としてそのあたりのことは弁えています。でもこないだ会った時はそれとなく暇そうなところもあったから今日はいいかなと」
軽薄だけで構築されたかのような微笑みと共にしれっと至極失礼な答えが返ってきた。
殴ろう…。
何の躊躇いもなく右手を握りこむ。
こう、なんかこう上手い具合に10分くらい気を失って、目覚めたら急激に黙って帰りたくなるような気持ちになるようにブン殴ろう。
そう考え、行動に移そうとしたところで。
「…おっと!でも手土産はありますよ」
気配を察知したように言い放たれて手が止まる。
同時に突き出されたのは白く、綺麗な、まるでケーキが入っているかのようなサイズの箱で
とても甘い香りがたっていることから恐らくその推測も間違いではあるまいと感じさせた。
「作業にも疲れた頃かと思って甘いものを買ってきたんですよ。休憩がてら、一緒に食べません?」
だめ押しのようにほらちょうど三時のおやつの時間ですし、ね?と付け加えるように言われてしまう。
ケーキの魔力の前に怒りも沈静化されていく。
こうあっさりと良いように話を運ばれるのも不愉快ではあったが。
「…そのケーキだけ、置いて帰れ」
「それはダメかな。あ、いやダメです。一緒に食べるからこういうのは美味しいんですよ?」
「…お前と食うより、お前の分まで食う方が良いに決まってる」
「私はここで帰って、家族と一緒にこのケーキを食べてもいいですけどね?」
そう食い下がられてしまい、結局家に入れるのを許すことにした。
ケーキを食べ終わったら即刻叩き出そうという決意を固めながら。




