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トラブルですか?ーいいえテンプレです 前編

今回は前編、後編のふたつに分けます

私の後見人役が決まってから二カ月が経過して、後処理も終わりキルシュバウム家主導で起きた騒動も一応の終焉をみた。


そして私はハミルトン伯爵領に向かうため、お爺様やレーニャと一緒に馬車に乗っていた。伯爵領までは二週間はかかる。馬車を使用する貴族や商人は基本的には街で休息し、野宿はあまりしないようにするらしい。なんでも道中には魔物が出現するので野宿は危険で、余裕があるなら街で休息するのが常識だとお爺様が言っていた。ファンダジー系の小説では野宿するシーンがあるけど普通は危険だ、いつ襲われるかわからないんだから。でも冒険者は野宿することも多いらしい。長期の依頼だったり護衛だと街に着けないこともあるからだとか。その時は交代で見張りをするという。


馬車の周りには護衛として数名のお爺様の部下がいる。私とレーニャは王都から出たことがなかったので、畑や森林、村など馬車から見える風景すべてが新鮮だった。


馬車の中ではお爺様にこの世界について聞いてみた。私の知識は前世と自宅の書庫にある書物のみだ。今まで王都から出たことはなかったし、時々抜け出すけど普段は屋敷から出ることすらできなかった。そうなると必然と私がこの世界で知っているものひどく偏ったものになる。今まではどうにかなっていたが、いずれは冒険者になる身。よりこの世界を知る必要があった。


お爺様曰く、魔物はこの世界の大半を占める生物であり、すべての個体は魔力をもっているという。そして魔物は肉は食料、素材は経済の源として我々と密接にかかわっている。魔物は理性はなく、害悪な種もあれば前世でいう家畜のような種もあるらしい。そしてその害悪は種を討伐するのが冒険者だ。冒険者は魔物の討伐以外にも雑用や護衛など仕事は多岐に及び、需要が高い。それに冒険者として登録すると身分証代わりにもなるので登録者数はかなり多い。


そして何事もなく二週間が経ち、そろそろハミルトン領に入るという時に私はこの馬車を観察している者に気がついた。


「お嬢様……」


レーニャも気づいたらしい。しかしお爺様やその部下達は気がついていない。


「お爺様、どうやらこの馬車は狙われているようです」


「なに、それは本当か⁉︎」


執務室の件で私の実力の片鱗を知っているお爺様は私の忠告を疑わなかった。


「レーニャも察知したので間違いないでしょう。レーニャ、あなたはどのように感じたかしら?」


「私は馬車から三時の方向に複数の敵意を感じました。具体的な距離は分かりませんでしたが恐らく前方の森から、敵は少数だと思います」


レーニャの推測に私は感心した。その推測はほぼ正解だったからだ。


「流石ねレーニャ、あなたの思った通りよ。正確には敵の位置は馬車から三百メートル付近の森からね。数は十人前後。その場からあまり動かないことから斥候、または偵察ね」


「何故そんなに詳しいことが分かるのかはさておき、部下達には警戒させておこう」


ちなみに何故敵の詳しい動きが分かるかというと、私はある程度の距離なら敵意を察知して特定することができるからだ。この技術は前世では度々命を狙われる事態に巻き込まれたから自然と身についた。今では感謝しているが、あんな思いは二度と味わいたくない。


「狙われると分かった以上、森を迂回することになりそうだ。少々予定より遅れるが仕方あるまい」


私達は予定を変更して近くの街へ移動した。敵はもう撤退したらしく街に着くまで襲われることはなかった。


翌日の早朝、私達は日が昇りきる前に街をでた。敵の気配はなく、無事に脱出できた。


街をでてから半日が経過し、漸くハミルトン領に到着した。後はお爺様の屋敷に向かうのみだったが、ここで事態が急変する。


まだ距離があるが、かなりの人数が馬車の前方に布陣している。恐らくは昨日の本隊。距離があるためかまだレーニャすら気づいていない。


「お爺様、レーニャ、昨日の奴らが本格的に私達を狙いはじめたわ。敵はおよそ三十。前方に布陣しているわ。多分ここで逃げてもいたちごっこでキリがないし、下手に背を向けたら追撃されるかも。そろそろ見えるはずだからお爺様は部下に準備させて」


「そうか。部下には私が言っておく。念のためお前達は馬車の中にいろ」


ここはお爺様の指示に従っておく。本当なら討ってでたいところだが、お爺様達からみたら私は少し変わった子供でしかない。下手に飛び出せば味方の連携を乱す可能性もある。それにお爺様の部下は経験豊富な戦士だ。人数差が多少あるが問題ないかもしれない。


やがて敵の姿がみえる。敵の姿はいかにもな盗賊の格好で何やら旗を掲げていた。


するとお爺様の部下の一人が呻くような声をあげた。


「オーガの生首に大剣の旗印、だと……なんでこんなとこに『荒ぶる巨兵』がいるんだよ……」


『荒ぶる巨兵』の名を聞いた途端、お爺様達に緊張が走る。


「よりによって『荒ぶる巨兵』か……これは少々骨が折れるな」


お爺様も思わず顔を顰める。元騎士団長のお爺様が顔を顰めるほどって……


「お爺様、『荒ぶる巨兵』とは一体何者なのですか?」


「そうか、カサンドラは知らなかったか。『荒ぶる巨兵』は危険度Bに指定されている少数精鋭の盗賊団で、冒険者ギルドが討伐依頼を出すほど危険な存在だな。下っ端は大したことはないが幹部クラスはそれなりの実力者で、特に頭領のゼルツは旗印が示すように実際に大剣でオーガの首を叩き切った猛者だ。討伐依頼を受けたBランク冒険者も返り討ちに遭った。私も倒せないことはないが、全盛期を過ぎてる身には些か堪えるな」


お爺様の口ぶりからして、ゼルツ以外の幹部に関しては問題はないようだ。だが一番厄介なゼルツは最低でもBランククラスの実力があるということでお爺様が相手することになった。


だが、その話を聞くと身体がウズウズしてくる。


元騎士団長が認める猛者。推定Bランク以上の実力者が目の前にいることに血が騒ぐ。武者震いが止まらない。あれ、私って実はバトルジャンキー?いやいやいや落ち着け私。好奇心を刺激するものが目の前にあるだけだ。一般人なら好奇心に引き寄せられるのも仕方ない。結論、私はバトルジャンキーじゃない。って、かなり話が逸れまくったな。


そんなこちらの様子を知る由もない『荒ぶる巨兵』。


「よう貴族様よ、ちぃとそこの馬車ごと置いていってもらおうか」


そう言ったのは大剣をもった巨漢、ゼルツ。


「生憎、盗賊風情に渡すものなどひとつもない」


お爺様が馬車から降りて、挑発気味にゼルツにそう返す。


「はっ、そうかよ。だったら力ずくで戴くぜ」


お爺様の挑発に乗ったゼルツとその面々は武器を構えて戦闘態勢に入った。


同時にお爺様とその部下達も武器を構えた。


「死ねおらあぁぁぁぁ‼︎」


ゼルツを先頭に盗賊が馬車に襲いかかる。


人数的に若干不利ながらもお爺様達は必死に盗賊を迎え撃った。


お爺様を筆頭に部下達も実力は高く、あっという間に敵の下っ端は全滅した。だが幹部はそう簡単にいかない。実力が拮抗してるのか、やがて戦局は泥沼になっていく。一人を倒せば一人が倒れる。少しずつ数で劣る部下側が不利になっていった。


一方お爺様はゼルツと一対一で戦っていた。


「ハアァァァァァァァァァァ‼︎」


「うらあぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


ゼルツの大剣をお爺様は技でいなしていく。攻めるゼルツ、いなすアレクシード。実力は完全に拮抗していた。


その頃、私は馬車の中で命の遣り取りを目の前にして顔色の悪いレーニャと共に待機していた。外の様子をみて、私とレーニャは自分達の劣勢を理解していた。本当なら私も外に出て戦いたい。だがそれは人を殺す覚悟を決めることでもある。私は前世で似たことをしてきたので覚悟はできているが、レーニャは人殺しなんてしたことがない。中途半端に覚悟すればいざという時に躊躇いがでたり、殺した後に罪悪感で苦しむことになる。だからレーニャが覚悟を完全に決めなければ私は安心してレーニャから離れることができない。何故かレーニャを馬車に残して私が外に出れば、一生の別れになると確信していたから。


「お嬢様、私の覚悟はまだ甘いかもしれません。でも私はお嬢様の隣に立っていたい。だから今決めました、たとえどんな困難があろうともお嬢様の側に居続けると。人を殺して苦しむことがあっても、この為なら後悔はありません」


レーニャの顔つきは晴れやかだった。私への依存で苦悩を吹き飛ばすとは思わなかったが良い傾向だ。


「さあて、行くわよレーニャ。遅刻したぶんはしっかり取り返さないと。楽しい楽しい命の遣り取りショータイムの始まりよ」

レーニャ覚醒回。カサンドラへの依存が強くてレーニャが微妙に病んでます。次回はカサンドラの活躍がメインです。

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