共に生きる
「おい、この資料に記された場所を騎士団に伝えろ!いいか、大至急だ!」
私が用意した証拠は陛下にとってとんでもないものだったらしい。物凄い勢いで資料を読んでいき、部屋の外にいた護衛を呼んで指示を出していく。
「ありがとうカサンドラ嬢、おかげで国内の膿をを出すことができるよ。しかし本当に良かったのか?どうやらキルシュバウム公爵家当主は私の暗殺計画の主犯格だ。君自身は処罰はされないが、このままだと貴族として生きていくことはできなくなるぞ」
打算でなく、ただ単純に国王様は私の身を案じてくれた。その気持ちに感謝で胸が一杯になる。
「礼には及びません、身内の恥ですから。それに元々私は両親に情なんてありませんし、それに十歳になったら冒険者に登録しようと思ってました。ですので私は貴族をやめたら冒険者になろうと思っています。」
「そうか。カサンドラ嬢ほどの聡明な人が私の息子達と婚約してくればよいのだが」
それって婚約フラグ⁉︎このままじゃせっかく下準備が水の泡になる!
「お戯れを陛下。罪人の娘と婚約など醜聞にしかなりません」
本音をいうと婚約なんか御免です。勘弁してください。
「そうですよ王よ。それに彼女自身乗り気ではないようですし無理強いしてはなりませんよ」
宰相が援護してくれた。これで勝つる!
「そうか、それでは仕方ないな。しかしカサンドラ嬢の身の安全の心配があるが‥‥」
「そうですね、問題がある程度解決するまで王城で保護することにしましょう。後日改めて使者を送ります。よろしいですねカサンドラ嬢?」
「問題ありません。御二人のご厚意に感謝します」
話し合いが終わり、空が少し明るくなりはじめた。そろそろ戻らないといけない。
空気と化していたレーニャを連れ、行きに使ったルートで公爵邸へ戻る。帰りは陛下が命令してくれたのか影の者に襲われることはなかった。
そして一ヶ月後、父は不正と国家反逆罪で捕まり、芋づる式で多くの貴族が捕まった。噂によると奴隷売買していた組織も壊滅したらしい。ちなみに私はレーニャと共に父が捕まる前に王城に避難済みだ。本来、城に忍び込んだ時点で死罪になるはずだった私を見逃すどころか助けてくれた陛下には本当に頭が上がらない。
「お嬢様、誕生日おめでとうございます」
そして今日、遂に私は十歳を迎えることができた。
「ありがとうレーニャ。でも結果的にあなたの仕事場を奪ってしまうことになって申し訳ないわ。できるだけ退職金は出すつもりよ」
父が捕まったことでキルシュバウム公爵家の没落は決定的で使用人を雇うこともできなくなった。そのため私は家や財産を全部売り払って、少ないながらも使用人達の退職金へ宛てた。既に使用人は屋敷から退去していて、最後に残ったのは私の側にいたレーニャだけだ。だから私はレーニャを解放しようとした。
だがレーニャはそう思わなかった。
「何をおっしゃられるのですか⁉︎私はお嬢様の専属メイドです。お嬢様に救われたこの命はお嬢様だけのもの。あの時から私はこの身が朽ちてもお嬢様をお守りすると決めているのです。だから私をお嬢様の側に居させてください!お願いですから…私を、捨てないで…」
悲壮な表情をするレーニャに私は既視感を覚えた。
…そっか、今のレーニャはあの時の私の姿にそっくりなんだ。前世で交通事故に遭った後、兄が突然姿を消した時の私に。
あの時の私は両親を失い、事故の後遺症で障害が残ってしまった。悲しかったし、生きる希望も失いかけたけど隣に兄がいたから頑張れた。だから兄が失踪したと聞いたとき、当時の私は兄に捨てられたと思った。別に兄を責めるつもりはなかったが、大切な人に捨てられたという事実は両親を失った悲しみ以上に私の心を引き裂いた。兄が失踪する前夜に何故か身体が完治していなければ私は死を選んでいたか、死んでいるように生きていただろう。
だからレーニャにそんな思いをさせようとした自分に腹が立つ。私はレーニャとの繋がりを軽くみていたのだ。所詮雇い主とメイドの関係、金が払えなくなれば勝手に私のもとを去るだろうと。思い返せばそんなこと無かったのに。
確かに当初はそんな関係だった。レーニャが私の専属になったのもただの偶然だ。けどその後はどうだっただろう。レーニャは私によく仕えてくれたし、修行を始めてからは単なる主従関係を越える強い結びつきを感じた。今ではまわりの人間を信用しなかった私が信頼を置いた数少ない人物だ。
大切な人から捨てられた悲しみを知っている私は果たしてレーニャを捨てることができるだろうか?
「…レーニャの気持ちは嬉しいわ。けどもうあなたに給金を払うことはできないの」
「そんなことは分かっていますよ。別に給金がでなくてもお嬢様と一緒に冒険者をやれば離れる必要はないですよね」
レーニャの目には強い意思が宿っていた。
「なんで、なんでそんなにも私を慕ってくれるの?」
「私は獣人です。獣人は人間から人と違うというだけで侮蔑されています。私も小さい時から侮蔑の視線を浴びてきました。公爵家で働くことになった後も同僚からも侮蔑の視線をおくられる時もあります。勿論、中には対等に接してくれる人もいますが極少数です。正直とても居心地は決して良くありませんでした。でもお嬢様は私を獣人としてでなくレーニャとして見てくれました。専属になったのは単なる気まぐれかもしれません。けれど公爵家の中でも居場所がなかった私は救われたのです。それに私が専属になった後もレーニャとして接してくれました。お嬢様の修行を初めてみた時は驚きましたが、お嬢様の素をみることができて嬉しかったです。それに一緒に修行させていただいた時は天にも昇るようでした。専属になったことで嫌がらせがあった時期がありましたが、お嬢様の側にいれることだけでそんなの気にしませんでした。ーだからお嬢様いえカサンドラ様、私レーニャは生涯に渡りあなたに忠誠を尽くします」
レーニャの覚悟は私の予想以上だった。彼女の想いは強く、重い。
だから私はそれを受け止める覚悟を決める。たとえ荒波のような人生が待ち受けているとしても彼女と共に生きる覚悟を。
「私はどんなことになろうともレーニャの受け止め、共に生きることを公爵家令嬢カサンドラ・キルシュバウムではなく唯のカサンドラとして誓います」
罪人の娘である私の人生は恐らく波乱に満ちることだろう。
けれど共に歩んでくれる者がいる限り、私は前に進むことをやめることはない。
年齢設定
転生幼女の決意
カサンドラ 三歳
レーニャ 十三歳
変化
カサンドラ 七歳
レーニャ 十七歳
始動
カサンドラ 九歳
レーニャ 十九歳
共に生きる
カサンドラ 十歳
レーニャ 十九歳