プロローグ
ふと目を覚めると私は真っ白な空間にいた。
「‥‥夢か。寝よ「ちょっと待ってください‼︎」ファッッ⁉︎」
突然私の後ろから大きな声が聞こえた。吃驚して思わず変な声あげちゃったじゃん!
振り向くとテンプレな格好をした天使がいた。
中年のおっさんの。
「おえええええええええ‼︎」
「ぎゃあああああ‼︎かかったんだけど‼︎七色に光るナニカがかかったんだけど‼︎」
煩いわゲテモノが‼︎普通天使っていったら金髪のイケメンが美女だろうが(もしくは幼女でも可)‼︎何で中年のおっさんなんだよ‼︎しがないサラリーマン風バーコードハゲのおっさんがそんな格好してたらどうみても変態にしかみえねーよ‼︎それと光るナニカじゃなくて乙女力(物理)な。
「初対面相手に結構な毒吐きますね!あとさっきのは乙女力じゃなくてとし「乙女力(物理)な」アッハイ」
変態相手に慈悲はない。変態死すべし。
「変態じゃありませんよ。転生課所属の天使です」
こんな怪しい天使がいてたまるか。
あれ、さっきから声出してたっけ?
「いいえ、出してませんよ。私があなたの心の声を聞いているだけです」
へー(棒)。まあ夢だし何でもありだね。それに声出さなくても思ってることが伝わるなんて楽だし。
「そんな反応されたのは初めてですよ…。それとこれは夢じゃないです」
ワッツ?夢じゃない?
「えー、突然ですがあなたは死にました」
ふむふむ、OK把握。はいはいテンプレ、テンプレ。
「落ち着いてますね。もっと慌てるかと思ったのですが」
いやー、意外とテンパってるよ。一周回って冷静になるくらいには。でもネット小説で似たもの読んだことあるから案外パニックにはならないけどね。ところで私の死因は?
「あなたの死因は睡眠中に野球ボール大の隕石が頭にピンポイントで落ちて死亡です。画像見ます?」
ノーセンキュー。自分のグロ画像など見たくないわ。SAN値が下がる。
「分かりました。あの…そろそろ会話しません?今のところ、ずっと私が一方的に話しかけてる状態なんですけど」
やだ、面倒くさい。
「はあ、仕方ないですね。では話を進めます。というよりこれからが本題です。あなたには異世界に転生してもらいます」
テンプレだね。なんとなくそんな気はしてたけど。
「実はあなたはこちらのミスで死んでしまったのです」
はあ?要するにあんた達が私を殺したってこと?
テンプレだけどちょっとイラッときた。
「具体的にいえば私の上司の神が因果律の不具合を起こしたのが原因なので、そういう解釈で構いません。そのお詫びのための転生です」
へえ、ほう?それはサービスが良いことで。まあ良くあるよね。でも神様許すまじ。
「転生に伴い特典を三つをプレゼントします。よく考えてください」
ちょっと待って。特典の前に私はどんな世界に転生するの?特典貰ったのに転生した世界で役に立たないなんて勘弁したいんだけど。
「それは言えません。ただ言えることはロボットとかは出ませんので、特典についてはそれを参考にして下さい」
むう、ありがたいのかそうでないのか判断に迷う情報だね。ロボットとかが出ないとすると操縦技術系は無しか。ある程度特典の内容が限定できたのは良いけどさ。
でも本当にどうしよう。ロボットが出ないといってもファンタジーな世界や前の世界のような可能性があるから、汎用性のあるのがいいかな。
「そろそろ決まりましたか?」
決まった。まずは圧倒的な身体能力ね。やっぱり身体は丈夫じゃないと。それに自衛も兼ねて。でもある程度セーブ出来るようにして。
「なるほど分かりました。具体的にはどのくらいの強さにしますか?」
どれくらいか‥‥。とりあえず、現地にいる最強の生物くらいかな?ドラゴンとかいたらそれと同等かそれ以上みたいな感じで。
二つ目は重力を操る程度の能力。これは前からあればいいなって思ってたんだよ。自分の重力を増やして修行とか、相手の重力を重くして動き止めたりするとかカッコいいよね。
三つ目は武芸全般の才能かな。生前は武芸全般やってたけど達人クラスまではいけなかったから、どうせ転生するなら極めたいからね。えーと、これで、大丈夫?
「正直言って神を超える力を与えるのはNGなのですが、この内容でしたら圧倒的な身体能力と武芸全般の才能はなんとか大丈夫です。ただ重力を操る程度の能力につきましては範囲や威力などに制限を設けさせることになります。では確認しますね。名前は東城美波、享年は二十五歳。特典は圧倒的な身体能力、重力を操る程度の能力、武芸全般の才能でよろしいですか?」
大丈夫だ。問題ない。
「不安を煽るような回答ですね‥‥。まあいいでしょう。ではこれから転生の儀を始めます。あなたとはこれで最後になりますが、何かありますか?」
自称天使が手をかざすと、自分の身体が光りだす。どうやら儀式が始まったようだ。
「元々はそちらのミスだったけど、転生させてくれたことと特典をありがとう」
不器用で優しいエルお兄ちゃん。
そして光に包まれて私は姿を消した。
こうして私は異世界へ転生していったのだ。
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「ふふっ、最後まで相変わらずあなたらしかったですね」
(それに薄々私の正体に勘付いていた節がありましたし。)
「彼女は無事に転生出来ましたか『ミカエル』?」
現れたのは金髪のグラマラスな美女。名前をラファエルといった。
ミカエルと呼ばれた天使は中年から爽やかな青年の姿に変わっていた。いや、戻っていた。
「わざわざ悪趣味な格好しなくてもそのままの姿で良かったのではないのですか?」
「そうもいきません。彼女にだけはこの姿で会ってはいけないのですよ。自分を捨てた兄の姿など‥‥」
ミカエルは神の命令で一度だけ人として生きていた時代があった。彼女の、東城美波の兄東城エルとして。
「それは仕方がなかったのでは?代償が人としての終焉でも、あなたは彼女を救う為に天使の力を行使したのですから」
美波が高校生の時、両親と美波は交通事故に遭った。エルが病院に駆けつけた時には両親は既に事切れ、美波も瀕死の重傷だった。
医師には打つ手がないと言われた。たとえ峠を越えても障害も残るだろうとも。
「あの時、美波を苦しめずに逝かせればと思いました。生き延びたとしても両親が死んだことを知るのは苦痛でしょうし、残りの人生を死んだように生きてほしくなかった。けど美波は私が思っていたよりもずっと強かったんです」
峠を越えて意識を取り戻した美波は両親の死も障害のことも聞かされた。もちろん彼女は悲しんだし、ショックをうけていた。けれど絶望はしなかった。生を渇望し、希望ももっていた。
エルが兄として妹を支えていれば平穏な幸せがあった。だがエルはそうはしなかった。天使として美波の生き様に魅せられたエルの歪んだ愛情とエルの天使としての本能が全てを変えてしまった。
ある深夜、エルは寝ている美波に祝福を与えた。祝福により美波の傷跡や障害は全て無くなった。
祝福の代償に東城エルとしての存在が消えてしまうが、エルは満足していた。これで愛すべき妹は再び幸せになるだろうと。
だか美波は絶望していた。傷や障害は無くなった。けれど隣にいて欲しかった人がいなかったことに。
ほんのすれ違いが運命を変えた。
平凡な日常に戻った美波は平穏に暮らしていたが、どこか陰があった。
独り善がりな満足をしたエルはミカエルに戻った後、美波の人生を見て自分の選択が望んだ結末にならなかったことや結果として妹を不幸したことに絶望した。
「だから今度こそは幸せになってもらいたいんですよ」
さようなら愛しの妹よ。兄として、天使として来世の幸せを祈っています。