正直者の冒険者
ちょっと思いついた事を投稿してみます。
冒険者と呼ばれる者たちがいる、王国において彼らは国民としての権利を享受できない代わりに、諸々の義務が免除される。
冒険者たちは謳う、俺たちは世界一自由な存在だと。
権利がない代わりに義務のない彼らは、都市では真っ当な職に就くことはできず、自然と一般の国民が忌避する危険な仕事を任される、即ち魔物の討伐を始めとした『対魔物の戦力』として人々に看做される事となる。
そんな冒険者の一人、貧しい農村での暮らしに我慢できず、出稼ぎと称して村を出て行った少年ディムナと同郷の友人合わせて三人は、王都から徒歩一日の距離にある魔物の森にて魔物の素材を求めて狩りをしていた。
しかし多少冒険者として実力をつけてきた彼らだったが、初めて見る魔物に襲われディムナは負傷し、ふたりの仲間は気絶して、途方に暮れていたところ……
「上級ポーション一つ銀貨9枚で、三つセットで銀貨30枚で売るけど……どうだい?」
無駄に溌剌とした笑顔を見せる同業者と思しき、男に声をかけられていた。
「わ、分かった買うよ! セットでくれ!」
ディムナ達は胡散臭いとは分かっていても、背に腹は代えられない。
「毎度!」
ディムナはクリー・ボッターと名乗る男に銀貨30を支払おうとし……
「ちょっと待った! なんでセット価格で高くなるのさ」
「カモにしようとしただけだから気にするなよ」
溌剌とした笑顔のまま、酷い発言である。
「気にするよ! 銀貨3枚は大金だよ!」
「俺は悪くない、少しぼったくりしようとしただけさ」
「ちっとは悪そうにしろよ、っていうか少しは隠せよ」
怪我を忘れてディムナはツッコミを入れる、ここまで堂々としてるとまるでそれが普通なのだと思えるから不思議だ。
「隠せ? 俺は嘘が大嫌いなんだ、だが仕入れて売った差額が俺の利益なんだから出来るだけ高値で売りつけるのは当然だろう?」
「ちなみに仕入れ値は?」
「実は銀貨1枚のところ、親戚価格で仕入れたんで実質銅貨90だな」
ちなみに銅貨100枚=銀貨一枚の価値である。
「高ぇよ! 仕入れ値の10倍じゃねぇか!」
「世の中そういうものだ……虚しいがそれが現実なんだ、だって競合する相手いないし」
「嘘が嫌いって、言わなくても良い事暴露する事じゃないからな!」
「お客に納得して金を払わせるのは重要だろう?」
「内情を知って納得できるわけないだろうが!」
クリーは胡散臭い笑みを浮かべたまま、やれやれとでも言いたそうにため息をついて……
「でも需要あるよな?」
「ド畜生! ほらよ銀貨27枚だよ、早くポーションくれよ!」
ありがとうございます、と満面の笑みで銀貨を受け取る男をぶん殴りたい衝動を抑えつつディムナは怪我した仲間にポーションを飲ませると、みるみる傷が癒えていった、上級ポーションなのは嘘ではなく、流石にぼったくりではあっても粗悪品を売りつけるほど悪党では無いようだ。
「つーか、アンタ、ソロの冒険者なのか?」
助かったのは事実だが、素直に礼も言いにくい、そんな微妙な気持ちでディムナはクリーに話しかけたところ、どうやら勘当された商家の三男坊らしかった。
「とは言っても安くポーション融通してもらったりするんで、実家の宣伝でもしようかと思ってな、ほら、ポーションのビンにボッター商会のロゴが入ってるだろ? これを商会に持っていけば通常銀貨2枚で売ってる上級ポーションを銀1銅50で買えるんだ、ビンの分安売りする形だな」
リピーターを期待したやり方だとは思うし、こうして商会のロゴ入りビンを冒険者にばら蒔くのも、まぁ説明されれば納得できた……が。
「お前さんのボッタクリで、物凄い逆効果な気がするんだけど」
「けど上級ポーション銅貨50枚分安くなれば買うよな?」
「ムカつく! けど多分買う!」
身一つで稼がなくてはならない冒険者にとって、ポーションは必需品だ、ちゃんと効果があってそれが安くなるとなれば、利用しない手は無い。
「むっ! 向こうで悲鳴が聞こえた、実家の宣伝のチャンスだ、それじゃ達者でな」
ディムナには分からなかったが、どうやらピンチの同業者がいるらしい、俺たちの時もこんな感じで駆けつけたのだろうか、そんな事を思いつつ、クリーの姿は森の中へ消えていった。
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彼らは後で知ることになるのだが、冒険者クリーの『実家の宣伝』で命を拾った者はそれなりに多く、ボッタクリ商売をしている割に悪感情を抱く人間は殆どいない事に驚いたそうだ。
クリーを慕うという、引退し酒場を経営する元冒険者は……
「やぁ君たちキュアポイズンが入用かい?! ボッター商会で銅貨50の商品を、特別に銀貨5枚で提供するぞ」
「ははは、毎度毎度ムカつく野郎だなクリーさん、助かったけど礼は言いたくねぇなコンチクショー」
……と、引退前にこんなやりとりがあったと、苦笑しつつ話し、また、たまたま近くに座っていた女性は……
「なに? 金がないだと? 分かった代金を3倍にする代わりに、街まで連れ帰ってこき使ってやる」
「ま、街まで連れてってくれるのですか! ありがとうございます! ありがとうございます!」
……あの人、言動は残念だけど、実力はあるのよねぇと、朗らかに笑いながら語ってくれた。
また、女性の隣で黙って酒を飲んでいた中年も、似たような事があったと自分の体験を話し。
最近実力をつけてきた若手冒険者パーティーも笑いながらムカツクだのいつか殴るだの吠えていた。
「畜生! クリーさんに有り金全部払っちまったぜ! 親父ツケで飯を食わせてくれ」
荒れた調子で酒場に入ってきた若い男に、客たちは笑いを堪えてるようだった。
「災難だったなぁ、今日の飯は俺が奢ってやるから何があったか話してみろよ」
「あぁ! マジっすか店長太っ腹! 聞いてくださいよあの野郎がですね……」
冒険者と呼ばれる者たちがいる、王国において彼らは国民としての権利を享受できない代わりに、諸々の義務が免除される。
彼らは生きるも死ぬも自己責任、だから彼は自由に生きていた。
これは、そんな冒険者の中で自由に、そして正直に生きた冒険者の一幕…
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