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48.

闇属性の魔法が切れて混乱していたからか、何とか見張りの目を掻い潜った私とカルツォは、監禁されていた屋敷から脱出した。

一応追手が来ないことを確認しながら隠れ逃げて2日。カルツォ的にもう大丈夫と思われる場所に来たようで、一度休憩をすることになった。カルツォのなじみの宿屋で宿を取り、2人で今後の対応を協議することになった。


「明日は辻馬車を呼んでもらったから、それに乗って帰ろうと思うんだ。」

「王都までは後どれくらいなのかしら?」

「辻馬車を借りたから、明日中には着くと思うよ。・・・まあ、追手がやってこなければ・・・だけれど」


カルツォの話になるほどーと相槌をうっていると、部屋の扉がノックされた。


「すみません、お客様。少しよろしいでしょうか?」


宿屋の主人の声が聞こえた。しかし、宿屋の主人だけではない。他にも誰か居るような気がする。


「追手かしら?」


私がカルツォに向かって聞くと、彼は首を横に振って違うと示した。部屋の外の気配を探ると、どうやら騎士団の人間なのか、騎士団の制服を着用している。しかし、私には覚えのない顔だった。

その旨をカルツォに話したら、カルツォは私に動かないように念を押して、扉に近づいて行く。私はしばらく様子を見ることにした。


「すみません、お客様。実は・・・」


そこまでしか私には聞こえなかった。カルツォが部屋を出て扉を閉めてしまったから・・・。


でも、ただ待ってるのって私には辛いのよね。あまりにも時間がかかるようなら、さっさと寝てしまおうかしら?

そう思い始めた頃、バーンと大きな音を立てて部屋の扉が開かれた。

私はびっくりして、ベッドに向けていた視線を扉に戻す。するとそこには


「リーザっ!!」

「ルー?」


いつも憎たらしいくらい余裕ぶってるこの国の王太子であるルーが肩で息をして立っていた。

あまりの状況に、ただぽかんとしてルーを見ているとルーは私の姿が見えないのか、きょろきょろと周りを見まわし始めた。

そして、ベッドの下や、据え付けられた衣装ケースの中、果てはカーテンの裏まで見る始末。

そして、どこにも私を見つけられなかったルーは、肩を落として、私が座る椅子の前に膝を着いた。


「リーザの香りがする」


ピシリ・・・と空気が固まった音がする。


「ここからの香りが一番強い」


くんくんと匂いを嗅ぎだすルーに、私はその場から動くことができなかった。カルツォも青い顔をして私とルーを交互に見ている。ちょっと!!何とかルーを引きはがしてちょうだい!!


「これは残り香じゃないな。ここに居る匂いがする。」


ここに居る!?ここに居る匂いって何!?ってか怖い!誰か!!

私が若干パニックになっているというのに、カルツォはのんびりと


「アイーザには君を邸に連れて行って謝ったらって言われているけれど、ここで見つかってもいいかな?」


とか言い出す始末。いや、見つかってもいいかな?って、ここで魔法を解くってこと!?椅子に座っている私を囲うようにルーの両手が椅子の肘置きに置かれて、私の目の前に陣取っているこの状況で!?

私が混乱の極みに至っているというのに、カルツォは魔法を詠唱し始めた。や・め・ろ!!


「リーザ!!」


私には何の変化も感じられなかったのだけれど、ルーの瞳が私の姿を映したのがわかった。そのままギュッと抱きしめられた。

ギュッと抱きしめられた・・・?やっぱりルーの腕の中は安心する・・・じゃなくて!え、ちょっと待って!!私、まだシャワー浴びてない!この2日、外を隠れるように逃げてきたのに!汗だって、いっぱい掻いてる!汗臭い私とか、ルーに知られるなんて・・・いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!


「やっ、離してっ!!・・・離してよ、ルー!!いや!!」


こんな状態で抱きしめられている事実に耐えられなくなった私は、力いっぱい暴れた。ルーの胸を押して、抱きしめる腕を引っ掻き、足を使って距離を取る。

呆然としたルーは私を離してくれたけれど、瞳は私から離れることは無い。


「リーザ・・・?どうし・・・」

「どうしてじゃないわ!!私、まだシャワーも浴びていないのよ!2日よ、2日!2日もシャワーを浴びていないの!!汗も掻いたし、色々なところを隠れて来たわ!それなのに、私の匂いがするってルーは言うし!っていうか、私の匂いって何!?」

「あ、ああ、ごめん」


私の勢いに呑まれたのか、謝られた。そこで、現在の状況に思い至る。一国の王太子に謝らせるって私、何様!?これはもしや処刑ルートへ一直線!?

蒼白になった私の周りを大きなシャボン玉が包む。そして、シャボン玉が弾けたとき、私の体はさっぱりしていた。


「これくらいしか出来ないけれど」


カルツォが申し訳なさそうに言う。どうやら、お詫びの意味を込めて体を洗ってくれたようだ。


「今のは・・・もしかして、リーザの体を洗ったのかな?ねえ、君がやったんだよね?」


ルーがカルツォに向かって話しかけた。・・・あれ?ちょっと怖い?


「ええ。お詫びの意味を込めて」

「ということは、私もまだ触ったことのないリーザの体を、君が触って洗ったっていうことかな?」

「いや、汚れだけ吸着する魔法なので、体は障らなくても大丈夫・・・」

「なーんだ。それなら良いんだ!」


一転にっこり笑ったルーは、私の方へ顔を向けた。あ、もう怖くない。


「リーザ。ああ、会いたかったよ。3日ぶりだね。」


そして、私の方へ近づいてくる。今度はある程度距離を取ってくれているみたいで、抱き付かれることは無い。よかった。いくら汚れが取れたとはいえ、一応16歳の年頃の娘的には、やはり湯あみが済んでからの方が安心である。ドレスも新しいのに替えたいし。


「ええ。煩わせてしまってごめんなさいね、ルー。忙しいのに・・・」

「リーザの身の安全が最優先だったからね。無事で良かった」

「カルツォに助けてもらったのよ」

・・・まあ、原因もカルツォなんだけれど。


と言う前に、「カルツォ?」と低い声がする。ん?聞いたことが無いほど低いけれど、ルーの声・・・よね?


「いつの間に、名前で呼ぶほど仲良くなったの?」

「え?」


きょとんとする私に構わず、ルーが距離を詰めてくる。一体どうしたのかしら?


「・・・あの、話し中に申し訳ないのだけれど、私はもうアイーザの所に言ってもいいかな?」


カルツォの声に、私は頷く。


「ええ、相沢さんも待っているでしょうし、お待たせしすぎるのも・・・」

「だよね!じゃあ、私はもう行くね!」


私の話をぶった切ったカルツォは、ニコニコした笑顔を残して段々と透けて行き、それに合わせるように光の粒子が空に昇っていく。空に昇れたということは、相沢さんの所に行けたということで良いのかしらね?

なんとなく、「上は天国、下は地獄」なイメージがあるから、下に降りなくて安心したというのが本音かしら。


そんな気分で私がカルツォの消えた場所を眺めていると、首元にヒヤリとした感触を覚えて、目線を向ける。すると、いつのまにか、私の後ろに居たルーが、なくしてしまったと思っていたネックレスを付けてくれていた。

なじみのある感覚に、ホッとして体の力が抜けるのがわかった。そういえば、この2日間、緊張続きであまり眠れていないのよね。もう、ルーも迎えに来てくれたし、邸に帰れるでしょうし、安心よね・・・。

私が考えられたのはここまでだった。誘拐監禁からの脱出は思った以上に私の体に負担をかけていたらしい。そのまま、スコンと意識を飛ばしてしまった・・・みたい。


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