45.
「私・・・えっと・・・。あの!お時間取っていただいてありがとうございます!私、あの・・・ルーファス様とお話してみたくて・・・。が、学園ではいつもリーゼロッテ様とか、シーガル様とかと仲良くされてらっしゃって・・・別世界の方々みたいで・・・気後れしてしまって・・・」
シーガルとチェブリアンヌ公爵令嬢が部屋を出て行ってから、俺は再びこの女の対面に座っているが、苦痛でしかないな。うん、辛い。
目の前で、上目遣いで俺を見てくる彼女に白けている内情を知られないように、笑顔の仮面を被る。本当はこんな女と話している時間ももったいなくて、早くリーザを探しに行きたいのだけれど、この女から情報を引き出さなければならない。
涙目で胸を強調しているようだが、まったくもって心動かされることは無い。というか、俺には素晴らしい婚約者のリーザがいるというのに、一体この女は何を考えているのか。婚約者の居る男に面会を申し込むなど、常識のあるレディとしては考えられない行為だ。・・・ああ、この女は最近爵位持ちになったばかりだったか。
リーザのくれたお守りに触れて、リーザの笑顔を思い出す。酷いことはされていないだろうか。泣いていやしないだろうか。理不尽に扱われたりしていないだろうか。ああ、今すぐ探しに行きたい!!
まあ、リーザに何かあったら、リーザに何かした奴ら全員探し出して、死ぬより辛い思いをさせてやるだけだけれど・・・。
「あの、私、光属性をもっておりまして・・・。養父が言うにはすごく希少な能力なのだとか・・・。私にはよくわからないのですが・・・。あ、でも、ルーファス様と一緒ですね!それは嬉しいです!」
まだ喋っていたのか、この女。今のところ大した話はしていないな。時間の無駄感が半端ないんだが・・・。
それに、気にしない風を装っていても、隠しきれていないところに底の浅さが見えるな。光属性を持っているだけでこの女を俺の妻にしろという噂も聞いているが、こんな奴が国母にでもなってみろ!この国は終わるぞ。国母の地位が決して羨ましがられるものではないことくらい、両親を見ていれば良く分かる。
それを抜きにしてもこの女は、リーザの夢の中で思い出すのも胸糞悪いが、俺の横に“恋人”として居たらしいからな。余計に気を許すわけがないだろう。
「あの、ルーファス様。学園でもまた話しかけても良いでしょうか?」
「ええ、勿論ですよ」
ここまで話を聞いてみたが、特にリーザ誘拐について知っているわけではないようだ。それに、この女は何を勘違いしているのか、リーザよりも上に居るつもりのようだ。愚かしいにもほどがある。
それに、俺はここまで「へえ」「そうですか」「ええ、勿論ですよ」の3言しか喋っていない。どれだけ自分大好きなんだか。話も終わりそうな雰囲気に、やはり時間の無駄だったなと思いながら退室を促そうとすると、
「あの、明日もお時間取っていただけますか?」
とか抜かして来やがった。
「ええ、正式な手続きを取っていただいて、その時間に私の予定が入っていなければ、ぜひ」
「ありがとうございます!ではまた明日」
だ、と!?コイツ、マジか。まだ手続きも取っていないにも関わらず、俺が時間を取ると本気で思っているのか?お前に使う時間があれば、リーザに使うに決まっている!それに王族は意外と空き時間がない。リーザに会うためにどれだけ俺が仕事時間を巻きでやっているのかわかっているのか?
リーザは一度だって「会いに来て」なんて言わないのに!!くそ、泣けてくる。
いや、それがリーザの優しさだとわかっている!何たって俺たちは両想いなんだからな!!
ケニーとサインスにこの女を入り口まで送るように伝えて俺は部屋に戻る。見送る気もない。騎士が扉を閉めてくれると、少しだけ気を張っていたのがわかった。
胸元にあるリーザのお守りを服の下から取り出して、唇を当てる。ひやりとした金属が俺に冷静さを取り戻させてくれる。さて、どこを探そうか。