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40.

ガチャガチャと鍵をいじるような音がして、ガチャンと一際大きな音が響く。どうやら鍵が開いたようだ。

・・・と思ったのもつかの間。更にガチャガチャ音がする。おいおい、1つじゃないのかよ・・・と思わず口を付いて出そうになってしまった。

こんな小娘一人にいくつ鍵をつけるつもりなのか。よっぽどの小心者か、私が全属性の魔法を使えると知っている者か・・・。

私が想像していたより、扉を開けて犯人が顔を出すまでが長い!!


そして、ようやくすべての鍵が開いたのか、扉が開く。

明かり取りの窓があったおかげで、目が眩むことはなく、男の顔が見えた。恐らく4、50代だろうか?

恐らく若いころは黒っぽい髪だったのだろう。それが、年を経て所々白い物が見え始めて全体的に灰色っぽくなっている。

食生活は良いのか、今現在の体にはたるんだ皮膚がくっついている。そして、おでこが油でテカっている。オイリッシュー!!

でも、小物系の匂いがプンプンする。瞳はキョロキョロと落ち着きが無いし、常にビクビクしているように見える。

私の周りにいないタイプである。見覚えはない。


私は公式発表されている3属性しか持たない侯爵令嬢として対応することにした。

相手がどれだけ私のことを理解しているかわからないしね。


こちらに視線を向けて、私が起きていることに気付き、目を大きくしているところを見ると、起きているとは思っていなかったのだろうか?

・・・しかし、そのまま口を開かない。

私も無理に会話などしたくないので、黙っておく。


無言の時間が続く中、男の後ろから若い男が部屋に入って来た。


「おやおや、起きておられたのですね。アルフバルド侯爵令嬢!」


そう言って、私の前にしゃがみ込み、私と瞳を合わせてくる。

年のころは20代だろうか?見た目はそれくらいなのだが、どうにも解せない。

なぜなら隠している本性というか、雰囲気が老獪だからだ。

フレンドリーに話しかけてきてはいるが、目が笑っていない。


そこで、ふと私の琴線に何かが触れた。どこかで同じような雰囲気を感じた気がする。どこだ?どこで感じた?

心の中で必死に探しながら、表面上は侯爵令嬢として対応する。


「あ、あの。私の名前をご存じなのですか?私はどうしてここに?このように縛られているのでしょう?私は友人に会わせてもらえると聞いて来たのですが・・・?」


小物に怯える振りをして、目の前の男に話しかける。むしろ小物に聞いた方が早く解決する気がするんですけれど!!


目の前の男は何が楽しいのかわからないけれど、ニコーっと笑った。しかし、それは笑顔ではない。気持ち悪い、むしろ寒気を覚えるような作られた笑顔だった。

体中に鳥肌が立つ。何だコイツ!本能が危険を叫んでいる!

逃げたい!コイツの近くに居たくない!それは私が16年間生きて来て初めての感情だった。


「っ」


腕を取られた。ロープがロープの意味をなしていないため、腕からするりと落ちる。

両手を男の両手に取られ、目を覗き込まれる。気持ち悪い!!

私の腕は小刻みに震えており、それに気付いた男は不思議そうに私を見る。


「どうかしましたか?人と会話するには笑顔と書いてあったのでしてみたのですが、上手くいかないものですね」


そんなことを言う。


『それは笑顔ではありません。気持ち悪いのでやめてください』

そう言ってもいいのだろうか?信じられないけれど、これがこの人なりの笑顔らしいのに。でも、私には無理!ふいと視線を逸らす。犯人から目を逸らすとか一番良くないんだっけ?前世でそんなことを言われたような気がする。


「ああ、鳥肌が立っているではありませんか!寒いのですか?」


言葉は親切に聞こえるが、何というのか、爬虫類が体を這っている感じがしてとにかく気持ち悪い!


「・・・手を、手を離してください・・・」


やっと言えた言葉も、蚊の鳴くような声で聞こえたかどうかわからない。しかし、「ああ、すみません。嫁入り前のレディに失礼を」とか言って、手を離してくれたのだけは、助かった。

その間、小心男は扉の近くでこちらを窺っているだけで、特に何もしようとはしない。

爬虫類男の方が身分は上なのだろうか・・・?

考えなくてはいけないことが山のようにあるのに、私の欲求はシンプルだった。


手 を 洗 い た い !


とりあえず手を洗わなければ、何も考えられない!潔癖症ではなかった気がするんだけれど・・・?


水属性の魔法で手を洗う。もちろん、爬虫類男に見せる必要はないので、後ろ手にしてだけれど。ついでにアルコールで除菌もしておく。うん、一安心。

私の意識が手から逸れたのに気付いたのか、爬虫類男が私の前にタペストリーを見せて来た。そう、隣室に置いて来た丸めた状態のタペストリーである。


「このタペストリー。切れているんですけれど、お嬢さんがやったんですよね?」


断定ということは、やはり見ていたのかしら?


「さあ。どうかしら?」

「どうやったのかはわかりませんが、先ほど隣室の結界が破られましてね。確認に行ったらいつもの場所にこれがなくて、傍に丸めて落ちていたので」

「誰かが模様替えに外したのではないの?」


まさか、隣室に結界が張ってあったなんて!私はまったく気付かなかったけれど

!そう、心の中で思いながら白を切る。


「それはありません。これが私にとってどれだけ大事なモノなのか、ここに居る人間には教えてありますから」


ねえ?なんて小心男を見るものだから、情けない悲鳴を上げているではないか。おっさんのそんな姿見ても楽しくないのですけれど。


「だから、これを放っておく人間など、あなた以外考えられないのですよ?」

「そう。では、直しますから貸してください」

「いいえ、結構。これは私と彼女の大切な思い出なので」


せっかく直してやろうと手をだしたのに、そう言われてしまえばそこまでである。それに、彼女との大切な思い出なんて言っておきながら、私から視線を逸らさないのはなぜなのか?


「ああ!落ちているではないですか。気に入りませんでしたか?」


落ちていた髪留めに気付いたのか、そう言って髪につけようとするのを阻止する。


「結構ですわ。それに、私の大切なネックレスはどこにやったの?」

「ああ、そうですねえ。では最初からお話しましょう」


そう言って、爬虫類男が話出す。

ここは、とある貴族の別邸の地下室であること。

ライラ様の髪は、ライラ様から直接切ったものではなく、ライラ様が髪を揃えた時(つまり切ったとき)に横流ししてもらったものだということ。

ネックレスはアルフバルド侯爵家へ手紙と共に届けられたということ。

王太子とヒロインが良い仲になるまでここに監禁すること。


おいおいおい。それはあまりに雑ではないだろうか?


「ふふっ。わかっていますよ。これがあの人の頭の中の限界です」


そう言って、小心男を見る爬虫類男。


「私は、貴女を手に入れられればそれで良かったのです」


再び気持ち悪い笑顔で私を見る。近い近い!!距離が近い!


「さあ、やっと見つけたんですから。今度こそ、私と一緒になってもらいますよ、アイーザ」


手を取られ、指先に口づけを落とされた時、私の手首を一周する痣が浮かび上がった。そして、そのまま私は意識を失った・・・。

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