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39.

「ご機嫌よう、王太子殿下」


王宮騎士が開いてくれた扉をくぐり、私はシルバーブロンドを揺らせて、王太子殿下に挨拶した。

そこには、王太子殿下と、最近巷に流れているある噂の元凶とも言えるレディ―アイリッシュ・エンダソンヌ子爵令嬢―が居た。

噂に聞いた通り、ピンクのフワフワした髪に、赤い瞳。光の加減でオレンジのラインが入るそうだけれど、私はそこまで近付く気もない。

それに、用があるのはコイツじゃない。


「やあ、チェブリアンヌ公爵令嬢。今日はアルフバルド侯爵令嬢と一緒のはずでは?」


相変わらずリーゼロッテ様の予定は全部把握してらっしゃるようだわ。

それなのに、どうして今日に限って!!


「ええ、そのことで少しお話がありまして」


そう言うと、失礼と声をかけて席を立ち、私の方へ歩いて来られる。

私も・・・と立ち上がろうとした彼女を制した後、扇子を取り出した私は、王太子殿下にだけ聞こえるように囁く。

エンダソンヌ子爵令嬢は、こちらをじっと見てくるけれど、貴女に聞かせる話はなくってよ。


「リーザがどうかしたのですか?」


私が王太子殿下とリーゼロッテ様のファンということを知っている王太子殿下は、私にそう聞いてくる。


「先日、殿下にお聞きしたお話のことをふまえて、私の邸ではなく、リーゼロッテ様のお邸にて今日お会いする約束をしておりましたの」


殿下に聞いた話というのは、王太子殿下と婚約したリーゼロッテ様がふさわしくないのではないかという話だった。以前もそのような話はあったけれど、陛下も妃殿下も殿下も頷かなかったことで、下火になっていた話だった。

しかし、最近、殿下と同じ光属性を使えるというだけで、エンダソンヌ子爵令嬢を押す派閥が出てきたのだという。

強い属性、稀な属性を持つ者同士が一緒になれば、その子供も同じ属性を引き継ぐ可能性があるというのは昔から言われてきていた。

しかし、今のリーゼロッテ様は、レディの中のレディとなられて、どこに出しても文句なく素晴らしい人だとほとんどすべての貴族が思っている。

そこに、ぽっと出の子爵令嬢、しかも、少し前まで庶民だった礼儀も何もわかっていない小娘を後釜にというのはどういうことだ!と憤ったものだ。

そして、さらに巷に変な噂が流れだした。曰く、王太子殿下はエンダソンヌ子爵令嬢と良い中である、と・・・。

そのため、リーゼロッテ様に危害を加える者がでるかもしれないということで、急きょアルフバルド侯爵邸へとお邪魔する予定だったのだ。

リーゼロッテ様を危険に巻き込まないために・・・。


「しかし、到着した私に伝えられたのは、リーゼロッテ様が行方不明だという言葉でした・・・」

「行方不明!?」

「ええ、そうですわ、殿下。行方不明です。リーゼロッテ様は、お庭でお茶の用意をなさっていたそうです。もちろん、お一人ではなく何人ものメイドも。ところが、急に」

「急に居なくなった、と・・・?」

「ええ、そうです。護衛ももちろんリーゼロッテ様から目を離さなかったようです。それが、突然姿を消された、と」

「そんな・・・。」

「そして、これです。」


私は預かって来たものを殿下に渡す。


「これは・・・」

「アルフバルド侯爵邸へ送られてきたものです。無事に帰して欲しければ、大人しくしていろ、と」


殿下は、私からそれを受け取られました。表に裏にじっくり確認して、一言。


「・・・これは、私からリーザに渡したものだ」

「・・・左様ですか」


百分の一に賭けていた。万が一にも本物ではない方へ。

しかし、殿下本人が認めてしまわれた。やはり、リーゼロッテ様は誘拐されたのだ。色々な人間が見ていたにも関わらず、目を離さなかったにも関わらず、忽然と。


殿下は、首元に手を持っていかれ、そこにあるチェーンをいじっているようだった。


「良く知らせてくれた。ありがとう、チェブリアンヌ公爵令嬢」

「いいえ。手が足りなければ、私共の私兵もお貸ししましょう」


ですからどうか。どうか、と。


「シーガルを呼んでくれ」


そして、シーガルと呼ばれた方がいらして、殿下と少し話をした後部屋を出て行かれた。殿下は、まだあの女と一緒に居るようだ。まさか、噂は本当なの!?

驚愕した私に気付いたのか、殿下が笑っておっしゃった。


「情報収集は戦いの基本だよ?」と。


殿下、目が笑っていませんよ。まあ、私もあの女から情報収集することに文句はありませんけれど。

だって、殿下が私の所からあの女の所へ戻って来るとわかっただけで、目がキラキラして私に勝ち誇ったような笑みを向けてくるのですから。

言っておきますけれど、私の方が立場は上ですのよ?後悔なさらないことね。


そして、退出の挨拶をしてシーガル様を探す。

少し遠いけれど、廊下を颯爽と歩く後姿を発見した。行儀が悪いけれど、仕方がない。

私は覚悟を決めて叫ぶ。


「お待ちください、ストークス様っ!!」


ドレスの裾も走るのに邪魔だ!両手で持ち上げてあの後姿まで走る。

何人かのメイドが慌てて部屋から出てくるが、シルバーブロンドを振り乱して走る私が居るだけだ。申し訳ない!


駆け寄る私に慌てた王宮騎士がその行く手を遮ろうとするが、ストークス様はそれを手で抑えてくれた。良い人!


「あの、殿下にも申し上げましたが、もし、もし手が足りなければ、私共の、私兵も、お貸しいたします。」


走り慣れていないので、息が続かない。聞き取りにくい事この上ない。

しかし、私の気持ちは変わらない。


どうか、どうかリーゼロッテ様を無事に取り返してください!と。


その気持ちがわかったのか、厳しい顔をしていたストークス様が、笑っておっしゃってくだいました。


「貴女と私は同じですね。もし手が足りなければ、お借りすることもあるかと思います。ありがとうございます。」

「はい」


安心したのか、ふにゃりと顔が緩んだ気がしたが、直すことも出来なかった。

ああ、リーゼロッテ様、どうか、どうかご無事で。

ふふふ。フラグっぽいのが立ちましたね。

活動報告にて、2人のSSを載せるかもしれないです。

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