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4.リベンジ

5歳の誕生日に気絶して、体調が戻るまで数日。

その間に、私は新品のノートに前世の乙女ゲーで思い出せることを思い出せるだけ書いた。

時系列はぐちゃぐちゃだが、そこはご理解いただきたい。

攻略対象別に時系列で書いたりできるほど、記憶力に自信はないのだ。


…なので、処刑エンドまで行った次の行に、最初の方の共通イベントが書いてあったりする。

…うん、私しか見ないし、大丈夫だろう…きっと。。。

でも、一応のために、このノートの文字を読める人がいないかどうか確認しなければ!!


それから、私はノート片手にメイドさんはもちろん、下足番まで屋敷で働いている人たち全員+家族に特攻をかけた。


マリーもレイラも高い教養を持っているけれど、読めないようだった。

執事のルドルフは、色々辞書を探してきてくれたが、何一つ当てはまる言語がなかったと報告してくれた。

お父様とお母様は、教えた覚えのない言語を書く娘に不思議な顔をしたし、お兄様は字が綺麗だと褒めてくれた。

結局、誰一人読めないことが判明して一安心。


安心したところで、書いたノートをパラパラとめくる。

ゲームのスタートが16歳からだから、その前の経歴は攻略対象と親しくなることで判明するのだけれど、王太子は私との婚約のことをぼかしていた。

幼いころ…って、いつまでが幼いに入るのだろうか?

5歳は幼いと思うのだけれど、10歳でも幼いと思うのよね。


王宮に5歳児がちょこちょこお邪魔できるわけもなく、王太子と会うことはないのも問題だし。

この世界には、幼稚園とか小学校もないから、幼い子供が集められる機会もそうそうないし。


「どうかしたの?私の可愛いリーザ」


悩んでいる私のところに、お兄様が来てくれた。

私の可愛いリーザって、お兄様!!そんな素敵な笑顔で言われたら、30歳を超えている私だって恥ずかしくなると思うの!!

でも、記憶が戻る前の私は、普通に対応していたのよね。

リーゼロッテ、なんて恐ろしい子!!


「お兄様!!私の部屋にまでいらしてくださってありがとうございます!何でもないのです。」

「そうなの?何か深刻そうな顔をしていたけれど?私の目は誤魔化せないよ?」

「そ、そんなことはありませんわ!誤魔化すことなど…」

「リーザ?」


お兄様、笑顔が黒く見えるのは私の気のせいでしょうか?


「うぅ…。あの…大したことではないのです。私、王太子様とのご挨拶で倒れてしまったでしょう?それで、国王様にご挨拶もしていないし…」


よし!口から出まかせだけれど、しょんぼりした雰囲気を醸し出して誤魔化そう!

へにょっと眉を下げた情けない顔の私を見たお兄様が、しょうがないな…って顔をしています。

黒いオーラはなくなったけれど、誤魔化したのがわかってしまったでしょうか?


「…国王様には、またご挨拶をする機会があると思うよ。それに、王太子様も、気絶した子に文句を言うほど酷な方じゃないと思う。」


深く追求せずに、そうおっしゃってくれるお兄様が素敵すぎる事実!

お兄様、本当に10歳なのでしょうか?スペックが高すぎる気がするのですけど。

そんな私はお兄様の妥協に甘えておきましょう!

前世の記憶があって、この世界は乙女ゲーの世界なのです!なんて言っても信じてくれるわけもないし、頭のおかしい子なんて思われたくもないですからね。


「そうでしょうか…?」


それに、これも私の悩みの一つですしね!

お兄様になだめられていると、お父様に連れられたお医者様がいらっしゃいました。

診察をして、悪いところがなければ、もうベッドから出て良いみたいです。

この世界の診察は、聴診器とか当てないのですよ。

左右の手をお医者様のそれぞれの手が持つことによって、体をスキャンできるのだとか。

まあ、スキャンと言ってもレントゲンみたいなのではなく、血液の流れというか魔力の流れ…?的なものによるらしいです。

悪いところだと、血の流れも悪くなるのだとか。

医者の目が、人間の中身(臓器とか)が見えるものではなくて安心しましたよ。

私の両手をお医者様に取られて数秒。


「もう大丈夫でしょう」


お墨付きがもらえました!そりゃあね、倒れたと言っても体調不良ではないのですから、当然ですね。

お父様もお兄様も安心されたようです。

お医者様が退出されてから、お父様に国王様へのリベンジご挨拶の日にちを言われました。

ドレスも、先日のものとは違って新しいものを用意してくれたようです。


…でも、お父様。明日って急すぎないですか…?




次の日、リベンジご挨拶のために、再び王宮にやってきました。

今回は、国王様とすぐにご挨拶できました。


ゲームでは、王太子様と主人公との結婚式か、リーゼロッテの処刑の宣告でしか出てこない国王様は、姿が見えなかったのですよね。

声と、ゲーム画面に出てくるセリフのところに「国王」と書いてあるだけだったし。

それが何てことでしょう!!王太子様と同じ顔ですよ!成長させた王太子様に髭が生えてます!


初めて見た国王様は、お父様と同じ年にしては、体ががっちりしている気がします。

ちなみに、お父様はすらっとしています。細マッチョです。あ、でも国王様がマッチョってわけではないですよ。程よく引き締まっておられるのです。ダンディーという言葉がこれほど似合う大人はなかなかいないでしょう。


「先日は、大変申し訳ありませんでしたわ。せっかくお時間を割いていただいておりましたのに…」


と、殊勝な顔でご挨拶したところ、気にしなくて良いとのお言葉が…。

どうやら先日の国王様の緊急の案件は、夜通しかかったそうで、結局時間が取れなかっただろうとのこと。

逆に詫びられてしまいましたが、国王様が5歳児に謝るって傍から見たら超シュールじゃないですか?


「父上、アルフバルド侯爵令嬢が困っておられますよ」


アワアワしていると、王太子様が助け舟を出してくれました。

そうです、実は王太子様が同席されていたのです!!


「いやいや、アルフバルド侯爵令嬢は5歳にしてはしっかりしておるな。両親であるお前たちにそっくりだ」


はっはっはー。と豪快に笑ってくれますが、私は愛想笑いで良いですか?

どう答えるのが正解なのでしょう?


「それでは、国王様。ご挨拶もさせていただきましたし、娘も御前を失礼させていただきたいと思います。」


お父様の終了の合図に、やっと私は緊張を解きました。やっぱり、いくら優しそうな国王様でも、緊張していたようです。

部屋を出る前にもう一度国王様に向かって一礼します。…忘れなくて良かった。

うっかりそのまま部屋から出そうになったけれど、お父様がしていたので思い出しました。あっぶない!


部屋を出たところで、王太子様に呼び止められました。

一緒に出てきたみたいです?何で?


「王太子様、先日は御前で失礼いたしました。」


忘れないうちに謝っておきましょう。ぺこりと頭を下げると、王太子様も気にしないで、とおっしゃってくださいました。

ばれないようにしっかり顔を観察すると、笑顔だけれど笑ってない目が恐ろしいです。やはり、公式最強ドS。

こんなのに婚約を迫るなんて恐ろしすぎてどうしよう。


「少し歩きませんか?」


…聞き間違い…ですかね?

キョトンと王太子様の顔を眺めていると、手を取られました。


「王宮の庭はとても素敵なのですよ。案内させてください」


言いながら引っ張られていますが!!お父様!!ちょ!引き止めてくれないのですか!?


「あ、帰りはこちらから馬車を出します。アルフバルド侯爵は、お仕事に戻られて大丈夫ですよ」


お父様は、今日お仕事休みだから私と一緒に王宮に来たんですけど!!

こ、これは釘を刺したということでしょうか!?

私、この怖い人と2人きりって嫌なんですけれどおおおおおおお!!


「それでは王太子様。娘をよろしくお願い致しますね。娘は病み上がりですから、気を付けてください」


お父様も負けてません。でも、病み上がりだからこそ、一緒に帰って欲しいのですけど。。。

あ、ダメですか、そうですか。

見送ってくれるお父様を後目に、王太子様はずんずんと進んで行きます。

手を引っ張られているので、私もてくてく付いて行きます。


私たちとすれ違う官吏や、メイドさんたちが微笑ましげに見送ってくれるのは何なのでしょうか?

子供2人が手を繋いでいるからですか?

どれだけ上手く自分を隠しているのですかね、この王太子様は。


「さあ、ここです」


しばらく歩いてそう王太子様がおっしゃいました。

私、ここまでの道のり覚えてないんですが、これで王太子様に送ってもらわないと屋敷に帰れないってことですよね。置いて行かれないように気をつけねば!!


目の前に広がるのは一面の芝生。

そして、所々に色とりどりの花が咲いています。

噴水から出た水が、太陽の光を反射してキラキラしています。


「綺麗!」


その美しい景色に、語彙の少ない私はそう言うのが精いっぱいでした。

風が吹くと、花の匂いがここまで香ってきます。

主張しすぎない香りが品の良さを感じます。


「これをどうぞ。」


そう言って、王太子様は手折った花を髪に挿してくれました。

どんな花でしょうか?

一瞬すぎてわからなかったのですが。


「似合いますね。花の精のようですよ。」

「そんな…花の精に申し訳ありませんわ」


そう言ってから、てくてくと噴水まで歩いて、水に姿を映してみる。

ダリアのような大振りの花が髪を飾っています。

金の髪にピンクの花が可愛らしいアクセントになっています。

今日のドレスも薄いピンク色なので、合わせてくれたのですかね?


じーっと見ていると、王太子様がこちらに近付いて来たのが見えました。

うわー。めっちゃ笑顔!笑顔の破壊力半端ない!!キラキラしてるー。

この笑顔は眼福ですな、と思って見ていると、


「可愛いですね。」

「ええ、素敵な花をありがとうございます。」

「違いますよ。」


貴女が…ですよ。


…って、ちょっと!!王太子様!5歳児に見えないその流し目は何なのですか!

そんなこと教育されているわけないでしょうに!!どこでそのテク教わってきた!!


「…あ、ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですわ。」


リップサービスに違いないですからね!それにしても、この世界の5歳児は早熟すぎじゃないですか?ダメな大人の影響でも受けているのでしょうか?

まあ、そんな5歳児にワタワタするいい年の大人って…と、客観的に自分を見るとちょっとがっくり来ますが。


「ねえ、リーザ。」

「は、はい、王太子様」

「私のことは、ルーと呼んで欲しいな?」


あ、あざとい!!何だその可愛らしい首の傾げ方!

というか、私いつからリーザって呼ばれるようになったのでしょうか?

さっきまで、アルフバルド侯爵令嬢って呼ばれてましたよね!?


「…えぇと…でも…」


子供って、そんないきなり仲良しになるものだっけ?…と昔のことを思い返してみたけれど、昔過ぎて覚えてなかった私の記憶。

いい笑顔ですね、王太子様。

いつの間にか、両手を握られているのですけれど。

離してって言っていいのでしょうか?


「………………………ルー」


ぼそっと言ってみると、キラキラオーラの威力が上がりました!!何これ、怖い!限界が見えない!


「ねぇ、リーザ。また、王宮に遊びに来てくださいね。もし、来てくれなかったら、私が貴女のお屋敷にお邪魔しますよ!」

「ええ!!恐れ多いですわ!!」


嫌だ、どうしよう。どうしたら良いのかな?

屋敷に来られたら逃げ場がない!王宮に行く方が精神的には楽だけれど、そんな頻繁に遊びに行く暇がない。

こ、ここは嘘でも遊びに来ますとか言っておいた方が…


ちらっと王太子様を見ると、


「今だけ言って逃げるとか許しませんよ、リーザ。」


良い笑顔でおっしゃってくれます。

怖い!と恐怖に慄く私の脳裏に、ゲームの内容が思い出される。

そうだ!王太子様に婚約を迫らなければいけないんだった!

そう考えれば、これもゲームの流れ上、必要なことなのかも。


よし!ここはその話に乗ってやろうじゃないか!

5歳児になんて、負けないんだから!!

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