表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/52

オルフェイス・ラングストン

「あぶないっ!!」


いきなり背後から叫ぶように言われて、俺はその場に立ちすくむ。

あぶないと言われても、どうしたら良いのかわからない。

しゃがめば良いのか、逃げれば良いのか、このままか。

そこをちゃんと言ってくれないと!と思って後ろを振り向く


・・・前に俺の視線の先に何かが落ちた。


「?」


何だ?落ちたところを確認すると、氷柱である。

いやいやいや。おかしいだろ?空を確認すると、太陽が燦々と輝く晴天である。

しかも、今は夏だ。氷柱は冬の屋根の下に出来るはずだろう?

夏の今、こんな氷柱が屋根のない場所に落ちてくるなんて普通じゃ考えられない。

それくらいわかる!・・・ということは、これが魔法・・・か?

産まれて初めて見た魔法に俺はびっくりする。


「ごめんなさい!大丈夫だった?」


後ろから走ってきたのだろう。息を切らせてやってきた彼女を見て、俺は改めてびっくりした。

太陽の光を集めたような、くすみ一つない金の髪に、海の底を思わせるような碧色の瞳。ふっくらした頬はバラ色に上気し、唇はつやつやしている。


「・・・天、使・・・?」


俺の頭の中には、昔読んだ話の中に登場する天使が浮かんでいた。


「・・・?あの、大丈夫だった?」


天使がしゃべっている。羽はないけれど、そうか、こんなところで羽を出したままの天使なんているはずないか。


「大丈夫です、天使様」


そう答えると、天使様は変な顔をした。


「テンシサマ?私はテンシサマじゃないよ?リーゼロッテ。貴方は?」

「オルフェイス」


リーゼロッテ天使様の質問に答える俺。


「そう。オルフェイス、怪我はない?」


俺の上から下までを何回か確認して、リーゼロッテ天使様はそう聞いてくる。


「大丈夫です、天使様。俺の向こうに落ちたから。」

「いやいやいや。だから、私はテンシサマじゃなくて、リーゼロッテだよ」

「?わかってますよ?リーゼロッテ天使様」

「・・・」


無言になって、眉間にしわを寄せている天使様。どうしたんだろう?天使だってばれるといけないのかな?

そう考えていると、天使様の背後に居たお姉さんが、天使様に耳打ちしている。

お姉さんも天使なのかな?それにしては、お屋敷のメイドさんみたいな格好だけれど?不思議に思っていると、天使様が叫んだ。


「ええっ!!テンシサマって天使様ってこと!?」


そう言って、俺を見る。天使様の瞳に俺が映ってる。それだけで、頬が熱くなる。


「ふふっ。ありがとう。でも、私は天使様じゃないよ?貴方と同じ人間のリーゼロッテだよ。」


その言葉に、俺は呆然とする。人間・・・?こんな綺麗な人間なんて見たことない。


「人間のふり」

「じゃなくて、本当に人間!」


そう言って、俺の手を握って来る。


「ほら、触れるし、体温があるでしょ?」


そこで気付く。天使様って触れるんだっけ?と。

話の中で天使様に触るシーンなんてなかったと思うし、体温があるかどうかもわからない。だから、俺は混乱してしまった。

まあ、この人間だと言い張る天使様の話に乗っておこう。そう考えた。


「でも、魔法を使える人間なんて俺見たことないんだけど」


だから、やっぱり天使という意味を込めたのだけど


「?いっぱい居るよ?ねえ、マリー?」

「ええ、そうですね」


そう言われてしまった。


「ところで、さっき落ちてきた氷柱は何?」


ちょっと現実に戻って来た俺は、先ほどの氷柱について聞いてみる。

どうやら、普通の氷柱ではないようだ。溶けずにそのまま残っている。


「魔法の練習をしていたら、貴方がその先に居るのが見えて・・・」


なるほど。それで「あぶない」だったのか。


「触っても大丈夫?」


了承を得て氷柱に触る。冷たい!しかも、触っていても溶けない!


「これ、教会に持っていきたいな」


口からつい、そう漏れる。


「教会に?何で?」


不思議そうに聞かれたので答える。


「教会の横に孤児院があるんだけど、この暑さで子供が参っちゃって。この氷があれば少しは涼しいかなって」

「うーん。どうかな?」


しかし返ってきたのは煮え切らない答え。


「あのね。これは私の魔力で出来た氷柱なの。だから、しばらくは持つと思うのだけれど、どれだけで消えるかわからなくて」

だから、夏のシーズン中残っているかどうかわからないという。ぬか喜びさせても子供が可哀相だ、と。


「大丈夫!しばらくでも残っているときっと子供たちも喜ぶよ!」

だから、一緒に教会に来てくれないかな?そう聞くと、彼女は後ろの「マリー」に視線を向ける。


俺も、ダメかな?と伺っていると、しぶしぶ「夕食までですよ?」という答えが返ってきた。夕食まではまだまだある。だって、今はお昼を少し過ぎたくらいだ!


彼女の手を取って、こっちだよ!と走り出す。


「わぁっ!!」

「お嬢様っ!!」


走るのに慣れていないのか、転びそうになりながら付いてくる。

お嬢様という言葉に、偉い人の娘なのかと思ったが、手を離すことは出来なかった。

周りの子供とは違う白い綺麗な手を持つ天使様を離したくなかったなんて、内緒だ。




たどり着いた場所は、教会とは名ばかりのボロ小屋だった。

昔は荘厳だったのかもしれない石造りの壁は、長年の風雨にさらされて所々ひび割れし、教会の中に居るのに空が見えた。

その横の孤児院は、申し訳程度に屋根がかかった木造で、隣の教会に比べれば温かみはあるが、それだけだった。


リーゼロッテは、俺に教会のメンバーを呼んで来るように言い、マリーを通して、教会の修理と孤児院のリフォームを申し出た。

その時には、髪をフードに仕舞い、会話もマリーにしかしなかったから、俺はやはり天使なのかと疑ったが、どうやら身分がバレないようにという配慮かららしかった。

孤児院の子供たちは、木陰で遊んでいたが、リーゼロッテが出した氷柱は大人気でみんながそこに集まっていた。


「しかし、私たちにはお支払できるお金が・・・」


司祭の言葉に、俺は視線を子供たちから司祭に向ける。

彼は、30代という若い年齢で司祭となり、この教会を長年維持している。寄付金がそうそうないこの村では、子供たちの面倒を見るのも大変だろう。

そこに気付かなかった自分は、何て馬鹿なのだろう。ついつい、子供たちが喜ぶだろうと思って連れてきてしまったが、コイツらはもしかしたら無駄にお金を取る悪い奴らかもしれない。

天使の見た目に騙されたのかも・・・と不安になる俺の耳にマリーの言葉が聞こえた。


「いいえ、お代は結構です。我が主の魔法の練習に使わせていただきたいのです」

もちろん、上手くいかなければこちらで修理を承ります。


そう言い切るマリーの主は、一体どれくらいお金を持っているのだろう?

司祭は、不安そうにしながらもマリーの言葉を受け入れたようだ。

フードを被ったリーゼロッテが教会の中と外を確認していく。

コンコンとたまに壁をノックしていたが、うんと一つ大きく頷いて、マリーを呼ぶ。どうやら決まったようだ。

教会を作っていた花崗岩がとれる場所を聞いた彼女は、そこまで行き、教会の壁と同じ大きさの花崗岩ブロックを運んで来た。そして、教会の壁の横に土で階段を作ってブロックを上まで運び、ひび割れたり割れたりしていたブロックを交換する。空が見えていた天井穴はふさがれ、ひび割れていた床はひびが無くなり、立派な教会が出来上がった。

そして、孤児院は、同じ花崗岩で周りを覆い、教会と孤児院を繋ぐドアまで出来ていた。

大人が人力で何年もかけて作ったものを、魔法ではあっという間に、しかも一人の少女が作り、直したのだ。俺は、魔法に魅せられた。

作り終わった後、リーゼロッテはぐったりしてマリーに抱えられて帰って行ったが、子供たちは大喜びし、司祭やシスターたちは彼女たちが居なくなるまで頭を下げていた。司祭たちの目に涙が浮かんでいたのを俺は知っている。


だから、俺は魔法を勉強し始めた。町の図書館に行き、朝から夜まで本を調べ、運が良いことに魔法を使える平民に出会い、俺にも魔力があることがわかった。

将来、王宮魔導士になることを条件に、魔法について教わり、わからなければ調べた。そうして、俺は魔法博士とまで呼ばれるようになっていた。

全ては、もう一度彼女に会うために。


調べて行くうちに、不思議なことに気付いた。彼女はいくつ属性を持っていたのか?土、水、火、の3つは確定している。風という今までにない属性を使っていたこともわかっている。そして、あの魔力の量。10歳前後の子供にしては多すぎないか?

やはり彼女は天使だったのではないだろうか?

困っていた俺に手を差し伸べてくれた優しい天使様。そう結論付けて生きてきたのに!!


「ごきげんよう、皆様。リーゼロッテ・アルフバルドと申しますわ。仲良くしてくださいませね」


昔と変わらない太陽の光を集めたような金の髪に、海の底を思わせる碧色の瞳。頬はバラ色に染まり、唇は紅を塗らなくても赤く、柔らかそうな肢体。

昔出会った頃の面影を残しながら美しく成長した天使様。


しかし、彼女は公には3属性しか持っていないことになっている。隠しているのか?


「オルフェイス・ラングストンといいます。将来は、王宮魔導士になりたいです。」


そう言って、彼女を伺うが、特に気付く様子もない。俺は君を探していたのに、君は俺を覚えていないの?

心に黒い思いが溢れそうになる。


「ルーファス・ライアンベールです。よろしくお願いします。ああ、それと知らない人もいるかもしれないので、伝えておきますが、そこに居るアルフバルド侯爵令嬢は私の婚約者なので、誰も手を出さないように。」


その声が耳に届き、理解するまでしばらくかかった。婚約者?彼女が?王太子殿下の?


「へえー。そうなんだ!ごめんね。僕は貴族じゃないから知らなかったよ!気を付けるね」


周知の事実だと周りが言う言葉をぶった切る。彼女が王太子の婚約者?でも、そんなの関係ないよね?

だって、彼女のことを誰より良く理解してあげられるのは俺だから。

そのために今まで魔法を学んできた。

やっと出会えた俺の初恋。俺の大事な天使様。





 今 度 は 逃 が さ な い ― 。


ギャーどうしてこうなった!オルフェイス怖い。ルーファスより怖い。どうしよう。キャラクター全部こんなんかもしれない。あれー?ヤンデレ属性は無いはずなんですけど。

楽しくて突っ走ったらこんな子に!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ