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35.ルーファスサイド

気が付いたら、アルフバルド侯爵邸の前に立っていた。

夜遅くに訪問など、常識で考えればありえないが、非常事態だ。許してもらおう。


扉を開けてくれたのは、執事のルドルフだった。さすがに不満を顔に出すことはなかったが、迷惑オーラが隠せていない。

しかし、今の俺には気にしている余裕がない。そのまま、アルフバルド侯爵に目通りを願った。


通されたのは応接室。昨日もここに通されてリーザを待っていた。

たった一日で天国から地獄に落ちるとは思わなかったが・・・。


「こんな時間に何用ですかな?」


ノックをして入って来たこの邸の主は、不敬ともとれる発言をしてきた。


「わかっているのではないか?」


固くなる表情を隠しもせず、そう切り返す。


「リーザの・・・婚約破棄のことですか」


重い口調で本題に入る。

白々しい。破棄の契約書を持ってきたのはお前だろうに!

心の中で罵る。


今日は、アッシュフォン学園の入学式に出席し、クラスのメンバーと顔を会わせた。シーガルとリカルド、ユーディストは幼いころからの知り合いだし、リーザは婚約者だから、初顔合わせとなったのはオルフェイスと、エンダソンヌ子爵令嬢ということになる。


そう、俺は浮かれていた。これからは毎日同じクラスでリーザと会えるのだ、と。

幼い頃から学園に入学することはわかっていた。だから、卒業生である父上と母上に学園のことを聞いた。ただの興味だった・・・。しかし、学園のクラス分けが、「雷」、「光」、「闇」を持つか、属性を4つ以上持つ者がAクラス、それ以外はBクラスだと聞いた俺は、幼いながらにショックを受けた。

なぜなら、リーザは3属性しか持っておらず、「闇」も「光」も「雷」も持っていないからだ。

俺とはクラスが別になってしまうことが確実になり、俺は焦った。

権力乱用と言われても良い。とにかくリーザをAクラスに!と懇願した俺に、父上はあっさり了承してくれたのだ。

どうやら、父上も俺とリーザを離すと俺が勉強しないかもしれないと危惧したらしい。さすが親だ。良く分かっている。


入学式でリーザがAクラスであることに安堵した俺は、これから毎日同じクラスで授業が受けられるとのんきに喜んでいた。

放課後になり、リーザをアルフバルド侯爵家の馬車までエスコートしたときに、リーザが物思いにふけっているのは気付いていた。

声を掛けたけれど生返事で、初日から疲れたのかと思っていたが、王宮へ帰ると父上から信じられない報告を聞いた。


アルフバルド侯爵が、婚約破棄の契約書を持ってきた・・・と。


そして、俺はリーザとの婚約の際に、破棄できる契約書をアルフバルド侯爵が持っていることを聞いたのだ。

例えば、リーザが別に好きな人が出来た時・・・なんて言われた日には父上を呪ってやろうかと思った。何故そんな侯爵が喜ぶようなものを渡しておくのか、と!

しかし、それがなければリーザとの婚約はなかったと言われてしまえば、ぐうの音もでなかった。

契約書を持ってきたということは、リーザに別に好きな人が・・・?そう考えると居ても立っても居られず、アルフバルド侯爵邸へ馬を走らせたというわけだ。


「リーザに会わせていただきたい」


と、頼むと侯爵はすんなり案内してくれた。

いつもなら何とかして阻止してくる侯爵が、どうしたことかと不安になる。

まさか、本当にリーザは誰か別の人を・・・?


リーザの部屋の前で、リーザが学園から戻って来てから、夕食も取らず部屋に籠っていると聞いた。そして、一度は契約書を陛下に渡すように侯爵に伝言を頼んだものの、その後様子がおかしかったとマリーから聞いた、と。


リーザの部屋は明かりを絞られて薄暗かった。

ベッドが膨らんでいるところを見ると、既にベッドに入っているらしい。


「殿下、わかっているかと思いますが、未婚の女性の部屋ですから、理性を強く持ってくださいね」

いくら可愛くても、家の娘に手を出したら許さない!と副音声が言っている。


それに了承の意を込めて返事をし、リーザの居るであろうベッドに近付いた。

近くにあった椅子を引き寄せてリーザのベッドに寄せる。久々に見るリーザの寝顔は、眉間にしわが寄っていた。何か辛い夢でも見ているのだろうか・・・?

リーザのサラサラした金髪を撫でる。相変わらず指通りが良い。一房掬って唇に寄せ、キスを送る。


「リーザ・・・。俺との婚約を破棄したのはどうして・・・?」


つい口からポロッとこぼれてしまう問いに答えてくれるはずもなくて・・・。



「・・・すぐ・・・れる」


起きたのかとリーザを見るが、呼吸は一定で目も閉じたままだ。寝言・・・?

そう言えば、リーザの寝言なんて初めて聞く。どんな夢を見ているのだろうか?


リーザの口元に耳を寄せる。ポツポツと小さい声で断片的に語られるそれを聞き逃さないようにしていると、信じられない単語がいっぱい出てくる。


「悪役令嬢」「ヒロイン」「ルート」「処刑」「ゲーム」「婚約破棄」


いくつかわからない単語もあったが、不穏なのは「処刑」である。

どうやら、リーザは夢の中で謝っているようだ。「ルーファス」と「その恋人アイリッシュ」に―。


どういうことだ。俺の婚約者はリーザのはず!いや、今は破棄されたから違うとかそう言う問題じゃない!

なぜ、今日初めて会ったエンダソンヌ子爵令嬢と恋人など・・・?考えているうちに、リーザの呼吸が怪しくなっていることに気付く。過呼吸のように、ヒューヒューと苦しそうに魘されている。

いや、いやと首を横に振るたびに、額に滲んだ脂汗が痛々しい。


見ていられなくて、リーザを揺すって起こす。


「そんなの嫌あああああああああああああああああああああっ!!」


今まで聞いたことのないリーザの悲鳴に驚く。しかし、瞳が開いていることに安心した。どうやら夢から覚めたようだ。しかし、ほっと一息ついて、胸をなでおろしたのもつかの間。


「私・・・?死んだのではなかったの・・・?」


上半身を起こし、両手を見下ろしてそう呟く。

まさか、すでに殺された後だったか?夢の中に「ルーファス」が出て来ていたはずなのに、助けられなかった「ルーファス」が憎い。俺が居れば!そう思ってしまう。


ポタポタと声もなく涙を流すリーザを見て、その手が震えているのを見て、リーザの両手を俺の両手で包む。夢の中の「ルーファス」など知らない!俺がここに居る。リーザは俺が守る!と。


そして、リーザを腕の中に囲い込む。いつものリーザの匂いに少し混じった汗の匂い。胸に頬を摺り寄せて背中に回した手で俺の背をギュッと握り、ほぅ、と息を吐くリーザの何と可愛いことか!!

なかなか見せてくれない無防備なリーザを堪能していると、「わあ!!」と慌てて離れようとする。それが悔しくて、更にギュッと囲い込む。

逃がさない!逃がすものか!婚約破棄など破棄してやる!

このまま婚約破棄に同意などしてみろ!リーザはまたこうやって一人で泣く。

声すら出さずに一人ぼっちで。

傍に居ないとこの優しい綺麗な心は守れない!


このまま俺の腕の中で大事に大事に守りたい。一切汚れた部分は見せず、綺麗なモノだけを見せて、幸せそうに笑って居て欲しい。それは俺の自己満足で、リーザは嫌がるだろうけれど・・・。


さっさと既成事実を作ろうかと、侯爵に言われたことを記憶の彼方に吹っ飛ばしてリーザをベッドに横たえた。ベッドに広がる髪と、びっくりして見開いた瞳。深い口づけに慣れていない初心なリーザを追いつめて行く。首筋から鎖骨にかけてキスマークを付けるおまけ付きだ。一応クラスでは宣言したけれど、目に見えるものの方が確実だろう。

着ているのはナイトドレスで、脱がせるのは簡単だ。ほっそりしたふくらはぎから徐々に上にドレスを捲り上げて行く。しっとりと吸い付くような肌を満喫しつつ、手のひらを太ももから内腿へ滑らせる。

真っ赤な顔で抵抗も出来ず、口をパクパクしているリーザは食べてしまいたいくらい可愛い。

何だ、俺の理性を試しているのか・・・?据え膳食わぬは何とやら・・・。

一瞬このまま最後までしてしまおうかとも思ったが、ドアの外で待機している奴等に可愛いリーザの声を聞かせてやる必要もないだろう。

既成事実を作るかどうかの質問に、「今は育てられない」と答えたリーザは、俺との将来を考えてくれていると思って嬉しくなった。


「やっぱり俺にはリーザしかいないんだ。だから、婚約破棄しないで、俺の傍に居て欲しい。」


素直な気持ちをリーザに伝える。これが偽らない俺の気持ち。幼いころからの変わらない気持ち。ただ、リーザに傍に居て欲しい俺の我儘。どうか頷いて・・・。


「・・・私もルーの傍に居たい」


ポツリと漏らされたその言葉が俺をどれだけ幸せにしてくれるのか、リーザは知っているのだろうか。

しかし、これで、契約書など無くなり、破棄されるかもと怯える心配もなくなったわけだ。俺はリーザと幸せになるためなら何だってしよう。

そう気持ちを新たにしながら、リーザの柔らかい体の抱き心地を堪能したのだった。


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