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33.

「アルフバルド様、少しお時間よろしいですか?」


いつの間にか授業が終わって帰るところに声を掛けられました。

なるべく関わりたくはありませんが、返事はしないといけません。

私は、軽く息を吐いて振り返りました。


「ええ、何かしら?」


やはり、後ろに立っていたのはアイリッシュです。

もじもじとしていますが、一体何でしょう?


「せっ、先日お借りした、ハンカチのことなのですがっ。本当にありがとうございました!ぜひ、何かお礼をさせてください!!」


一気に捲し立てます。3歩も離れていないというのに、遠くの人に話しかけるかのような大きな声に眉を潜めたくなりますが我慢です。


「気にしないでくださいな。それに、先日洗って返してくださったじゃないですか?それで十分ですわ」

「いいえ!そういうわけにはまいりません。我が邸へお越しください。父もぜひと申しておりました。」


なぜ、この子はこんなに私を邸へ連れて行きたいのだろう?ふと、疑問に思いました。

それに彼女の父、エンダソンヌ子爵は、私とルーの婚約に不満を漏らした派閥に属していたはずです。

私とルーの婚約破棄をまだ諦めていないという話だろうか・・・?

もしそうなら、もう心配しなくて良いと伝えてもらおうか・・・?


学園に入学したあの日。私は、お父様に頼んで、婚約破棄の契約書を陛下へ渡してもらいました。

陛下はごねていたらしいけれど、ルーは了承してくれました。そのため、今の私とルーは、王子と臣下の関係に戻っているのです。


あの日、あの発言をしたことを後悔したけれど、今の状況を考えると、私は正しい選択をしたのかもしれないと思うようになりました。

だって、今、ルーは私ではなく、彼女-ヒロインであるアイリッシュ-に夢中になっていますから・・・。

婚約破棄をお願いした次の日から、徐々にではありますが、彼女と距離を近くしていき、今現在は彼女の騎士のように毎朝学園の校門で彼女を待ち、クラスまでエスコート。クラスでも彼女の隣に座り、仲睦まじく授業を受けています。誰かとペアを組む必要がある際は、必ず彼女と・・・。

そんな姿を常時見せつけられると、学園に行くことが苦痛になり、必要なはずの授業はひとつも耳に入ってこない。開き直って、2人の姿を眺めて楽しもうかと思ったけれど、感じるのは痛みだけで・・・。

学園を休もうかとも思いますが、休んでいる間に2人の仲が進展してしまうかもしれないと思うと、休むことも出来なくて・・・。


「私ったら、これじゃあ立派な悪役令嬢の考えじゃない」


そう呟いて自嘲めいた笑みを浮かべてしまいます。最近この笑い方ばかりしていて、いつか普通に笑えなくなるのではないかと心配になります。

お兄様は、そんな私を気遣ってくれるけれど、それも辛いです。私に出来ることと言えば、侯爵令嬢として他人に弱みを見せないこと。何とも思っていませんよ、という態度を取り続けることだけ・・・。


それがいけなかったのだろうか―?廊下を歩いていると、話声が聞こえました。まあ、廊下で話す人は多いから、聞こえることはいつものことなのですが、会話に私の名前が出ていたので、つい気になってしまいましたよ。

声を辿ると、ヒロインである彼女と数人の生徒が廊下の陰になる場所に集まっています。盛り上がっているのか、周りにも内容が一言一句全て聞こえています。


「貴女、このままいけばシンデレラガールよね」

「王太子様に見初められているんでしょう?」

「毎朝見せつけてくれるわよね」

「アルフバルド様も可哀相よね。貴女に王太子様を取られて」


私は、そういう風に思われているんだ・・・。客観的に見た現在の状況を冷静な部分で受け止めます。

まあ、ルーの態度を見ていればあからさまよねえ、と再び自嘲の笑み。


その時、話声がピタリと止んみました。どうやら、私がここに居ると気付かれたようです。

目を向けると、彼女たちは焦った顔をしています。そうですよね、一応私、侯爵令嬢ですもの。


見つめ合うことしばし・・・。


口火を切ったのはヒロインでした。


「あ、アルフバルド様!!今のはっ」


今更言い訳でしょうか?先ほどまでまんざらでもなさそうに笑っていたくせに…。これ以上何も聞きたくない。そう思って、私は彼女の話の途中に言葉を被せた。


「ごきげんよう、皆様。ずいぶんと大きなお声をお出しになっていらっしゃるのね。」


周りに聞こえていてよ。その一言で、彼女たちの顔は血の気が引いて真っ白になっていった。我が家を敵に回すと思ったのかもしれない。

でも、私には関係ない。あふれ出そうな感情に蓋をして、侯爵令嬢としての仮面を被り、何事もなかったかのように去ることにしました。


慌てた彼女たちが何かを言っていたけれど、私の耳には耳鳴りのような甲高い音だけが響いていました。



********************************


「リーザ、顔色が悪いようだが、大丈夫かい?」


そんなに心配されるほど顔色が悪いのかしら?まあ、最近はめっきり外にも出なくなりましたし、学園と家との往復のみですからね。顔色も悪くなるでしょう。

今日は、学園の前期最終日。明日からは長期休暇が始まります。今の辛い私には、しばらくの休暇は有難く感じます。

しかし、そう思っていたのも集会前まででした。集会が終われば帰れるはずですが、その終わりが近付いた時、ルーが檀上に上がって発言したのです。

―ここで、皆に聞いてもらいたいことがある―と。


私はぼんやりと思い出していました。ここで、婚約破棄され、その後の処刑ルートが始まるということを・・・。

ああ、お願いだから、家族に迷惑がかかりませんように。

真っ青になって、ガタガタ震える私は、事情を知らない人からは不審に見えていたでしょう。そして、ルーからは、大事なヒロインにしていた悪事がばれたと思い震えていると思われたでしょう…。分かっていても、震えは止まりません。


・・・ああ、やはりこういう結末になってしまったのね。私の今までは一体何だったのでしょう?後悔と諦めが混じった気持ちで私はその時を迎えた・・・。


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