32.
長くなりました。それでも良ければよろしくお願いします。
周りが騒がしくなり、ふと気が付くと、いつの間にか入学式が終わっていたようです。
これから、教室へ向かうということなのですが、気が重いです。なぜなら、私はAクラスだから・・・。
ヒロインと、攻略対象者たちも・・・Aクラスです。ええ、ゲームでそうでしたから、知っていました。そうしないと、リーゼロッテはヒロインを苛められないですからね!!
アッシュフォン学園のクラス分けは「雷」や「光」、「闇」を持つか、属性を4つ以上持つ者がAクラス、それ以外はBクラスというシンプルなモノ。だから、Aクラスに入るということは魔力が高く、それだけ優秀な人たちと過ごせるということなのです。
将来、Aクラスに居たという事実は、一種のステータスなのですよ!
私は、公には3属性ですのでBクラスなのですが、なぜかAクラスにいるという、ややこしい立場になっています。
きっと、権力でAクラスにねじ込んだと思われているのでしょう。しかし、全属性を持つということは、他の人よりも魔力の制御をしっかりしないと周りがあぶないということなので、そんなことには構っていられません。
両親と兄を巻き込むわけにはいきませんからね!
それに、ゲームでもそうでしたが、きっと私の前では陰口なんて言わないでしょう。心の中でどう思っていたとしても、侯爵令嬢にケンカを売るお馬鹿さんはいないはず!!
でも、ヒロインとの出会いイベントを経た今、ルーと一緒のクラスはちょっと・・・いやかなり、精神的にキツイ気がします。未だに身を隠す魔法も、死んだことにして逃げる魔法も見つかっていませんし、このまま悪役の道に進むと漏れなく殺されてしまうでしょう。ルーとヒロインのスチルを見る楽しみも、そんなに萌えなかったしどうしましょう。差し引きマイナスです。
ああでもない、こうでもない・・・と心の中では悩みながら、表面上は侯爵令嬢の仮面を被り続けます。学園にいる間に変なことはできません。ここは、貴族の戦いの場。何かあれば社交界にすぐ広まってしまいますからね。
話題提供はしませんよ!
・・・でも、先ほどの伝言を聞いたお父様が、陛下へ契約解除のお話を通せば問答無用で社交界に広まってしまうのでしょうね。そこは、お父様の能力の高さを信じましょう。私に不利なことはしない・・・はず。
さてさて。そんなことを考えている間に、どうやら担任の先生が・・・って!!
『お兄様っ!!』
私はうっかり侯爵令嬢にあるまじき大声を上げてしまいそうになりました!慌てて口を押えます。教卓にいるのは見間違えることもない、私の出かける時にはまだ邸に居た兄の姿が・・・。
ちょっと待って!このクラス、悪役令嬢とヒロインと攻略対象のみのはず!お兄様がここにいるということは、お兄様も攻略対象ですか!?そんな展開あったかしら!?
「先ほどの入学式でも紹介されましたが、私が皆さんの担任のユーディスト・アルフバルドです。」
お兄様が笑顔でそう仰っていますが、入学式で紹介された・・・でしょうか・・・?全く聞いていませんでした。
今の今までお兄様が教員免許を取ったなど知りませんでしたよ!・・・というか、ゲームでは違う先生だったと思うのですが、これもゲームとは違う点なのでしょうか・・・?
そこで、唐突に気付きました。私はまた、この世界をゲームの中だと思っているということに!
5歳のあの日、この世界はゲームではないかもしれないと思い、ルーを傷つけたことを悔やみ、私は私としてこの世界で生きていくと決めました。
それが、先ほどのスチルとイベント・・・いいえ、景色と新たな出会いに、うっかりまた元のような考え方になってしまっていたようです。
ヒロインとどうなるかわからないけれど、精一杯頑張ると決めたのに!!
思わず「さようなら」なんて心で呟いてしまいましたが、ただの逃げではないですか!!
どうしましょう。お父様に契約の破棄をお願いしてしまいました。
「では、次、アルフバルドさん」
名前を呼ばれた気がして、ふと顔を上げます。お兄様と目が会いました。
私を見ていますが、今何をしていたでしょうか・・・?
ぽかんとしていたのに気付いたのでしょう。
「アルフバルドさん、自己紹介をどうぞ?」
再度、お兄様が言ってくださいました。ああ、自己紹介をしていたのですね。
私は先ほどまでの考えを一時中断し、何事もなかったように侯爵令嬢としての微笑みを浮かべながら席を立ちます。
「ごきげんよう、皆様。リーゼロッテ・アルフバルドと申しますわ。仲良くしてくださいませね」
そう言って、着席する。
「はい、では次。ラングストンさん」
お兄様が続けて次を呼ぶ。どうやら、特に問題はなかったようだ。
「オルフェイス・ラングストンといいます。将来は、王宮魔導士になりたいです。」
そう言ったのは攻略対象である魔法博士、オルフェイスである。茶色の髪に同色の瞳。ふわふわとした髪と、垂れた瞳は彼を可愛らしく見せている。しかし、ゲームでは、仲良くならないと話すら出来ない。仲良くなったとしても、話すことは専ら魔法について。ヒロインの光の魔法が気になってしょうがないため、バッドエンドではヒロインを監禁し、研究と称して色々やるヤンデレ属性。
私はこのバッドエンド、見ることが出来ずにスキップしまくった。ヤンデレは大好物だが、描写が酷すぎた。スプラッタは好きじゃないのです!なので、コイツには近寄りません、怖いから!
「では次、エンダソンヌさん」
はい、と言って立ち上がったヒロインから目を逸らす。
ピンクのフワフワした髪は肩まであり、赤い瞳は光の加減でオレンジのラインが入っている。
「皆さま!ごきげんよう。アイリッシュ・エンダソンヌと申します!皆様と仲良くなれると嬉しいです。よろしくお願いしますっ!!」
可愛らしい声で一気に言い切った彼女は、頬をバラ色に染めてぎこちなく腰を下げる。ぎこちない礼は、彼女がマナーを練習中であるから。元平民のあいさつとは違うので日々苦労しているというテロップが入っていた気がする。
「では、最後にライアンベールさん」
そして、ルーの番・・・。あれ!?騎士、隣国の王子、私、魔法博士、ヒロイン、王太子・・・で終わり?神官がいないのだけれど。やはり少しずつゲームとは違うのかしら・・・?
「ルーファス・ライアンベールです。よろしくお願いします。ああ、それと知らない人もいるかもしれないので、伝えておきますが、そこに居るアルフバルド侯爵令嬢は私の婚約者なので、誰も手を出さないように。」
「おっと。それは聞き捨てならないですね。ライアンベールさん。ここは学園ですよ?もっと他の人と交流して、さっさとアルフバルドさんを解放してくれませんかね?」
「いいえ、先生。先生こそ、いい加減、私と彼女の仲を邪魔しないで、新しい出会いを見つけてください」
・・・なぜ、お兄様とルーが戦っているのでしょう?言葉は丁寧ですが、目が笑っていません。
「ルーファス、いくら何でも君とアルフバルド侯爵令嬢の婚約は貴族なら皆知っている」
「ええ、お似合いだと皆さん思っていらっしゃいますから、大丈夫ですよ」
ユーディストとシーガルがそう言ってなだめている。
「へえー。そうなんだ!ごめんね。僕は貴族じゃないから知らなかったよ!気を付けるね」
魔法博士オルフェイスの発言に「ほら」という顔をしてルーが2人を見る。
あ、あれ?普通に発言しちゃっていますけれど・・・?会ってすぐお友達判定ですか?
「はいはい、それくらいにしてください。では、自己紹介も終わったところで・・・」
お兄様が何か言っているけれど、私の頭は色々とこんがらがっていて最後まで聞こえていなかった。
だから、気付かなかったのだ。ヒロインが私をじっと見ていたことに・・・。