24.風魔法成功…?
「…リーザ、大丈夫?そんなに気になるなら、王太子殿下を引き止めれば良かったでしょう?」
ルーが帰った後も、しばらくぼんやりしていた私は、お母様に目の前で手を振られて、そんなことを言われてしまい、はっと我に返りました。
「い、いいえ!!お母様、そんなことはありませんわ!!帰っていただきたかったのですから、良いのです!!」
いけない!!本を読むはずだったのに、ルーが変なこと言うから!!
そう思い返すと、先ほどの光景がまた浮かんで来ます。
い、いけない!!しっかりしないと!!
「本当に?リーザったら、先ほどから顔が百面相しているわよ?
真っ赤になったり、眉根を寄せてみたり…。」
「何でもありませんわ。私図書館の本を読まなければなりませんの。
中庭に居りますわ!!」
これ以上ここにいたら、お母様に根掘り葉掘り聞かれてしまう可能性が高いので、私は言い逃げして一目散に中庭を目指しました。
私の後ろで「リーザったら、真っ赤になっていたわね。一体何があったのかしら?」というお母様の声が聞こえましたが、聞こえないふりです!
後ろを振り返らずに、目指せ中庭!!
「お嬢様、お待ちください。」
と、思ったのに、後ろにぴったりくっついてきたルドルフにそう言われて、私は「わあ!!」と、間抜けな声を上げて躓いてしまいました。
目の前には良く磨かれた床が!
これは、顔面強打コース一直性でしょうかね?
私は覚悟を決めてギュッと目を瞑り、衝撃に備えます。
「あれ…?」
いつまでたっても衝撃が襲ってこないので、私は恐る恐る目を開けました。
「あ、ありがとう、ルドルフ。」
「いいえ、後ろから声を掛けた私がいけなかったのです。こちらはいかがいたしましょう?」
そう言って、ルドルフが差し出してくれたのは図書館の本!!
お母様から逃げることで精一杯で、本の存在を忘れていましたわ。
「ルドルフ、申し訳ないのだけれど、中庭まで運んでくださる?」
「もちろんです。ですが、お一人では危ないですので、マリーかレイラを傍に置いてください。」
「いいえ、ダメよ。何が起こるか…何も起こらないかもしれないけれど、傍にいたら危険な目に合うかもしれないわ。」
「でしたら、私が…」
「だめよ、ルドルフ。貴方も巻き込まれるかもしれないでしょう?」
ね?
ダメ押しでルドルフに目線を合わせると、渋々ながら「わかりました」と許してくれました。
「お嬢様は、一度決められたことは決してまげませんからね。」
えー。そんなことないと思うのだけれど。
話していると、中庭に到着しました。
ルドルフから本を受け取って中庭の中央に進みます。
中庭と言って良いのかわからないくらい広い庭ですけれど、何かがあったときに被害を出すわけにはいきませんからね。
私は闇の魔法を使用して、私が結界と呼んでいるものを作りました。
結界は、好きな形にできますが、基本的には立方体です。
一人で使うときは専ら立方体ですよ。暑さも高さも広さも好きに変えられますからね。闇魔法を使うことによって、火と水の影響を吸収するはずなので、これで、中で何があっても外には影響はないはずです。
私は結界の中に入って座り、目と指を使って本を読み始めました。
「まず始めに光と闇が生まれた。次に水と火が生まれ、風が出来た。」
右手に火の魔法を集めて、左手に水の魔法を集めます。両手をそーっと近づけていくと両手の間から風が流れてきました。
「わあ!!風が!!」
喜んだのもつかの間、集中力が切れたのか両手の魔法が解けてしまいました。
残念。
…ですが、やはりこの本にこっそり書いてあることは、新しい魔法についてなのかもしれません。
この本を書いた人は誰なのかすごい気になります。なぜ、筆者名が書いてないのか!
そして、何年前のものなのでしょうか。
前のチートさんが書いたりしたものだったら有難いのですけれど。
と、そんなことを考えていたら、月が天頂に来ているではないですか!
いつも寝ている時間ですよ。
夕食が終わってからですから、4、5時間ほど外に居たということになってしまいます!
急いで結界を解いて、本を抱えて部屋に戻らなければ、メイドさんたちも寝られれません!!
「お嬢様。」
「!…マリー。」
結界を解いた途端に聞こえた声に、一瞬ビクリとしてしまったのは仕方がないと思います。気配もなく背後に立たないでいただきたい。
「本を持ちますわ。」
「ありがとう。」
「さ、風邪をひかないうちにお部屋に戻りましょう。」
「ええ。」
「この本は今日借りて来られたものですよね?」
「そうなの。ちょっと気になることがあって。でも、ぼんやりしていたから、まだ数ページしか読めていなくて…。」
「ぼんやり…。あの王太子殿下のせいですね。」
「ちょっと、マリー。ダメよ。「あの」とか「せい」とか言っては。」
「婚約した途端、お嬢さまに付きまとっているではありませんか!」
「付きまとって…って。王太子殿下の前だけではなく、あまり外でも言ってはだめよ。誰が聞いているかわからないし、マリーと離れることになったら寂しいわ。」
「お嬢様…。…わかりました。善処します。」
「善処って…。まあ、今日はもう疲れたから寝ましょう。」
「湯あみの準備は整っておりますわ。」
「ありがとう。では、早く入ってしまわないと、皆眠れないわね。」
そんな話をしながら部屋に戻り、冷えた体をお風呂で温めて髪を乾かしてもらい、ようやく私はベッドに入りました。
明日から少しずつでも調べて、いつか著者がわかると良いなあ。
そこまで考えて私は睡魔に負けました。ぐう。




