23.
「とてもおいしいですね、リーザ。」
「ええ。そう言っていただけると料理をつくってくれた方も喜びますわ。」
「リーザは、好き嫌いはないのですか?」
「ええ。そう言えば、あまり気にしたことはありませんでしたわ。
いつも美味しく料理してくださるおかげでしょうか?」
「確かに、この料理からもよくわかりますね。」
「まあまあ、リーザだけではなく、王太子殿下にもそう言っていただけると嬉しいですわ。ねえ、あなた。」
「そうだね、サーランド。」
「話の内容は置いておいて、なぜここに王太子殿下がいらっしゃるのですか、父上?」
「なぜだろうね、ユー。私は招待した覚えはないのだけれど。」
「母上はご存じですか?」
「さあ、どうかしらね?…でも、婚約者同士ですからね。仲が良いことは良いことだわ。」
「ありがとうございます、お義母様。お義兄様も…」
「まだ殿下の義兄になっておりませんので、ユーディストとお呼びください。」
「まあまあ、ユーったら。」
「いつもこのように楽しいのですか?お義父様。」
「王太子殿下。私のことはいつものようにお呼びください。」
「そうですか…。では、アルフバルド侯爵、食事の後、リーザの部屋で過ごしても良いですよね?」
「!!」
「ね?」
にっこり笑顔ですが、これはお願いではなく命令ですよね?
お父様の、「いつもの呼び方」発言にかこつけて、臣下扱いしても文句は言えないだろう?ってことですかね?
…ああ、お父様が呼び方を秤にかけているのがわかります。
義父と呼ばれたくないけれど、そう言うと、ルーが私の部屋で過ごすことを止められない、と。
仕方がないですね。さっさと帰ってもらいたかったのですが、このままでは部屋に来るまで帰らなさそうです。
「あのー。ルー?」
「何ですか、リーザ?」
「私、少ししたいことがありますので、部屋には戻りませんよ?」
「では、部屋は今度にしましょう。それで、どこへ?」
こんなに暗いのに…。と、外を見ながらルーが聞いてきます。
「秘密です。」
図書館から借りてきた本を読みたいのですが、どうなるかわかりませんし、危険な目に合わせるわけにもいきませんからね。
そう思って、唇の前に人差し指を立てる、所謂「しー」のポーズをしてみます。
はっ!!このポーズこの世界にあるのでしょうか?
ついつい癖でやってしまいましたが!!あわあわしている私を後目に、ルーは片手で目を覆って、上を見上げています。
なっ!!やっぱりこの世界にはなかったのか!?
しかし、ルーは何も言わず、ただ私に向かって
「わかりました。今日はこのまま帰ります。」
…お休みなさい、リーザ。また明日。
ルーは、そう言うと、私の額にチュッとお休みのキスをして、勝手知ったる我が家のように去って行きました。
「あらまあ、可愛らしいこと!!」
真っ先に我に返ったお母様が、そう言っていますが、私の耳には入ってきません。
「親の目の前で…!!」
「私の可愛いリーザのおでこに!!」
お父様もお兄様も座っている席から私のところへ駆けつける暇もなかったようで、悔しそうにしていましたが、私は気付けませんでした。
耳元に残る、私にしか聞こえていない言葉。
吐息のように耳元で囁かれた、小さな言葉。
その言葉が頭から離れなくて…。




