20.
「っこ、これは王太子殿下。ようこそいらっしゃいました。
ご連絡いただけましたら、お迎え致しましたのにっ…」
「いえいえ、お構いなく。今日の私は婚約者の付き添いですから。」
「っそ、そうですか!こちらが婚約者様ですか?」
私たちが図書館に着いたとき、案の定、入り口で歓迎されました。
いつもはカウンターの奥から出て来ない館長が、カウンターの外に出て来てルーに挨拶しています。
いつもは、私一人なのでこういうこともないのですけれど、やはり王宮の馬車が到着すると、こういうことになるのですね。
しかも、話の中で婚約者と紹介されてしまいましたよ。
これでは、次からここに来た時に同じような対応をされてしまうのでしょうか?
それにしても、もう少し待ってくれれば図書館内でしたのに。
おかげで、ルーに日傘を差してもらっている傍目には相合傘にしか見えない恥ずかしい状況で館長と話をしないといけないのですが。
まあ、そんなことはおくびにも出さずに挨拶しておきましょう。
「はい。リーゼロッテ・アルフバルドと申します。」
「おや?アルフバルド様…ですよね?」
「ええ、館長。私ですわ。」
「…リーザ?」
ああ、ルーが不思議そうな顔をしていますね。
「私、こちらに何度か足を運んでおりますの。
その時、何度か館長とお話させていただく機会もありましたのよ。」
「そうですか。」
「ああ、こんなところで長々とすみません。どうぞ、中へお入りください。」
「ありがとうございます。さあ、リーザ、行きましょう。」
「ええ。」
「では、私はこれで御前を失礼いたします。何か御用がありましたら、お呼びください。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
館長はそう言ってカウンターの奥に戻って行ったけれど、こちらを気にしている視線はビシビシと感じますよ。
他の司書さんたちもこちらを気にしているのが丸わかりです。
「さて、リーザ。どこに行きましょうか?」
「ルー、私、ここでしばらく調べ物をしたいので、ここまでで良いですよ?
待っているの大変でしょう?」
「いいえ。私もお付き合いしますよ?」
「え、でも…。」
「さあさあ、時間がもったいないでしょう?力仕事ならお手伝い出来ますから言ってくださいね。」
「え、ええ。」
こ、これは、ずっと横にいるってことでしょうか?それは、すごく困ります。
「あ、あの…」
「あら、王太子殿下ではありませんか。このような場所でどうなさったの?」
私がどうにかしてルーを傍から離そうと言葉を選んでいると、横から女の子がルーに話しかけてきました。
年は20歳くらいでしょうか?赤い髪とちょっと吊り上がった赤い瞳が印象的な美人さんです。
「ああ、シュリー。見ての通り、婚約者とデートですよ。」
「まあ、こんなところでデートだなんて…。そちらのお嬢様も残念なのではなくて?」
「いいえ?あの、どなたか存じ上げませんが、デートではありませんよ?」
「リーザ?」
「あら?そうなのですか?」
「いいえ、デートですよ!恥ずかしがらなくても良いのですよ、リーザ。」
「恥ずかしがってなどおりませんわ、ルー。
私、調べ物がありますので、失礼致しますね。ルーはこちらのお姉様とゆっくりお話なさっていてください。」
「え、リーザ!?」
「あ、そう言えば、ルー。」
「はい、何でしょう、リーザ?」
「図書館ではお静かに。」
これで、ルーはしばらく彼女と話をしていてくれるでしょう。
早く本を調べなければ。
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「図書館ではお静かに。」
そう言って、リーザは踵を返してスタスタと本棚の方に向かって行った。
一度もこちらを振り返らずに…。
しかも、なぜか冷たい目をしていたような…。
「あららー。怒らせちゃいましたかね?」
「煩い、黙れ。早くリーザを追いかけないと!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、王太子殿下。言葉が崩れていますよ。
その状態でお嬢様の前に戻るつもりですか?」
「元はと言えば、お前が声などかけてくるからでしょう!!」
「惜しい、もう少しですよ。それに、お嬢様も少し一人になりたいのではないでしょうか?」
「お前が、リーザのことを話すな!」
「まあまあまあ、落ち着いてくださいよ。それに、こちらの話もお嬢様には聞かせたくないものなので。」
「っ…。早く話せ。」