17.夜が明けて
話を聞いた私の家族と、ルーの家族が私とルーのいる部屋へ集まってきました。
「おい、どういうことだ、アレックス!!なぜ、うちのリーザがお前の息子と一緒のベッドで寝ているんだ!!あぁん?」
「お、落ち着けよ、シュナウザー!頼むから落ち着け!」
「まあまあまあ、婚約を披露した途端にこれですもの。王太子殿下もアレックスにそっくりね。」
「本当にねー。私も、もう少し様子を見なさいと言ったのだけれど、この子ったら自分でリーザちゃんを守る!なんて言い出して…。」
「まあ、その割にはリーザに守られたみたいだけどな!」
「お前にリーザと呼ばせる理由がないのだがな?アレックス」
「な!何で俺だけダメなんだ。ウチのルーと婚約したのだから、既に俺の娘と言っても過言では…」
「過言だ!」
お互いの両親の口喧嘩なのか、仲の良さなのかを見せつけられた私とルーは、ぽかんと一部始終を見ていることしかできませんでした。
お父様も、お母様も国王様も王妃様も…イメージが…。
まあ、部屋の中には外に漏らしそうな人はいないし、もともと仲が良いみたいだから、良いのかもしれないけれど…。
そう納得させていると、ひょいっと体を抱き上げられました。
「わあっ!!」
ポスンと、収まった先はお兄様の腕の中。ブランケットごと腕に抱えられたのだということに遅ればせながら気付きました。
「お兄様!」
「大丈夫だったかい?私の可愛いリーザ…。お前に、傷でも付いて居ようものなら、さっさと婚約を破棄してしまおうと思っていたのに…。」
「だ、大丈夫ですよ、お兄様。お布団はダメになりましたが…。」
「布団くらい!リーザの肌に傷がなくて良かったよ。」
「すみませんが、それくらいにしてもらえませんかね?お義兄様。」
「失礼ながら、王太子殿下。殿下に義兄と呼ばれる理由がまだありません。
リーザはまだ貴方と婚約しただけで、結婚したわけではありませんからね!」
「良し!良く言ったぞ、ユーディスト!」
「ぬう!!親子揃って結託しやがって!!ルー、負けるな!!」
「負けるなって…父上。子供じゃないんですから。
…さて、リーザ。」
手でコイコイと手招くので、お兄様の腕の中からなるべくルーの方に体を寄せると、ルーは内緒話をするように私の耳に手を当てて…
「いくら血の繋がりがあるからと言って、婚約者の前で他の男に抱かれるのはどうかと思うのですが?」
(ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!)
子供らしい笑顔と仕草に騙されました!何だこの5歳!怖い!!
思わずギュッとお兄様に抱き付いてしまいましたよ!
しかし、それがいけなかったのか、さらにルーの笑顔(恐怖)が深くなるのを見てしまいました。
これ以上は、私の精神力が持ちません。怖いですが、お兄様に降ろしてもらうことにしましょう。
降ろしてと頼むと、お兄様は額にチュッとしてくれました…って、お兄様!!逆・効・果・!
そのまま降ろされた私は怖くてルーの方を向けません。
い、今の見られたに違いないですよね…?私、明日まで生きていられますかね…?
先ほどの襲撃者と出会った以上の恐怖が私の心を占めています。
「………リーザ。」
意外と近くから声が聞こえて、ギギギギギギ…と音がしそうな感じで首を声の方に向けます。
ルーは、私の真後ろに居て、目があったと思ったら、いきなり寝間着の袖で額をごしごしされました。
「い、痛い!痛い!ルー!!」
「これくらい、痛くなんてないですよね?私の方が痛いんですから。」
ごしごしごしごし…。
手加減?何それ、美味しいの?と言わんばかりの力で額をこすり続けるルー。
無言です。
「痛い、…痛いってば!ルー!!」
「チュ」
あまりの痛さに涙まで出てくる始末。これ以上されたら血が出るんじゃないかという恐怖もあり、涙目になりながらルーを見上げると、額に何かが触れた感触が…。
ですが、ジンジンした痛みが上回ってよくわかりませんでした。
きっと、額は真っ赤になっているのでしょう。誰か鏡持ってないですかね?血は大丈夫でしょうか?
とりあえず、止めてくれたことに安心しました。
「貴女はそうやっていつも私に新しい感情をくれます。
それは幸せなことですが、先ほどのようなことはいくら血の繋がりのある人でもしてほしくありません。
だから上書きさせてください。」
「チュ」
「ちゅ」
「チュッ」
「ちゅっ」
・
・・・
・・・・・・
上書きというから、額だけだと思っていたら、鼻の頭や瞼、頬にまで!!
「る、ルー!!も、もう十分でしょう!?」
「…まだまだ足りませんよ…、リーザ…。」
そう言うと同時に、頬をルーの両手で挟まれて固定されたので、動くことができない…顔全体が熱い…意識が遠のく…
近づいてくるルーの綺麗な顔のドアップに耐えられなかった私の精神力は、そこでプツリと途切れた…。
「…ふふっ。可愛いリーザ。これで君は僕のもの…。」
契約書があったとしても逃がしはしないから…。
最後のルーファスのつぶやきは誰の耳にも入ることはなかった。
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「あらあらあら。」
「あら、まあ。」
「ちょっ、おい、離せ!!いくらなんでもやりすぎだろう!?」
「いやいやいや、可愛いものじゃないか。ようやくルーにも独占欲が出てきたんだなあ…。」
「おい!子供の成長を今感じるな!!」
「ちょっと、お母様!!離してください!!リーザが!」
「ユーも、邪魔をしてはいけないわ。あの2人は婚約したのよ?蹴られても良いの?」
「だからって、ちょっと早すぎだと思うんですけれど!!あ!リーザが!」
「まあ…。気を失ってしまったのかしら?リーザったら。」
「ルーも嬉しそうにリーザちゃんを抱えているから良いのではなくて?」
夜が明けたことを知らせる鐘が聞こえてくる中、薄ら明るくなっていく部屋には、気を失った私と、そんな私を抱えるルーと、それをニコニコと見ながら、息子を抑え込んでいる母親たちと、国王に抑え込まれている父親が居たようですが、私は昨夜からの寝不足が祟って次の日のお昼まで爆睡しました。




