14.一難去って…?
死・ん・だ・。
今の私の状態はその一言に尽きる。
この世界では…いや、前世でもテレビ番組の王宮特集とかでしか見たことのないような豪華なお風呂に押し込まれて、体中を隅々まで…それも、いくら体は子供だからって…と言いたいほど遠慮なく洗ってくれちゃったわけですよ、メイドさんたちは!!
最近やっと、本当にやっと、自分の屋敷のメイドさんたちに洗ってもらうのにも慣れてきたというのに、初対面の、それも前世の私よりも若い子たちに洗ってもらう日が来るなんて…。
それが彼女たちの仕事なのでしょうが、どうにも行き過ぎているような気がしたのは私だけでしょうか…?
全身ピカピカに磨き上げられた私は、やっとのことでお風呂から解放されました。
体力をごっそり奪われた気分です。
…私、お風呂は人目をきにせずゆっくり入りたい派です。(切実)
「さあ、リーザ。体が冷えるといけないですから、こちらにどうぞ。」
そうでした。これで終わりではなかったのでしたね。
これから、ルーの相手をしなければならないなんて…。
お風呂で失った私のHPを誰か回復してください!!
どうやら、ルーも着替えたのか、先ほどとは服装も髪型も違います。
頬が上気しているところを見ると、私とは違う場所でお風呂にでも入ったのでしょうか?
後は寝るだけといった格好です。
お風呂で力尽きていた私は、ルーに言われるままその場所に向かいます。
向かう先は、ドアの向こう。
この部屋、いくつもドアがあるのです。
ここはおそらくリビング的なものなのでしょう。そして、お風呂。最低でも2箇所はお風呂へ続くドアになっているはずです。
ホテルのスイートルーム…といった感じでしょうか?
まあ、前世ではテレビ番組で見た程度の知識しかありませんがね!!
ドアの向こうにはまた部屋がありました。でも、先ほどの部屋とは違って、部屋と部屋を繋ぐ廊下のようなものがありますよ…?
この部屋、一体いくつ部屋数があるのですか!?
思わず探検したくなるのをグッと堪えて、ルーと一緒に歩きます。
いくつも部屋を通り過ぎてやっと、
「ここです。」
ルーが止まり、ドアを開けて中を見せてくれました。
…
……
………?
ベッドルーム…ですかね?
広い部屋の中央にベッドがデンと鎮座しておりますよ。
…ってか、ベッドしかないんですけれど!!
「さあ、どうぞ。」
私がぽかんとしている間に、ルーが私の手を取ってベッドに向かって行きます。
「リーザは奥で良いですか?」
「え…?」
「あ、もしかして手前が良いですか?でも、すみません。リーザは奥に」
「あの…。あの、ちょっと待ってください!」
「? はい、どうかしました?」
「まさか、これに2人で寝るのですか?」
「ええ。…そうですよ…?」
「幾らなんでもそれはちょっと…」
「大丈夫ですよ。私たち2人が乗っても壊れたりしませんから。」
いやいやいや、そういうことじゃなくてですね!!
いくら大きいからといって、1つのベッドに子供2人で寝るとかありえないでしょう!?
「ほらほら、早く!」
ルーは、私が何からどう突っ込めば良いかと、ブルブル震えているのを冷えたと勘違いしたのか、私をベッドに押し込みます。
そして、自分もいそいそとベッドに入って来るではありませんか!!
「ふふっ。私は物心ついてから、誰かと一緒に寝るなんて、初めての体験です。」
ニコッと笑いながら言われると、仕方がないなーという気分になってしまいます。
まあ、相手は5歳。何かあるわけもありませんし、ベッドは大きくてルーとぶつかる心配もありませんし、ここはさっさと寝てしまうに限りますかね。
遠い目をして諦めた私が、ふとルーを見ると、ルーも私の方を向いていたらしく、目がバッチリと合ってしまいました!
私たちがベッドに入ったのを確認したメイドさんが、ランプの炎を消してくれました。
真っ暗な部屋の中は、先ほどまで明るかったせいか何も見えない真っ暗闇。
でも私は闇の属性を持っているので、目に力を集中させれば昼間と同程度には見えますよー。
「おやすみなさい、リーザ」
ルーがこちらを見て(まあ、ルーには私は見えないでしょうが)お休みの挨拶をしてくれました。
「おやすみなさい、ルー」
私もルーを見てお休みの挨拶をします。
はー。ベッドが気持ち良いです。疲れた体をふわりと包み込んでくれるようなクッションは、高級感満載です。
シーツにパリッと糊が効いているのも気持ち良さを増幅していますね。
これは、睡魔もすぐにやってきますね!
…瞳を閉じて眠りに落ちようと思うのですが、疲れた体に反して神経が高ぶっているのか、逆に目が冴えてきてしまいました。
ね…眠れない、だと!!
隣ではルーの規則正しい寝息が聞こえてきます。
焦る!いやいや、焦れば焦るほど眠れないって言うじゃないですか!
羊でも数えましょうかね?このまま眠れなかったらどうしましょう。
何度目かの寝返りを打ったときでした。
横でゴソゴソしている私に睡眠を邪魔されたのか、ルーが私に覆いかぶさってきました。
「…うるさい…。」
それだけ言うと、また規則正しい寝息が聞こえてきます。
…寝ぼけた…だけ…?
煩くしてごめんね。そう思って、体の上からルーを退けようとしたけれど、それがまた煩わしかったらしく、逆にギュッと抱きしめられて動きを封じられてしまいました。
ちょっと、ルー!!
驚いてルーの顔を見ると、やはり起きたわけではなく、目は閉じられたままです。
…まつ毛ながーい。
私とルーの身長は同じくらいなので、寝顔が良く見えます。
イケメンは眠っててもイケメンですね。羨ましい!
中々こんな機会もないですからね。じっくり鑑賞させてもらおうかな…。
…そう思って、ルーの寝顔をじっくり鑑賞しようとしたとき、ふと視界の端で何かがふわりと動いた気がしました。
まさか幽霊!?
そう言えば、この世界に幽霊なんて概念はあるのでしょうか?
思わず変なことが気になってしまいました。怖いですが、確かめねば!!
深呼吸をして、手のひらに爪を立てました。痛みで体の強ばりが少し和らいだ気がします。
きっと大丈夫。何かを見間違えただけ!!
そう自分の中で唱えながら、こっそり動いたものの方へ視線を向けます。
すると、先ほどまでいなかった男が立っていました。
物音なんてしなかった…まさか、本物!?焦りましたが、男には足がありました。
良かった!見てはいけないものかと…と、気を抜きかけた私ですが、良く考えれば、男も居てはいけないのです!
はっと男を見ると、男の手には、キラリと光るモノが!!
私たちに向かって振り上げられています!
誰が
何のために
どうして
そう思ったでしょうか?思う暇もなかった気がします。
兎に角、ルーを守らなければ!!それだけが頭の中に浮かびました。
片手で糊の効いたシーツをしっかり握り、もう片手で掛布団を掴み、ブワリと持ち上げつつ、ルーを庇うようにルーの上に体を乗せました!
火事場の馬鹿力というヤツでしょうか?ルーに拘束されていたはずですが、それをいつの間にか解いていたようです。
まさか、掛布団が攻撃してくるとは思わなかったのでしょう。驚いた男が飛び退ります。
その隙を見逃さず、私は、精一杯の大きな声で悲鳴を上げました!
「火事だああああああああああああああああああああああああっ!!」




