12.理由
しばらく更新が止まっておりまして、申し訳ありませんでした。親がウイルスにやられてしまいまして、仕事と家事で精一杯でした。
一応治ったようなので、今後は少しずつでも更新していきたいと思っております。
良ければ、もうしばらくお付き合いください。
ルーに手を取られて、てくてく歩く。
ダメだ。全然ダメ。逃げるための案なんて、一つも思いつかない。
ルーの足が止まるその時までに何か考えないと!と、焦れば焦るほど何も思いつかなかった。
こんな時こそ、フル回転して奇跡のような案を出すんだ!!働け脳みそ!!
「…さあ、着きましたよ、リーザ。どうぞ中へ。」
……お、終わった……。
絶望感しか感じないまま、部屋に入る。
「よく来たわね、リーゼロッテちゃん。待っていたわ。」
足を一歩部屋の中に入れた途端に、声がかけられる。部屋には既に人がいらっしゃいましたよ。
だ…れ、うおおおおおおおい!誰だ…じゃないよ、王妃様だよ!
私は思わず自分の脳に突っ込みを入れた。
茶色の髪は綺麗に編み込まれていて、一緒に編まれた白いユリのような生花が挿し色としてアクセントになっている。
臙脂のような深い赤みを帯びた瞳は、知性を感じさせ、その姿を見るだけで姿勢を正さなければならないような気になる。
国王様も美形だったけれど、王妃様に似てもルーは美形だったのだなあ…とのんきに観察してしまった。
「小さい頃には何度かサーラが王宮まで連れてきてくれたから、お顔を拝見出来ていたけれど、大きくなってからは初めましてですね。
聞いているかもしれないけれど、私は貴女のお母様とお友達をさせていただいている、カトリーヌ・ライアンベールですわ。
これからはルーの婚約者になるのだから、私のことも義母と呼んで頂戴ね。」
呆然としているうちに王妃様は呼び方まで指定してくださっていた。
「い…いいえ、とんでもございませんわ、王妃様。義母だなんて恐れ多くて、とても」
「まあ、何て事!!例え、ルーと結婚しなくても、サーラの娘なら私の娘も同然だというのに、この子は私を義母と呼んでくれないというの!?
悲しいわ!この可愛いくないことを言う口をどうしてしまおうかしら。」
く、食い気味でおっしゃいましたね、王妃様。
しかも、私の頬を抓みながらって…。
「義母と呼んでくれるまで離さないわよ。」
この、呼び方を強制する感じ…ルーとの血の繋がりを感じるわー。
公式の場ではお会いしたことはないけれど、こんな人だった…かな…?
ゲームでは国王様と一緒で、顔は出てこなかったんだよなー。
それなのに、なぜわかったのかというとイエソン先生の授業で叩き込まれたからです。勉強の成果が出ていますよ、イエソン先生!
「………(ルーの)おかあさま…」
「なあに?リーザちゃん!」
王妃様のことを呼ぶと、パッと指を離してくれました。
良かった。地味に痛かった。
「初めまして、リーゼロッテと申します。よろしくお願い致します。」
「こちらこそ、よろしくね。今日も、身内だけのつもりだったのだけれど…」
「ええ、ルーに聞きました。ほとんどの貴族が参加している、と。」
「そうなのよ。ごめんなさいね。本当はリーザちゃんを巻き込みたくはなかったのだけれど、そうも言っていられない状況になってきてしまったの。
私がこの部屋にリーザちゃんを連れてきてもらったのは、そのことを話すためなのよ。」
真剣な顔をして私を正面から見据えて王妃様は話を続けられました。
というのも、私とルーが婚約するという話がなぜか漏れたらしく(これは国王様も王妃様もルーも無関係だとか)、一部の貴族から文句が上がったということ。
そのほとんどは5歳未満で、まだ王宮に上がることが出来ない娘や孫を持つ貴族だということ。
つまり、自分たちの娘や孫が王宮に上がれば選ばれたのに!という権力大好き人間が、その娘(つまり私)を見てやろうじゃないか!となり、そんな貴族だけを王宮に呼ぶと将来に遺恨を残す…とのことで、じゃあ貴族全員を招待してしまえ!となり、これだけの参加者になったのだという。
私だって、チートじゃなければ選ばれなかったと思うのですよ。そのために、契約書もあることですしね。
そして、今日の私たちの役回りは、「幸せそう」で「邪魔出来ない」バカップルを演じることらしいです。
はい、無理いいいいいいいいい!
私、前世でもバカップルってバカだなーって思って見ているタイプだったので、どうしたらバカップルになるのか見当がつきませんよ。
ペアルックを着て、「ええ~、やだあ~、ルーってばあ~」とか言っておけば良いのですかね?
想像するだけで寒気がするのですが…。
「それでは、私は先に行っていますからね。」
鳥肌を立ててぶるぶる震えている私を、恐怖のせいだと考えたのか、王妃様が優しく私の体を撫でて、申し訳なさそうにおっしゃりながら会場へ向かわれました。
部屋に居るのは、私とルーの2人きり。
「…リーザ、すみません。こんなことに巻き込んでしまって…。
もし、何かあったら私が全力でリーザを守りますから。この手は離さないと約束してくださいね。」
ルーの申し訳なさそうな顔と、ぎゅっと握って来る手のひらに、私は改めて覚悟を決めた。
5歳の子供にそんなこと言わせて黙って守られている私じゃない!
こうなったら開き直ってやってやろうじゃないの!!
「大丈夫ですわ。私、頑張りますから」
ルーの瞳を見つめて言うと、ルーの瞳が大きく見開かれ、次の瞬間ふわりととても綺麗な笑顔を見せてくれた。
いつものキラキラや、怖い笑顔ではなく、柔らかそうな温かい笑顔だった。
「じゃあ、行きましょうか?」
そう言って、ルーは私の手をルーの腕に乗せた。
「こ、このまま会場まで行くつもりなの!?」
「え?」
「いえ、だから」
「ほら、リーザ笑って。幸せそうな笑顔を忘れないでくださいね。」
「…聞いてくれないんですね。」
私は笑顔を顔に貼り付けることに必死で、会場までどう歩いたのか全く記憶になかった。またしても、これでルーに送ってもらわないと屋敷に帰れないってことですよね…。
「じゃあ、行きましょう。」
扉の前に立っていた騎士さんが、恭しく観音開きの扉を開けてくれました。
少しずつ開いていく扉の向こうは、既に夕方とは思えないほどまばゆい光で溢れていました。




