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11.とうとうその日がやって来た

「さあ、お嬢様!背筋を伸ばして、相手に体を預けてください!」

「はい!」

「そこは、指先まできちんと伸ばして!」

「はい!」

「姿勢が崩れていますよ!伸ばして!辛そうな顔をしない!」

「はい!」

「では、次の曲を踊り切れたら休憩に致しましょう。」

「…はい!」



イエソン先生は熱血でした。

婚約披露の場で踊るダンスということで、ドレスを綺麗に見せるためにクルクル回るダンスなのだけれど、回りすぎて目が回る。三半規管を鍛えなければいけないようです…。


先生からOKが出たので、へとへとになって隅に避けてある椅子に座ると、マリーがお茶を用意してくれた。


「ありがとう、マリー」

「今日は、少し爽やかな香りの物を用意しました。」

「本当!…ミントかしら…?」

「ええ、そうですわ。最後に少し香る程度ですが流石ですわ、お嬢様。」

「さすが、私の可愛いリーザだね。」

「お兄様だって、わかっておられたのでしょう?」


いやいや…。

そう言って謙遜されるお兄様は、今日は私とダンスの練習をしてくださっている。

お兄様のリードが完璧なので、私の下手さが目立って恥ずかしい。そう言ったら


「誰でも最初から上手く踊れるわけじゃないし、私は可愛いリーザの初めてをもらえたから嬉しいけれどね。」


お兄様あああああああああああ!!言い方!!違う意味に聞こえるからあああああああ!!


何と言って良いのかわからなくて、下を向く。顔はきっと真っ赤に違いない。10歳の子供に言い返せないなんて…。

皆はそれも兄妹の仲が良い様にしか見えないのか、誰も注意しない。だから、お兄様のセリフのおかしさに拍車がかかっているに違いない!

このままいったら、お兄様は将来、いつも背中に気を付けなればいけない大人になるかもしれない…。


「さあ、休憩は終わりにしましょう!披露の場まで後1週間ですよ!それまでに完璧に仕上げて、お嬢様の可愛さと能力の高さを皆様に見せつけて差し上げましょう!!」


…先生。目的が変わってます。



それから、1週間が経ち、とうとう披露の場当日になりました。

緊張しているのか、朝から気持ちが悪いです。

今日さえ乗り切れば、何とかなる!後は、学校が始まるまで大人しく家に籠り、将来のために勉強していれば良いはずだ!!

そんな私とは裏腹に、家族とメイドさんたちは私を着飾らせるのに必死です。


「そんなに頑張ってもそうそう変化しないと思いますわ。」


そう言ったら


「そんなことない!」

「そんなことないわ!」

「そんなことないですわ!」


と、前後左右から言われました。はい、すみません!


今日は、婚約披露の場ということで、白いドレスになりました。肌の色が白いからか、全身真っ白に見えます。

大丈夫でしょうか?存在認識されないのでは…?

髪をサイドアップにしてもらい、ドレスと共布の髪飾りを付けてもらいました。後ろはそのまま流してあります。

白いドレスは、パニエのようにレースを重ねてあり、レース毎に違う刺繍が可愛いです。

ドレスの可愛さでしばらく緊張を忘れられましたが、王宮からのお迎え馬車が来た途端に再び襲って来ます。行くまでは家族が居るから良いけれど、会場に着いたら注目の的になるに決まっていますからね!

前世庶民で、皆と同じことが大好きな日本人だった私は、基本的に人から注目されることに慣れていないのだ。


気分は処刑台に向かう死刑囚である。いや、なったことはないけれど。


馬車が止まり、ドアが開かれる。馬車の外から手を差し出されて、お兄様かお父様の手だと思って無意識に握った私は、手の持ち主がルーであることにびっくりした。


「待ちきれなくて、迎えに来てしまいました!」


おおう!見たことないくらいのキラキラ笑顔です。眩しいです。サングラスをください。


「まだもう少し時間がありますから、私の部屋へ行きましょう。」

「…は、…い。」


緊張しすぎたのか、声が出ません。とりあえず、頷いておきました。

私の緊張がわかったのか、ルーは手をギュッと握ってくれました。


「大丈夫ですよ、私が傍にいますからね。この手は絶対に離しませんよ!」


ダメですね。5歳児に励まされていては!ここは覚悟を決めて行きましょう!


「はい。」


上手く笑えていれば良いのですが。

気合を入れるために、ルーの手をぐっと握りました。

そして、ルーに引っ張られて歩き出したのですが、家族がついてきません。

不思議に思って後ろを振り向くと、両親とお兄様が王宮のメイドさんに連れられて別の方向へ歩いて行くのが見えました。


「あ、あれ…?ルー?」

「?ああ、私たちは主役ですからね。後から登場するのですよ。皆様には、先に席に着いていていただくのです。」

「そうなのですか。それで、今日は何人くらいいらっしゃっているのでしょう?」

「正確にはわかりませんが、おそらくこの国の貴族はほとんど参加しているでしょうね。」

「ほ、ほとんど!!お、王妃様は『ささやか』と…」

「ええ。そのはずだったのですが、どこから話が漏れたのか、次から次へと参加者が増えまして。」


う、嘘だーっ!!絶っ対、嘘!漏れたわけじゃなく、漏らしたんですよね!!さすが、この子供を産んだ両親様ですね!!

騙されたーっ!!国内の貴族のほとんどってことは、それはもう撤回出来ないじゃないですか!?

あの契約書の意味が無くなってしまう!


私はこの後の披露の場をどのようにやり過ごそうか、解決策を必死に模索していた。


そのため、私の様子を観察しているルーの口元に笑みが浮かんでいるのに気が付かなかった。

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