1.プロローグ
「きゃあああああっ!どうなさったのですか、お嬢様っ!!」
『あ、やばっ』
メイド服を可憐に着こなしたレイラの悲鳴を聞いて、私は見つかってしまったことに心の中で悪態をついた。
そして、レイラの悲鳴が屋敷中に聞こえてしまったようで、屋敷で働いているほぼ全ての人たちが集まって来るのが見えてしまった。
『さっさと逃げればよかった……。』
朝も早いのに、皆顔が怖い。そりゃ、そうか。
この時間に悲鳴をあげる理由なんて、あまりないはず。
だって、まだ夜が明けてからそんなに時間が経ってないし。
しかも、「お嬢様関連」だし。
本来なら、お嬢様である私はまだこの時間ベッドに入っていて、私付きのメイドさんが起こしに来るのを待っているはずだもんね。
「お嬢様が何っ?今度は何をなさったのっ!?」
こちらに駆け寄ってくるマリーがレイラに向かって叫んでいる。
マリーも私付きのメイドさんだ。
最近は、特に振り回し過ぎたからか、私のことになると顔が変わるようになってしまった。なんだか申し訳ない。
「お嬢様がびしょ濡れなのです!!」
「!!本当だわ。急がないと風邪をひかれてしまうっ!」
私がぼんやり二人が話をしているのを眺めている間に、マリーはタオルで私を包んでくれた。
『……って、そのタオル何処から出したの!?』
そう突っ込みたかったけれど、お日様の匂いのするフカフカのタオルには勝てなかった。心ゆくまでモフモフする。
「こんな時間に何をしていたのですか?」
こんなにびしょ濡れになって…
タオルに包まれてモフモフしている私に、マリーが聞いてくる。
「いや、ちょっと失敗しちゃって…。」
そう言う私に、マリーは大げさにため息をつく。
その頃には、レイラもタオルで私の濡れた髪を拭いてくれている。
私が失敗しただけだと聞いて、集まった皆から安堵のため息が漏れる。そして、これ以上深刻になりそうにないと判断したのか、マリーとレイラを除いて、皆は持ち場に戻って行った。
『やっぱり慣れないなあ』
それを見るともなしに見ていた私は、空を見上げた。