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Episode 3

目論み通り、希望は叶った。

私は調査表に記した通りに“竜騎兵”を専攻する事に成った。




そして、学科専用の教室へと其々移動とに成り、私も他の生徒同様に配置先へ移動する。

其処で目にしたのは調査表提出日の教師が「閑古鳥」と言わしめる理由がよく解った。





「誰も居ない……」




「折角選んでくれたのにゴメンねー……こんな状態で」


例の男性教師は、あははと苦笑い気味に歓迎するが、私としては好都合だった。

雑音が何も居ない―――その事実だけで十分だった。担当の教師としては甚だ不本意な現状であろうが。



無論、私も「静かで良いですね、此処は」なんて皮肉を言えるほど無神経では無い。

だが、あの教師は「君の注文通りだね」なんてニコニコしている。この程度ではへこたれないのは、流石だ。





「んー……知ってると思うけど、一応自己紹介をしておくね。僕がこの学科を受け持っている“バスティアン=ハーティング”だよ。“バスティ”って呼んで良いから――――これから、宜しくね」



実際今の今まで認識していなかったが、当然「スミマセン。知りませんでした」とはおくびにも出さない。

教師―――バスティの笑顔で差し出された右手を素知らぬ顔で握った。




「フィリーネです」


ちなみに家名は省略したのではなく、本当に無い。


この国では、ある程度の地位に無いと家名は付いていなかった。

海を越えた外国には全ての民に家名を与え、しっかりと管理している国家も在るそうだが――――まあ、無い物強請りをしても仕方が無いし、私個人としては特に気になるモノでも無い。

もし、名前が重複した場合、庶民の間では「○○の△△」みたいに「地名や職業又はその者の特徴+名前」で呼ぶのが常だ。家名が無いからと言って困る事も無い。

若しかしたら、その辺も良家の子息子女達に優越感を与える要因の一つかもしれないが、それは今どうでも良い話だ。




「ホント、今年、新入生が入らなかったらって思うとゾッとするよ。幾ら伝統が在るって言っても、今じゃ唯のお荷物学科だからね」



曰く、嘗ては伝説の“龍殺し”と呼ばれる騎士を輩出した事があるらしい。

栄えある実力者云々は良いとするが――――“竜騎兵”が“龍殺し”とは何か拙い様な気がするのは、私だけなのだろうか。





「取り敢えず、龍舎に案内するよ。……一寸校舎から離れるけど、チャンと付いて来てね」



案内の最中、余程加入者が嬉しいのか、バスティは色々と饒舌に語ってくる。



竜騎兵は凄腕を輩出していた時期にも、元々担い手が少なかった。

ヒトに言わせれば、龍は大変に気難しく、自分が認めた者で無いと中々反りが合わない。それは、相手がひよっこの訓練と認識していても、事態は変わらなかったらしい。

故に隆盛を誇った絶頂期でも弱小学科だった。例え希望者が殺到しても毎年龍の御眼鏡に適うのは僅かしか居らず、篩い落とされた結果、数える程の少数の人員しか確保出来なかったのだと言う。



余談として語ってくれたが、件の有名人“龍殺し”はかなりの龍好きだったらしく、成績も学院の首席だったらしい。

卒業後の就職先―――軍務で仕方なく、彼は敵対した龍を泣く泣く殺害した。

本人は生前その二つ名を呼ばれると途端に不機嫌になるか哀しみを顔に浮かべていたと言う逸話がある位だから、多分本当の話だろう。



しかし、現実では“龍殺し”は英雄譚の一つとして語り継がれる武勇伝の一つだ。

周囲は褒めているつもりかもしれないが、本人としては性質の悪い嫌がらせにしか聞こえないだろう。






そんな話を聞きながら、龍舎へと到着する。

私は相槌とか打たないから、てっきり話は途中で尽きてしまうと思っていたが、結局彼は1人で目的地到着まで語り尽くしてしまった。







―――――ヒトの気配がする?



「お久しぶりですね、王女殿下」

気さくで気軽そうなバスティと言う思わぬ所から飛び出た敬語に、目の前に居た2人組―――水色髪と赤髪の少女は其々此方を振り向いた。



何処と無く片方―――水色髪の少女は纏う雰囲気が他とは違う。

絶対に私には持ち得ないこの雰囲気はどう表現して良いのかはよく解らないが、これが高貴な身の上が持つモノか。



「……敬語は止して下さい。此処では、私は単なる卒業生。……あの時の様に“ナタリー”と。今も昔も単なる貴方の教え子でしかないのですから」

これからも陛下の勅令通りにお願いしますね、と言いつつ、王女と呼ばれた本人であろう水色髪の少女―――ナタリーは恩師に深々と会釈をする。




少し不思議な感じがした。


その原因は、先のバスティの言葉を額面通りに受け取った「不人気」も一つだが、何よりまず感じたのは「何故王族がこの学科なのか」と言う点。


王族は君臨を義務付けられた者であり、上に立つと言う事はそれなりに万能且つ有能でなければならないと容易に考えられる。

故に、教養は多方面に磨かねばならないと考え付く中、数ある学科から態々幅の狭いこの科を選ぶ理由が見当たらないと言うのが私の結論だ。



――――御伽噺に出る龍を操る騎士が格好良いとか、憧れ的なモノか。所謂“個人的な趣味”の範疇と言うモノなのだろうか。


所詮は推理の域だが、もしそれが推理通りなら相当酔狂なヒトだと思った。




「ゴメンね。御付きのヒトが居るから、僕が勝手に公務かと勘違いしちゃったよ」

先の恭しい態度は何処へ行ったのか、結局バスティは気軽に笑う。





「いえ、違います。私の友人であるこの方に私の母校を案内したいと思っただけですから」




「フラム=ヘカートです」

軽く会釈をする片割れ―――赤髪の少女に対し、少しだけ違和感を覚えた。



何処か窮屈そうに感じるその態度。何処か名前慣れしていないかの様に感じるその名称。

何故そう感じるかよく解らないが、私の前世譲りの直感がこの少女を脅威だと警戒させる。




「こっちもこの子を紹介するね。………前の子が卒業して以来、久しぶりに来た我が科の学生さんだよ」


ブランク有るけど今年も1人だから、とバスティは呑気に笑っている。

懸案事項を笑い飛ばす辺り、彼は大物なのだろうか。




「フィリーネです」

取り敢えず、粗相がない様に丁寧に挨拶をする。

ナタリー、フラム、バスティの3名に比べて表情が硬いのは許して欲しいが。


ナタリーは特に何事も無かったが、私が姓を名乗らなかった事にフラムが僅かに反応した辺り、彼女はこの国出身では無いと思われる。

若しかしたら、海を隔てた他国出身者なのかもしれない。王女の友人だからそれも有り得る話だろう。





「ナタリー。君が此処に来たって事は彼に逢いに来た、と言う事で合ってるのかな?」




「はい。今の私はルグリスタを預かる身ですので、あの頃の様に彼と自由気ままに空を駆ける事は叶いません。……ですから、友人の案内と言う最もそうな理由を付けて逢いに来たのが偽りなき本心かもしれませんね」


ナタリーは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「勿論、友人の案内も本心ですよ」とは言っているが、多分前者の気持ちの方が強いだろう。



預かる身、と言う事は領主をしていると言う事か。

彼、とは学生時代に共に過ごした相棒パートナーの事だろうが、その御身分で竜騎士として共に空を駆けるなんて無茶は周りが許さないし、聡明であれば自重する。

本人や彼女の父である国王の口から王籍離脱を宣言すると言う手段も有る事には有るが、確か記憶違いでなければ彼女は第2王位継承者。余程の事が無い限りは周りも止めるだろう。


今の所は特に変な性格とは思えない。

為政者側の地位を無闇に投げ出す無責任さは見受けられず、それでは昔の再現を常時行う事は無理な相談だろうと思った。




「成程ね。……あ、そうだ。僕達もこれから彼等に挨拶しに行く所だけど、君達と一緒になっちゃうね。それでも良いかな?」




「構いません。不確定要素イレギュラーなのは私達です。……それに、私は貴方の教え子ですから、そんな気を使わないで下さい」


もっと気さくにとナタリーは強調する。

個人的には、充分バスティの態度は砕けていると思うが――――違うのだろうか。






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