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Episode 2

入学後、大体3ヶ月位経った所で進路希望調査なるモノが行われた。



勿論、それは行き成り将来の就職希望を表すモノでは無い。

今現在、己が不相応に夢見る甘い将来を現実に手繰り寄せる布石とうしの第一歩―――専門分野を伸ばす為の学科を決める為のモノだ。



私は少し困った。

学院ここに来る破目になったのは、周囲の勧め以外に理由は無く、私自身が何かを成したいと言う想い自体が無い。

直感的な勢いに身を委ねようとも、一応各学科の簡単な補足説明が記載しているが、特に私の心に響くモノはない。

だが、基本方針としてこの希望調査の返答を出さなければ次の段階へは進む事は無いのだ。



しかし、書くに書けない現実。

他の生徒は多少考える素振りはするものの、予め将来ゆめは決まっている事だから行動が早い。次々に書類は提出され、退出した最後に私がポツリと独り教室に取り残された。





「………君は一体、何をそんなに悩んでいるんだい?」

痺れを切らしたのか、書類回収を受け持つ男性教師――――名前は思い出せない――――が私に優しげな声音で問う。



若しかしたら、私の行動が不思議で仕方が無いのだろうか。


この校内で地図上の位置すら正確に把握出来ている者が居ないであろう僻地からの入学希望者。

そして、才に恵まれているとの情報は教師陣の殆どが知っており、“成り上がり”への一発逆転の手札は揃っている。

何より、選ぶ道には他者より障害が少ない為、何をそんなに悩むのだろうかと思われているのかもしれない。



「僕で良ければ、相談に乗るよ?」


目を合わせればニコニコと微笑む男性教師。

ふと、何か久しぶり邪気や裏表の無い純粋な笑みに出会った気がする―――と少しだけ感慨深い想いに駆られてしまう。



―――――しかし、どうしたものか。


仕方が無いから、取り敢えずざっくりとした方針を伝えてみようと思った。



「あまり他人と関わる事の無い科って存在しますか?」


案の定、彼の笑顔が強張った。

想定外の質問だったのだろう。冷静に考えれば呆れ果てる内容だが、驚きでそのまま固まっている。



顎に手を当てて暫しの熟考―――。




「んー……どうだろうね。ヒトが社会を営むにあたって、他人と関わる事が無い事なんて、まず有り得ないと思うよ」


それはそうだ。

質問しておいた手前だが、世捨て人や集落から隔離された仙人の様な生活を送るなら兎も角、ヒトが社会に身を置くと言う事は、そう言う事だ。



「それに、君みたいな成績上位者が注目されない訳が―――――………」


言葉の途中でふと、何かを思い付いた様に固まった。

「いや、待てよ」なんて小さな声で呟き、その教師は何やら思案する素振りを見せる。



「此処で僕がこんな話を持ち出すのは……んー……一寸、公平フェアじゃないかなぁ…」



―――――どういう意味だ?


同時に苦笑いを顔に浮かべる男性教師。

全く察しがつかない。



「………?」

暫く回答を待つ事を決めると、何故か男性教師はそのままうんうんと悩む様に唸り始める。



余程、拙い事でも在るのだろうか。

よく解らない事態だが、私に代案は無い為、取り敢えずジックリと見守る事に決めた。


















「………あ、ゴメン。待たせちゃったね」


質問したのは此方だ。

何を答え難いのかはよく解らないが、待たせているのは私の所為。


一向に気に成らないから、「いえ」と言葉を返せば再び「すまないね」と謝罪をする低姿勢ぶり。

そんな堂々巡りは良いから、早く次に行って貰いたいモノだ。



「うー…ん。君の希望とピッタリ一致するのかは一寸判断に困ったけど……ヒト以外の相棒パートナーと組んで学ぶ科だったら、他の科より少しは接触が減らせるのかもしれないよ」



「ヒト、以外?」



「これの事、だよ」

そう言って男性教師は説明資料に手を伸ばして指した。



―――――竜騎兵?



「まあ、“騎兵”なんて仰々しい名前が付いているけど此処最近の御時世じゃあ、国土防衛の軍務的な側面より、物資輸送等の宅配業者的な側面が強過ぎるのが難点だけどね」

だから伝統は在っても今は人気無くて閑古鳥、なんて困った顔をしながら男性教師は呟いている。

若しかして、この教師――――。



「渋っていた理由、貴方が担当だから……ですか?」




「うん。他の場所なら兎も角、監督官を務める僕がこんな場所で君に勧めちゃ、他の科の先生方に悪いでしょ?」



そう言えば、前世で風の噂に聞いた事がある――――ヒトと積極的な交流の在るモノが居ると。

理由までは解らなかったが、兎に角居ると言う事実自体は知っていた。



―――――何の得があるのやら。



よくヒトの御伽噺で世界最強と謳われる龍は、傍若無人にも等しい自由を謳歌している生物と見られる事も有るが、その実、ホンモノは意外と義理堅い奴が多い。

多分、ソレも遥か昔に受けた恩義や契りと言ったモノを大事にしているのだろうか。




「成程」


まあ、その口車に乗るのも悪くは無い。

どうせ代案は無いんだ。私の気が冷めて変わらない内に、この白紙の調査表へ“竜騎兵それ”と記入した後、紙を折って中身を見せない様にする。

別に見られても構わないし、何も疾しい事も無いがそれが規則だ。



「……お待たせしました」


そして、遅れに遅れた最後の一人が漸くの提出。

予定時間が過ぎているにも拘らず、男性教師は相変わらずニコニコと「有難ね」なんて言っている始末――――全く、何処までもマイペースなヒトだ。




男性教師の言動から察するに競合率はかなり低い筈で多分希望すれば入れると考えられる。

後は精々相棒パートナーと成る子がヒト社会に染まり切った変な子じゃない事を祈ろうか。






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