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Prologue

私の前世は龍だった。

勿論、そんな事を言っても誰も信じてはくれないし、小さな子供が考えた絵空事の戯言で終わるだろう。



但し、他の子に比べた発育の速さには集落の話題に上がった。

それが私にとって前世に培ったチカラの継承の上で成り立つ証拠だとしても、彼等はきっとソレを認めないだろう。私だって当事者でなければ、信じたくはない。と言うか、当事者でも夢であって欲しいと思った位だ。






ちなみに前世の私は、何不自由なく自然と共生していた。

勿論、食物連鎖に君臨する都合上、生きる糧として獣を喰らった事は有る。だが、不要な殺生はしなかった。



ヒトも龍神様と崇め、祀り上げた。

その意味や魂胆は、此方にとって理解の範疇に無いものであったが、取り敢えずは互いに不可侵の領域を作り、互いを尊重し合っていた。



なのに―――――。



ヒトと言う種がどんどん生活圏を拡大し、遂に私の住む森にまで到達した。

段々扱いも不遜になり、遂にヒトは彼等の先人が自ら定めた不可侵と決めた領域を超え、動植物に対し無秩序な暴虐の限りをし尽してしまった。



理由は、冷静な今なら解っている。

あの頃、村々は干ばつに苦しみ、食べ物に餓えていた。丁度彼等の暮らしも安定し、人口も順調に増加していた時からの突然の転落――――だからこそ、そんな結果に繋がったのだろう。



唯、当時の私は冷静さを欠き、その呆れ果てた無秩序ぶりに激高し、感情の命ずるままに村人の幾人かを無慈悲に屠った。

それからだ。聖龍から邪龍と蔑視されるようになったのは。




其処から始まったのは単なる生存競争だ。

狩人と私。

幾戦の果てに私はそれに敗れ去っただけに過ぎない。




―――――唯、今の私のヒト嫌いは其処に起因するのだが。


そもそも殺された相手を好きになるモノが居る訳も無いだろう。

運命の悪戯も残酷だ。本来は輪廻転生に於いて、記憶など継承するモノでも無いと言うのに。



現世の父と母。

長い間子供が出来なかった為、私が生まれた事を喜び、己で出来得る限りの愛情を全て注いでくれた。



だが、私は素直に成れなかった。

有体に言えば現在進行形で無愛想な子だ。



チカラは有っても、継承自体が私にとっては苦痛だ。

何故新規では無く、こんな中途半端なカタチで転生したのだろうと自分と周囲を恨んだ。故に真面に意思疎通を親密に図った事も無い。精々上辺の付き合いが限界だ。




だからこそ、私は友達も作れなかった。

寂しくも無かった。

決して強がりではない。周囲からの評価は芳しいモノでは無かったが、何か特別な感情も湧く事も無かったのだけは、幸いした。





唯、頭は良いと言う事で両親の強い勧めも在り、生涯を掛けて文字通り必死に貯めた貯蓄を殆ど切り崩す事で王都の学院に入れる事になった。


才を埋没させるのは惜しいとでも言うのか。それとも、愛娘には幸有れと願っての事だろうか。

真意は私に推し量れるモノではない。だが、多分後者の気持ちが強いのだろうと言う事は両親の言動から推察は出来る。


―――――貯蓄など、傍目から見ても判るほど無気力な私の為に使わなくても良いのに。


それが私の素直な気持ちだ。


私が生まれた後、数年後にきょうだいが出来た。

あの子は、私と言う壁が当初から存在しているからこそ、私程に期待はされない。勿論働き手と言う貴重な労働力そんざいとしては期待されてはいるが。


先に生まれた、そんな単純明快な理由も後押ししているのだろう。

余程チカラが無いと判断されない限り、家の後継は長子と大体相場が決まっている。


勿論、男児が優先され、女児の場合は嫁入りがあって後継と見なされない場合も無い訳では無いが、私の家柄では余程の出会いが無い限り“玉の輿”も無いだろう。

そもそも子供自体を授かる事が難しいと諦めかけていた頃の第1子だ。後にもれなくもう1子、なんて保証も無い。


何より、私はあの子と比較すれば性別など問題視される事も無かった。

自惚れではないが、“成り上がり”を期待出来る素地が私の方が継承分だけ部が有ると言う事だ。辺境出の田舎者が中央と持て囃される学院に入れると太鼓判を押された――――それは多分、魅力的なのだろう。……私には理解出来ない思考だが。


故に私に投資するのだろうか。埋没されるには惜しい才を持つ我が子に相応しい舞台を用意したとでも言うつもりか。


我が子に幸あれ――――。

打算ではない無償の愛情から出た行動の結果と言う事自体は理性的な部分では解る。だが、両親の思惑には悪いが、私にとってとても迷惑な話だ。


私はこの村から出て行く気は無かったのだが、所詮は子供。一々決まってしまった事象を覆せる程のチカラも権限も無い。

だから、仕方が無いと諦めて渋々従う事しかなかった。選択肢には自分自身で命を絶ってこの世から消える手も無い訳では無いが――――ソレは、“生を受けた者はその生を全うしなければならない”と言う私の前世から続く矜持に反するから行動に移す気も無い。



―――――何が変わる訳でも無い。唯の浪費だ。


私は何の感慨も湧かないまま、王都へと赴く。

其処で得るモノなど何もないと言うのに―――――。


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