表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/394

転生王女の帰還。(2)

 

 私の周りに個性的な人が多いのは、今に始まった事ではない。

 ラーテ一人増えたところで、変わりない。大丈夫、大丈夫。どんまい、わたし。


「ローゼマリー様?」


 どうしたの? と言いたげな目で見つめられ、乾いた笑いが溢れた。


 どうしたの? はこっちのセリフだ。どうしたんだ、クラウス。いつの間にそんな取扱注意の危険物になった……いや、それは前からか。危険の種類が変わっただけで、危険物だったのは前からだわ。


「なんでもないわ」


 頭を振ると、クラウスは不思議そうな顔をしながらも再び歩き始めた。

 そういえば、何処かに案内してくれている途中だったんだっけと思い出し、その後に続いた。


 随分と端の方まで行くんだな。

 方向的に温室へと向かうのかと思いきや、途中で道を外れた。このままでは、屋外に出てしまう。


「クラウス……いったい、何処に行くの?」


「マリー様!」


 クラウスを見上げた私の声に被せるように、女の子の声がした。

 そちらを見ると、小柄な少女が駆け寄ってくる。


 小麦色の肌をうっすらと上気させた彼女は、蜂蜜色の瞳を輝かせていた。少し伸びたアッシュグレーの髪が、肩口で揺れる。


「おかえりなさいませ、マリー様!」


「リリーさん!」


 駆け寄ってきたのはクーア族の少女、リリーさんだった。


 私は両腕を広げて待ち構えると、彼女は少し躊躇してから、私の腕の中に飛び込む。

 細身の体をぎゅっと抱きしめると、控え目ながらもリリーさんも抱きしめ返してくれた。


 出迎えようと思っていたのに、私の方が出迎えられてしまった。

「ただいま帰りました」と笑うと、リリーさんも嬉しげにはにかんだ。


 出会った当初より、随分と表情豊かになったなぁ。


「ネーベルに到着していたんですね。皆一緒ですか?」


「はい。薬や道具の移送や植物の植え替えがあるので、何人かは行き来しておりますが、最終的には全員来る予定です」


 それは嬉しい誤算だ。半分以上の人は村に残ると思っていたけれど、全員来てくれるのなら頼もしい。


 でも村がなくなってしまうのかと思うと、複雑な気持ちだ。

 私の行動によって、沢山の人の人生が変わっている。後悔はしていないけれど、改めて責任重大だと感じた。


「マリー様?」


 考え事をしていた私は、リリーさんの気遣うような声で我に返る。


「お疲れなんですね。少しおやすみになった方が……」


「ううん、違うんです。少し会わない間に、リリーさんが綺麗になったなって思って」


 私がそう言うと、リリーさんの頬がぽぽっと赤くなる。

 実際、リリーさんは綺麗になったと思う。元々端正な顔立ちをしていたが、表情が豊かになった事で何倍も魅力的になった。


「そんな訳ありません。マリー様が村で料理を振る舞ってくれて以来、食欲が増加してしまって太ったくらいです」


 確かに、前よりも肉付きがよくなった気はする。

 でも、リリーさんは前が細すぎたのだ。今だって標準よりは細いくらいだし。健康的になった分、年相応の美人に近づいている。私の食育(?)の成果だと思うと誇らしい。


「それに、綺麗になったのはマリー様でしょう」


 リリーさんは少し体を離して、私をじっくりと眺める。


「村で一緒に生活していた時も綺麗な方だって思っていたけれど、更に磨きがかかりました。本当に、お姫様なんだって……あ、マリー様なんて馴れ馴れしく呼んじゃ駄目ですよね。王女殿下とお呼びするべき……」


「泣きますよ。それ実行したら、本気で号泣しますからね」


 少し寂しげに表情を陰らせて言うリリーさんに、私は食い気味に抗議した。

 ぎゅっと両手を握ると、リリーさんは驚いたのか目をパチパチと瞬かせる。その後、花開くように笑った。


「じゃあオレも、そのままでいいか」


「却下。不敬罪で投獄されたくなければ、王女殿下と呼んでください」


 リリーさんの背後からひょっこりと現れたのは、クソガキことロルフだ。


「なんでリリーは『マリー様』でよくて、オレは『王女殿下』なんだよ!?」


「心の距離ですね」


 秒で却下するとブーブーと文句を言っているが、貴方の呼び方『ブス』だからね。良い訳ないだろ。


「アンタらは本当、仲良しねぇ」


 いつの間にか来ていたヴォルフさんは、呆れ混じりに呟く。

 それから、私の背後に立つクラウスに向けて話しかけた。


「マリーを連れてきてくれたのね。ありがとう」


「お前の為ではない。ローゼマリー様が喜ばれるだろうと思っただけだ」


 クラウスはフンと鼻を鳴らし、ツンデレじみたセリフを言った。

 そっか。私がクーア族の皆の事を気にしていると思って、案内してくれたんだな。


「ありがとう、クラウス」


「勿体ないお言葉です」


 ヴォルフさんと似たような言葉をかけたにも拘らず、満面の笑みを頂きました。

 変わり身の早いクラウスに、ヴォルフさんは怒るのではなく笑っている。クラウス、君はもうちょっと、色んなものを包み隠した方が良い。


「そういえば聞いたわよ、マリー。アンタ、凄く面白い案を出したのね。薬の研究や教育も視野に入れた医療施設なんて、夢のようだわ!」


「私は単に思いついた事を口にしただけで、細かい部分は丸投げの素人ですよ。実現するのは皆さんのお仕事になります」


「もちろん、喜んで参加するわ」


 ヴォルフさんだけでなく、リリーさんやロルフも目を輝かせている。お医者様の卵は、順調に育っているみたいだ。


「そういえば、施設はこの辺りに建てる予定なんですかね?」


「別の場所のようよ。この辺りの一部を、薬の材料である植物の栽培場として開放してくれる予定らしいわ。今は土を入れてくれているところね」


 城の敷地内につくるのかと思いきや、病院建設予定地は別にあるらしい。一般市民にも開放する予定だから、城下町につくるのかな?

 それにしても、植物の栽培場か。ちゃんと機能してくれるといいけど。


「植物の種類によっては、場所を変えないと根付かないですよね。明日は父に会うので、至急、候補地を検討してもらえるよう要請しておきます」


「もう動いてくれているみたいよ。でも、急がなくても大丈夫みたい」


 さすが父様、仕事が速いな。

 それにしても、急がなくて大丈夫とはどういう事だろう。高地にあった全ての植物が、王都の環境に適応出来るとは思えないのに。


 私の疑問を表情から読み取ったように、ヴォルフさんは建物から外へと顔を出した。誰かを手招きで呼んでいるようだ。


「なんでしょう?」


 ひょっこり顔を出したのは、ローブに身を包んだ細身の青年。植木鉢を両手で持った彼は、私を見て目を丸くしている。


「あ、王女様。お帰りなさい」


 眉を下げて、へにゃりと笑うのは地属性の魔導師見習い、ミハイル・フォン・ディーボルトだった。

 ほっこりとする笑顔に癒やされながら、「ただいま」と返事をする。


「凄いのよ、彼。どんなに扱いの難しい植物でも、簡単に育てちゃうんだから」


 ヴォルフさんは、ミハイルの首を引き寄せるみたいに肩を組んだ。人とのコミュニケーションが苦手なミハイルは、目を白黒させているが、嫌がっている様子ではないのでそのままにしておく。


 そういえば、地属性の魔導師の力って、人間の治癒力を高めるだけじゃなかったね。植物の成長を早めたり、手助けしたりも出来るんだった。

 ミハイルがいてくれれば、百人力だ。


 ワイワイと楽しげに話すヴォルフさんやロルフ、ミハイルを見ていると微笑ましい気持ちになる。

 魔力持ちとして、人と関わる事を怖がっているフシがあるミハイルだったが、どうやらクーア族との相性は抜群のようだ。


 ふと、魔力持ちという単語から連想して、ルッツとテオの顔が頭に思い浮かぶ。

 彼らは今頃、何をしているんだろうか。私が辺境の砦に出発する前から忙しそうにしていたけれど、用事は片付いたのかな。


 あとで様子を見に行ってみようと、胸中で呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] っぱリリーとマリーやな( ´ ▽ ` )
[良い点] そうか、ミハイルくん緑の手持ちか
[良い点] クラウスの残念ぶりに益々磨きがかかっていることが何よりの喜びになっている今日この頃であります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ