悪党が死ぬ
おう、来やがったか小僧
あ?癌だとよぉ、この俺様が
手前ぇこの野郎、俺様の前でバカ笑いたぁいい度胸だなおい
似合わねぇ?はんっ!!んなこたぁ俺が一番分かってらぁ
俺様が癌で死ぬ?ザケンじゃねぇ!!病気なんぞで死んでたまるかっ!!
おう、孫、手前ぇ分かってんじゃねぇか
男が、悪党が死ぬなぁ惚れ込んだ女のためだけに決まってんだよ
こちとらぁ世間様にゃあ言えねぇようなこともやった
汚ねぇこともやった、地獄逝く覚悟はとっくにできてらぁ
だがなぁ、いや、だからこそだ
病院のベットの上で死ぬ?冗談じゃねえ!!
悪党が真っ当な人間みてえに死んじゃあならねぇ
医者の野郎の話じゃあ半年持ちゃあいい方だとよ
小僧、そこの上から二段目の引き出し開けろ
そこに封筒があんだろ?そいつぁ遺言書だ
真村の奴、知ってっだろ?弁護士の、あいつにも渡してある
そいつにゃ俺様が貯め込んだ隠し財産の在処を書いた
欲しけりゃ探せ!!俺様の全てをそこに置いてきた!!
……いけねぇ、死亡フラグ建てちまった
別のフラグ建てとかねぇとな、おい、孫、こっちこい
もっとこっちこい、耳貸せ、実はな……
そして一月後、じじいが逝った。
108歳、煩悩の数だけ生きた。
そしてじじいの遺産探しが始まった。
しかし俺は不参加、じじいの遺言で真村の先生と成り行きを見守ることになった。
「誰が見つけるかねぇ、あれ」
「灯台下暗しにもほどがあるからなぁ」
真村の先生と羊羹をお茶請けにのんびりと茶を啜る。
まあ気付くやつはうちの一族15人の中にはいないだろう。全員頭固いし。
「気付くと簡単なんだけどねぇ?」
「あれ考えたのじじいと先生だっけ?えげつねぇな」
「いやいや、優しくないかね?」
「遺言書15通全部の中に小切手が入ってるんだよ?」
「文字通り、遺言書の紙の中なんざ誰もわからねえよ」
「あれ高かったんだよ?」
「特殊加工に七桁使って、紙漉くのに六桁だろ」
「お陰で遺産の二割がとんだし」
「まだ八割あんのかよ……」
『手前ぇは不参加だ』
『手前ぇは俺様に全く似てねぇ、だからこそ手前ぇにやる』
『あいつらは敗者復活戦だ』
『金が入ったら全部使え、一銭として残すな』
やれやれ、死んでからも孫をこき使うとは、とんだ悪党だ。
あれ?何書いたんだっけ……