ある夏の日
誤字・脱字等修正しました。
ストーリに変更はありません。
とうとう幻覚を見るほどまでに、自分の体が弱ってきたのか・・・?
そう思いながら、突如として現れた侵入者から視線をはずせなかった。
「ヤマウチアキラ様ですね?」
突然現れた金髪碧眼の少年はそう言いながら、俺に向かってにっこりと微笑んだ。
俺は返事ができないでいた。
別に少女と見紛うほどの少年の可愛らしい風貌に見とれていた訳でも、喪服のような黒いスーツに黒いネクタイを、なぜか蝶々結びに結んでいる少年の奇抜さに目を見張った訳でもない。
もっと驚くことがその少年の背中にはあった。
金髪碧眼の少年は五階にあるこの病室に、窓から侵入してきたのである。
そう、少年の背にある、漆黒の翼をはためかせて・・・
「死神のアルフと言います。初仕事なので至らない点があると思いますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
ベットから起きようとして固まった姿勢のままの俺をよそに、アルフと名乗る少年は新入社員の挨拶のように丁寧にお辞儀をした。
「しに、が、み?」
俺は擦れた声でその単語を反すうした。
「はい」
アルフは大きくうなずき、死神という陰気な言葉に似合わない元気な返事をした。
「そうか・・・俺、死ぬんだな」
俺は体の力を抜き、起こしかけていた上半身を再びベットに沈め、その言葉を静かに受け入れた。
このアルフという少年が本当に死神だとしても、薬漬けでイカレテしまった俺の脳みそが見せている幻覚だとしても、どちらにしろ、いよいよ自分の死期が近い事は確かだろう。
一年前、病が判った時は、ちょうど入籍しようと準備していた時だった。
幸せ絶頂の中で受けた診断は”余命半年”。
それでも、何度か手術を受け、薬で症状を抑え、騙し騙し命を繋げてきた。
最近は一人で思うように歩く事もできないほど弱ってきたこの体。
死が確実に近づいてきているのは、自分が一番よく判っていた。
ただ・・・
ただ、気がかりなのは俺の何よりも大切で、愛しい存在。
「若菜」
無意識に愛しい人の名を呟く。
この病院の院長の娘で医者でもある若菜は、今年の春から小児病棟の担当になった。
子供好きの若菜の事だ、午後のこの時間は遊戯室で子供達に本を読み聞かせているかもしれない。
子供達に囲まれて、春の陽だまりのような柔らかな笑顔で笑う彼女を思い浮かべる。
「あの・・・。大丈夫ですか?」
黙りこんでしまった俺を心配してか、アルフがベットの近くに寄ってきた。
「あぁ。大丈夫だ」
ベットから体を起こしてアルフを見れば、碧い瞳で心配そうに俺を見つめている。
コロコロと表情を変えるアルフは、とても幻覚とは思えない。
アルフの人懐っこい雰囲気も手伝ってか、俺はあっさりと少年の姿をした”死神”の存在を受け入れていた。
「それで?お前は俺を迎えにきたのか?」
俺の問いにアルフはふるふると首を振る。
「僕はあなたを迎えに来たわけではありません」
”じゃあ何しに来たんだ?”
口には出さなかったが、顔には出てたのだろう。アルフは言葉を続けた。
「僕はあなたの願いを叶えるために来たのです」
と。




