第2章:日常と非日常(1)
ゆっくりとバイト先であるファミレスに戻りながら、
暗い夜道を二人で並んで歩きながら……。
俺はクレイドルからまた色々と説明を受けていた。
「人間は呪力や魔力をそのまま扱えるわけじゃねぇ。
体の中にある回路みたいなのを通って人間用の力に変換されてから、初めて使用できるようになるんだ。
天界にいる連中……天界者の中には、
その人間用の呪力、魔力のことを
粗悪品だとか、
不純物だとか、
薄めた分弱い力だ……とか言ってる奴等がいるが……
俺に言わせりゃそんなのは自分達の方が優等種族だっつう古い考え方が思わせてるにすぎねぇ。
実際は大した違いはねぇから安心しろ。」
「……聖戦……だっけか?
その戦いを前に悪魔や天使、神が契約者を作ることがあるっていうのは分かった。
……でもどうしてだ?
そんなに重要な何かがその戦いにはあるのか?
……そしてわざわざ人間なんかと手を結ばずとも悪魔同士で徒党を組んだり出来るだろ?
どうしてそれをしない?」
「悪魔同士で徒党を組む?
出来ねぇな、そんなこと。」
クレイドルは即答する。
「お互いを信用なんかしてねぇんだよ、悪魔や天使ってのは。
ましてや神同士で手を組むなんてのは正気の沙汰じゃねえ。寝首をかかれかねないからな。」
「聖戦は次の神を決める大切な大切な戦いだ。
自分のことを第一に考えて行動しなけりゃならねぇ。
そんな状況下では裏切られるなんてことはざらにあるのよ。
最後の8人になるまで戦いは続くんだ……
そいつらが次の神になるわけだが……、徒党を組んでいたせいで残ったのが9人や10人になったらどうする?
仲間割れが普通に始まるんだよ。
だから誰も組もうとなんてしない。」
「それに人間と手を組むことで生まれるメリットもある。」
「……メリット?」
「さっき人間用の力があるっていっただろ?
呪力や魔力を持ってない人間は、契約してる天界者から呪力、魔力を送ってもらうしかねぇ。
回路を通った天界者用の力は、人間用の力に変わる過程で数倍に膨れ上がるんだよ。」
「だからほんの少し人間に力を送るだけで、1度の戦闘を十分に戦ってくれる仲間が出来る。
そしてもう1つ……これは俺様の持論だが……」
一息入れた後、クレイドルは高らかに言った。
「悪魔や天使と契約するほどの人間は、そこら辺の悪魔や天使よりも強い。ずっと強い。
______覚悟が違う。
命を危険に晒してまで叶えたい願いのために戦ってくれるんだ。悪魔同士で共闘するよりもずっと安心できるさ。」
「そういうものか……
……まぁ、聖戦についての話は分かった。
それは置いとくとして、その膨れ上がるっていう力は大体何倍くらいで膨れ上がるんだ?
具体的に知っておきたい。
必要以上に力を分けてもらうわけにはいかないんだろうが、必要以下でもこっちが困るだけだからな。
……お前の言う通り、こっちは命を懸けてるんだから。」
「ああ……俺様もそのくらいがめついてる契約者のほうが安心して任せられるよ……。
倍率は人それぞれだ。
具体的には魂に蓄積されてる思念の量によって変わってくる。
その量に応じて魂には魔力や呪力に対する耐性が出来るんだ。耐性が高ければ高いほど、倍率も上がる。
お前の場合は魔力耐性が半端なく高いんだろうな……魔力を送れば数十倍……いや、特異者なんだから数百倍、数千倍になってもおかしくない。我ながら本当にラッキーだ。
フハハハハハハハハッハッハ!」
不意に立ち止まり、下を向いて考える××。
「…………え、それって不味いんじゃないか?」
「……何?」
相手が立ち止まったことでクレイドルも立ち止まり、××の顔を見て尋ねる。
「何が不味いんだ?」
「俺は魔力耐性が高いはずなんだろ?
それに比例して呪力耐性は低いんじゃないか?」
「…………そうなるだろうな。」
「悪魔って魔力が少ないんじゃなかったのか?」
「……………………」
「俺様としたことがああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫するクレイドル。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや。
待てよ、そうだ、お前は特異者だ。
他の悪魔や天使、神に取られるくらいなら俺様が契約してた方が得だ!」
「……そうか。ならいいんだ。」
「俺様はよくねえええぇぇぇぇ!」
再び歩き出しながら、侮蔑するような表情でクレイドルと会話を続ける。
「うるさい悪魔だな……ほら、もう着くんだから静かにしてろよ。……悪魔の声なんて普通の人には聴こえないんだろうけど。」
「ああああ……そうだなぁぁぁ……天界者の姿や声は耐性が高い人間にしか見えねぇし聴こえねぇよ…………
まぁ万一のことは考えて……耐性が高い奴でも見えない工夫はするから安心しとけ……」
『ガチャ』
裏口の扉を開けて中に入る。
「ただいま帰りました~。」
「ガー……ングッ……ガー……ガー」
やけに大きい店長のいびきだけが俺を迎える。
テーブルに突っ伏したまま寝ているとは……威厳も糞もない。
「店長?
まだ営業時間中ですよ?」
『ガチャ』
駒場さんが休憩室に入ってくる。
「休憩入りまーす。……って、新入り君!
帰ってたのね!
お帰りなさい、ご苦労様。……でもちょっと時間掛かりすぎじゃない?」
「お疲れ様です、駒場さん。
いや~……ちょっとそこで事故があったみたいで。
野次馬に紛れて見てたら遅れちゃいました、スミマセン……」
軽く嘘をつきながら言い訳をする。
(こういう所がこの男の本質的な所に繋がっているのかもな……)
その様子を見ながらクレイドルは考えを巡らせる。
「……全く、店長ったらまたお酒飲んで寝ちゃって……後は私がやっとくから、××君はフロアお願いね!」
ウインクを飛ばしてくる駒場さんを前に、
「はーい……」
と、軽ーく返事をしながら開けっ放しにされていた扉から部屋を後にする。
水曜日は営業時間いっぱいまで入れていたはずだ。
10時まで後3時間弱……
(お前、考え読み取れるんだろ?
どうせ周りには聞こえないんだし、バイト中暇だから説明してないこととか話してくれよ。)
「……ったく。めんどくせぇな……。」
結局その後、約3時間に渡ってクレイドルはぽつりぽつりと説明してくれた。
聖戦の具体的なルール、日時、俺が手に入れた力のこと、力の扱い方……
______そして、神殺しのやり方についてなんかを。