二人
「子供の頃はもっといろんなものがキラキラして見えた気がするんだぁ。」
綾辻翠は公園で、風で揺れるブランコを眺めながらそう呟いた。
「今は違うの?」
「そうだね。昔ほど、キラキラしてない気がする。もっと毎日ワクワクしていた気がする。」
「…そう。」
きっとその”昔”はつい昨日の事だっただろう。
などとと、雪橋悠は考える。
彼は彼女の赤く晴れた目元を見てそんな事を思う。
口にはしない。
「なんだか目に映る風景が、みんな色あせた気がするんだ。」
「背が伸びたから、とかじゃなくて?」
「うん。たまにね、こう、しゃがんでみて、いつも見る風景を眺めてみるんだ。たしかに、普段見てる風景と違う感覚があって、そこになんだか感じるものがあったりするよ。でもね、違うの。昔みていた色とは、違うの。」
例えば記憶色の話とか、例えば思い出が思い出されるたびに創作されている産物だという話だとか、そういう諸々が彼の頭をよぎった。
よぎったが別に口にしない。
「散歩の時はよくしゃがんでるの?」
「よくは、しゃがまないよ。たまにだよ。そんなに頻繁にしゃがんでたら変な人じゃない。」
あははっと彼女は笑った。
彼女の笑ったのを、彼はずいぶん久しぶりに見た気がする。
とりとめのない話をした。
話は、彼女がとつとつと語る、彼女の話。
彼はそれを肯定するでもなく、否定するでもなく、補足するでもなく、ただ彼女に話を促すように短い質問と、相槌を挟むだけだった。
小さい頃大切にしていた玩具の話。
それをなくした時に泣いた話。
花を育ててうまく行かなかった話。
とりとめのない話。
その話その物には大した意味なんてなかっただろう。
意味があるとすれば、意味のない話をし続けたことにこそ意味があるのだろう。
と、そんな意味のない話を2時間くらい続けて、日が沈んであたりが暗がりに沈み始めて、彼女は一息つく。
トンっと、彼女は自分の頭を彼の肩にもたせかける。
「ね、ふられちゃったんだ、私。」
「そっか。」
「うん。」
彼女はそのまま静かに泣いた。
彼は彼女の重さと、体温を感じながら、みじろぎ一つせず、濃紺に染まる空に星を探していた。
「ごめんね。」と、しばらくしてから彼女が顔を上げて言った。
「なんのことやら。」と、彼は肩をすくめて言った。
アハハと、まだ濡れる目元を拭いながら彼女は笑った。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
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